シャドウスパイラルの未踏破区域⑧
次の扉をくぐると、セレフィナとグレンの目の前には、一瞬で息を呑むような光景が広がった。空はまるで生きているかのように脈動しており、濃紺に輝く雲の間を閃光が走る。その光は稲妻ではなく、何か巨大な意志が放つ脈動のようだった。深遠な鳴き声がどこからともなく響き、それが地鳴りのように足元まで伝わってくる。
「竜…だな。」グレンが、上空を飛び交う巨大なシルエットを見て呟く。その声には緊張が滲み出ていた。
地面は荒涼としており、砂や土というよりも、削り取られた岩の欠片の集まりのようだった。ところどころから立ち昇る黒い煙は、触れれば命を削られるような禍々しさを漂わせている。遠くに連なる山々は不自然なほど鋭利で、その頂きには影のように巨大な存在がうごめいていた。
「ふむ、次元そのものが奴らの手中にあるわけね。」セレフィナは冷ややかに呟きつつも、視線は興味深そうに空を泳いでいる。その表情は、挑発とも余裕とも取れるが、彼女自身がこの風景の中でまったく動じていないことだけは明らかだった。
「次元を支配する存在相手に、いつもこんな感じで冷静でいられるのか?」グレンが不安と半ば尊敬を込めて問いかけた。
「慣れよ、グレン。あとは好奇心の問題ね。」セレフィナが肩をすくめて答えると、グレンは思わず眉をひそめた。
「好奇心って…遊園地にでも来た感覚かよ。」
その瞬間、地面が大きく揺れ、近くの岩塊が音を立てて崩れ落ちた。巨大な影が近づいてくる。
「おしゃべりはそこまでだ。」セレフィナの声が一層鋭くなる。
目の前に現れたのは、まさにこの次元を支配する象徴ともいえる黒い竜だった。その姿は圧倒的で、全身を覆う鱗は金属のような光を放ち、空気を裂くたびに周囲のエネルギーが狂乱する。竜の目は深淵を覗き込むような冷たさで、彼らを見下ろしていた。
「ここは我が領域。弱者が踏み込む場所ではない。」竜の声は低く、重く、言葉というよりも天地そのものが発している響きに近かった。
「ほう、自己紹介ご苦労。」セレフィナは片眉を上げながら、不敵な笑みを浮かべる。「だが、その領域云々ってやつ、我にはまるで関係ない話だな。」
グレンはその横顔を見て、内心で思わず突っ込む。おい、もう少し空気読んでくれよ…これ、たぶん俺が死にそうになるパターンだろ。
竜が一瞬、驚いたように目を細めた。そして次の瞬間、咆哮が轟き、その力は空間を震わせ、風を引き裂いた。
「ふん、人間ごときが。」
「人間がどうとかは置いといて、我を侮るのは感心しないな。本気で来い」セレフィナは冷ややかに微笑む。その口調には挑発的な余裕があり、竜の威圧感をものともしない態度がはっきりと表れていた。
その挑発に竜の表情が硬直し、黒いエネルギーが周囲を覆い始めた。
「セレフィナ、本当にそれ以上煽るのはやめてくれ。俺のメンタルの寿命が持たない。」グレンが小声で言うと、セレフィナはちらりと彼を見て、「大丈夫。どうせ勝つんだからさ。」と軽く言い放った。
そして、竜がその巨大な爪を振り下ろすと同時に、セレフィナはすでに次の行動を開始していた。その動きは迅速で、冷静そのものだった。
「来るがいい、支配者よ。手加減はしてあげないけどね!」その声には確かな自信と、ほんの少しの楽しげな響きが混ざっていた。
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