魔王、初ダンジョン



「まずは肩慣らしで、踏破済みの『シャドウスパイラル』ダンジョンへ向かうことにしよう。」グレンが地図を広げ、ダンジョンの位置を指し示した。「明日から始めるのがちょうどいいだろう。」






セレフィナは頷き、地図を見つめる。「ふむ、このダンジョンの特徴は何だ?」






リリィが冒険者ギルドで聞いたばかりの情報を思い出しながら話し始める。「『シャドウスパイラル』は一応、数年前に制圧済みとされているダンジョンです。けど、何度もダンジョン内の構造が変わることで知られていて……実際、制圧された後も再び現れる魔物がいるとか。おまけに、奥深くはまだ完全には探査されていないらしいんです。」






「つまり、ただの制圧済みってわけじゃないんだな。」グレンが慎重な表情で続ける。「入口付近は大したことはないが、奥へ進むほど奇妙な幻影や罠が多いと聞く。さらに、魔力に影響されて気配を消す魔物もいるらしい。」




セレフィナが目を細め、興味深げに微笑んだ。「つまり、何が出るか分からない面白さもあるわけだ。戦闘の腕もさることながら、知恵を試される場でもあると見たが、どうだ?」






リリィも頷く。「はい、だからこそ油断はできません。罠の解除もマッピングも任せてください。私は以前もこのダンジョンで任務をこなした経験がありますので、その時のデータを元に注意すべきポイントもある程度分かります。」




「いいな。」グレンが満足げに腕を組み、セレフィナとリリィを見やる。「このダンジョンで連携を確認しながら、お互いの動きを掴んでおくとしよう。俺は前衛で魔物を引きつける。何かあればすぐに声をかけてくれ。」






「分かった。」セレフィナは軽く顎を引いて同意しつつ、小さく微笑んだ。「どれほどの力が必要になるかは未知数だが、我もこの役割を楽しもうと思う。」






翌朝、朝もやに包まれた街を抜けて、セレフィナ、リリィ、グレンの3人は『シャドウスパイラル』ダンジョンへと向かっていた。足取りは軽やかでありながら、各々が今日の冒険に備えて鋭い目をしている。目の前に広がる暗がりの入り口は、まるで彼らを試すかのように不気味に口を開けていた。






「さて、ここからが本番だな。」グレンが慎重に周囲を見回し、リリィとセレフィナに目を向けた。「まずは俺が前に出る。リリィは罠の確認を頼む。そしてセレフィナは後方で魔法の準備をしておいてくれ。」






「心得た。」セレフィナは落ち着いた表情で、剣を軽く握り直し、まるでこの場が遊び場であるかのような微笑みを浮かべる。






リリィは手早く冒険者ギルドで仕入れた情報を元に進行方向を確認しつつ、ダンジョン内の罠に気をつけて歩みを進める。暗がりの中、彼女の集中力が研ぎ澄まされていくのが分かる。「最初の通路は特に罠が多いと言われています。ゆっくり進みましょう。」




しばらく進んでいくと、床に埋め込まれた小さな石が微妙に隆起していることに気づいたリリィが声を上げた。「ここ、見てください。踏むとスパイクが出る罠です。」慎重に周りを観察しながら罠の位置を確認していく。






「さすがだな、リリィ。俺一人じゃ気づけなかったかもな。」グレンが感心したように笑みを浮かべると、リリィも少し照れくさそうに笑みを返す。






しかしその瞬間、壁の奥から低い唸り声が響き渡った。影の中から、赤く光る目が浮かび上がる。魔物が姿を現し、牙をむき出しにしてこちらを睨んでいた。






「来たか。」セレフィナが小さく呟き、剣を構える。






グレンは前に出て盾を構え、仲間を守る体勢を取る。「セレフィナ、魔法で援護を頼む!リリィ、後ろに下がれ!」




セレフィナは落ち着いた様子で魔力を集中させる。魔力が杖に集まり、彼女の瞳が少し青く輝いた。「では、少し遊んでやるとしようか…『アイス・スパイラル』!」冷気が渦を巻き、凍りつく槍が次々と魔物に突き刺さっていく。




魔物は一瞬でその場に凍りつき、息絶えたように倒れ込んだ。






「すごい…」リリィが驚きの声を漏らし、セレフィナの力に感嘆の眼差しを向ける。「まるで、このダンジョンの主みたいな風格ですね。」




セレフィナは淡々と微笑む。「ふふ、これくらいで驚かれては困る。我はまだ、魔力を温存しているのだからな。」




セレフィナは淡々と微笑む。「ふふ、これくらいで驚かれては困る。我はまだ、魔力を温存しているのだからな。」






こうして3人はそれぞれの役割を確認しながら、さらに奥へと進んでいった。最初の魔物との戦闘が終わったことで、彼らの連携も次第に息が合い、互いの力量を認識する良い機会となった。そして、彼らの冒険は今まさに本格的なものへと進化していく。

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