シャドウスパイラルの未踏破区域②



次元の扉を抜けた先に広がっていたのは、まるで別の次元の世界だった。闇の中に、無数の星がきらめくような光景が広がり、異質な空気が漂っている。だが、その美しさにはどこか不吉な気配が混じっていた。




周囲を見渡すと、遠くには朽ち果てた街並みが広がっているのが見える。建物の壁はひび割れ、黒ずんだ苔がびっしりと覆い尽くしている。かつて繁栄したであろう街が、今では荒廃し、まるで生者が一人も存在しない異界のようだ。




「ここは……アンデッドに支配された街のようね。」セレフィナが周囲を慎重に見渡しながら言った。その声は低く、鋭く緊張感が漂っている。「次元が一つ低い世界、死と闇が支配する場所かもしれない。」




リリィは息を飲んで、辺りを見回した。「なんて不気味な場所なの……生気がまったく感じられないわ。」




グレンも不安げに剣の柄を握りしめる。「確かに……ここに生きた人間がいたとは思えない。だが、何かがいるのは確かだ。視線を感じる。」




三人が注意を払う中、どこからともなく低いうめき声が響き渡った。目を凝らして見ると、街の陰からゆっくりと現れたのは、腐敗した皮膚を持つアンデッドたちだった。彼らは無気力に足を引きずりながらも、三人を見つけた瞬間、何かに導かれるかのように一斉に近づいてくる。




セレフィナは微かに眉をひそめ、静かに杖を構えた。「ただのアンデッドじゃない……これほどの数と統制、ここを守る者がいるのね。」




リリィはその言葉に驚き、さらに慎重な姿勢を取る。「守る者って……ここに支配者がいるってことですか?」




「ええ、おそらく。単なる迷宮の一部ではなく、この次元に存在する支配者が私たちを排除しようとしているのよ。」セレフィナは低く呟き、アンデッドたちに視線を向ける。「でも、私たちはここに来たからには進むしかない。後戻りはできないわ。」




グレンはその言葉に気を引き締め、剣を抜いた。「やるしかない、ってことだな。よし、やってやろうじゃないか!」




そして、セレフィナが手をかざすと、彼女の周りに青白い光が渦巻き、魔力が高まっていく。その光がアンデッドたちに向けられると、彼らは一瞬ひるむように動きを止めたが、すぐに再び進んできた。セレフィナは冷静に詠唱を始め、リリィも後に続く。




「来るぞ!」グレンが叫び、アンデッドたちに向かって突撃する。




死と闇に包まれた異界の街での戦いが、いよいよ幕を開けた。






* * *






異界の街の奥深くに足を踏み入れるたび、暗闇から次々とアンデッドが現れ、三人を取り囲むかのように迫ってきた。腐敗した肉体からは不気味な臭いが漂い、彼らの空洞の瞳には、かすかに怨念のような光が宿っている。




グレンは剣を振りかざし、次々とアンデッドを斬り倒していく。しかし、倒しても倒しても湧き出るように次のアンデッドが現れる。




「キリがないな……一体、どれだけいるんだ!」グレンが焦りをにじませながら叫ぶ。




セレフィナは冷静に状況を見極め、目の前の敵を無数の魔法で一掃しつつも、微かに眉を寄せた。「ただの無限湧きじゃない……何者かの意志で送り込まれている気配がするわ。」




リリィもその言葉に驚き、周囲を見渡す。「まるで、誰かが私たちを試しているような……」




その瞬間、アンデッドの波が一時的に止まり、異様な静寂が訪れた。その静寂の中、街の奥から一際強力な魔力が流れ込んできたのをセレフィナが感じ取る。まるで、三人を導くように、その魔力は一つの建物――異界の宮殿のような崩れた城へと続いていた。




「どうやら、ここを支配する者が待ち構えているみたいね。」セレフィナが微かに口元を緩め、少し楽しげな光を瞳に宿す。「向こうも、歓迎してくれているようだ。」




グレンは深く息をつき、疲労を抑えつつ剣を構え直した。「なら、行くしかないな。ここまで来たんだ、逃げるわけにはいかない。」




リリィも魔力を込めた杖を握りしめ、決意を込めて頷いた。「ええ、ここで終わらせるためにも……」




三人は互いに一瞬視線を交わし、黙って廃墟の城へと歩みを進めた。城内に足を踏み入れると、内部はさらに異様な雰囲気を放っていた。壁には古代の文字が刻まれ、無数の蝋燭が青白い光を放ちながら並んでいる。まるで生きた者の侵入を拒むかのように、重々しい空気が漂っていた。




やがて、広間に辿り着くと、中央に異形の影が浮かび上がった。それはアンデッドをはるかに凌ぐ強大な気配を持ち、荒れ果てた王のように玉座に座っている。彼の身体は黒い鎧に包まれ、目は暗黒の光を宿している。




「この街の支配者、か。」セレフィナが静かに呟くと、支配者がゆっくりと立ち上がり、無言のまま彼らを見下ろした。




「ここに来た者たちよ……生ある者よ、なぜこの地に足を踏み入れたのか。」低く響く声が広間にこだまし、威圧感が辺りを包む。




セレフィナは微笑み、挑戦的な光を瞳に宿しながら前へと歩み出る。「あなたがこの世界を支配している存在ね? 我々はただ、通り道を探しているだけだ。」




「通り道、だと……?」支配者は冷笑を浮かべ、腕をゆっくりと振り上げた。「ならば、この地の力を示し、貴様らに永遠の眠りを与えよう。」




その言葉と共に、広間の空間がねじれ、闇の中から無数の怨霊が召喚され、三人に襲いかかった。




「みんな、気を付けて!」リリィが叫び、魔法で周囲に防御の壁を張る。




セレフィナはわずかに微笑み、杖を構えながら仲間たちに告げる。「さあ、遊びはここまでだ。本気で行くぞ!」

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