シャドウスパイラルの未踏破区域③
アンデッドの支配者が放つ怨霊が広間を埋め尽くす。その姿は形を持たぬ霧のようでありながら、冷たくざらつく悪意が肌にまとわりつくのを感じる。重苦しい闇がゆっくりと、しかし確実に三人を飲み込むように広がっていき、息苦しさが増していった。
リリィは盾を構え、精霊の力を注ぎ込んだ防御の壁を形成する。怨霊たちはその壁にぶつかり、次々と霧散していくものの、その数があまりにも膨大だ。彼女は眉間にしわを寄せ、額にじわりと汗が浮かぶのを感じた。
「くっ…」思わず歯を食いしばる。壁越しに怨霊のざわめきが耳にこびりつき、不気味な笑い声や囁き声が、まるで直接脳に響いているかのようだ。
(こんな数…どうしてこんなことが可能なの?どれだけ防ぎきっても、終わりが見えない。これじゃまるで、私たちの命を弄ぶために延々と続けられているかのよう…!)
彼女は自分の中の恐怖を抑え込もうとする。震えそうになる手を無理やり握り直し、意識を集中させた。だが、防御の壁に押し寄せる怨霊たちの圧力は徐々に増し、じりじりと後退させられていくのがはっきりと分かる。
「数が多すぎるわ…このままじゃ防ぎきれない!」息を詰め、限界に近い自分の状況を呟く声には焦燥が滲んでいた。
彼女の視線の先、闇の中から新たな怨霊が湧き上がる。その姿を見た瞬間、胸の奥で冷たい絶望がじわりと広がる。それでも、ここで諦めるわけにはいかない。リリィは喉の奥で押し殺すように息を吐き出した。
「ならば攻めるのみだ!」グレンは剣を構え直し、怨霊の群れに突進していく。彼の剣が闇を裂くたび、怨霊が一体ずつ消滅していくが、それでも次から次へと新たな怨霊が現れる。
その様子を見たセレフィナは、静かに杖を構え、低い声で呟いた。「これではキリがないな。そろそろ一掃させてもらう…」
彼女が杖を大地に突き立てると、周囲の空気がさらに重く変わり、まるでその場の全ての魔力がセレフィナに引き寄せられていくようだった。冷たい光が彼女の瞳に宿り、その圧倒的な魔力の気配にグレンもリリィも思わず息を呑んだ。
「――冥府の鎖よ、全ての魂を捕らえ、静寂へと導け…《魂縛の結界こんばくのけっかい》!」
セレフィナの一声と共に、広間全体に漆黒の鎖が無数に現れ、怨霊たちを次々と絡め取っていく。怨霊たちは悲鳴を上げながら鎖に引き寄せられ、その存在が薄れていくように消え去っていった。鎖はまるで意思を持っているかのように、周囲のあらゆる闇を吸収しながら広間を静寂に包んでいった。
やがて最後の怨霊が消え、闇の支配者だけが残された。
「見事だ…だが、それで終わると思うな。」支配者は不気味な笑みを浮かべ、玉座の前に立ちふさがるように立ち上がった。彼の鎧から放たれる暗黒の力が一層増し、まるでその場の全てを飲み込もうとするかのようだった。
「そちらこそ、まだ続けるつもり?」セレフィナが挑発するように微笑みながら一歩前に出た。その背中に感じられる圧倒的な自信に、リリィもグレンも勇気を取り戻すような感覚を覚えた。
支配者は低くうなり、闇の力を手に集中させると、大地が揺れるような衝撃が広間を走った。「ならば、我が力の全てを見せてやろう…!」
その言葉と共に、支配者は両手を広げ、闇のエネルギーを解き放った。広間が一瞬で暗闇に包まれ、視界が奪われてしまう。
「リリィ、グレン、私の指示に従って!」セレフィナの声がその暗闇の中で響き、二人は瞬時に彼女の方を向いた。
「了解!」グレンが剣を握りしめ、リリィも魔力を集中させながら、次の攻撃のタイミングを待った。
セレフィナは一瞬瞳を閉じ、次の一手を計算しながら、冷静に闇の支配者の力を見定めていた。そして目を開いた瞬間、彼女は静かに言い放つ。
「全てを終わらせる――覚悟しなさい。」
その言葉が、戦いの終結を告げるように響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます