2人への疑惑
進むごとに、セレフィナとリリィの実力が目の前に刻み込まれていく。グレンは、剣を握りしめながらふと感じていた違和感を意識せざるを得なかった。
セレフィナの魔法は一撃一撃が圧倒的だ。普通の魔法使いなら、あそこまで精密に攻撃を制御するのは至難の業だろう。そしてリリィも、罠の発見と解除の手際が見事で、まるで危険など存在しないかのように進行ルートを確保している。二人の動きは明らかに洗練されており、このダンジョンで初めて組んだ仲間とは思えない連携を見せていた。
「この二人…一体何レベルなんだ?」
心の中で自然と湧き上がる疑問が、思考を締め付ける。臨時パーティーとはいえ、相手のレベルを尋ねるのは礼儀に反する。普通、冒険者は自分の実力を示す“レベル”を他人に明かさない。無用な疑念や嫉妬、さらには過剰な期待を避けるためだ。何より、レベルは命の危険と引き換えに築き上げた経験の証。それを軽々しく問うことは、ある種の禁忌でもあった。
だが、彼の目の前で繰り広げられるこの力の差…明らかに常識外れだ。彼女たちがどれほどの経験を積んでいるのか、その断片だけでも知りたいと思ってしまう自分がいた。
「…いや、やめておこう。」
グレンは小さく息を吐き、気持ちを引き締め直した。彼が今ここにいる理由は、信頼し合って目の前の困難を乗り越えることだ。お互いを試すのではなく、ただ力を合わせ、進んでいくだけでいい。余計な詮索は、今は不要だと。
こうして、グレンは自身の葛藤を抑えながら、再び前方に意識を戻した。彼らの旅路は、次なる挑戦を迎えるべく静かに続いていく。
グレンは心の中で葛藤を整理し、セレフィナとリリィに向けて口を開いた。「すまない、少し確認してもいいか?次の階層に進む前に、もう一度役割分担を確認しよう。今回は肩慣らしと言えど、油断は禁物だからな。」
リリィが頷き、即座に反応した。「はい、グレンさん。罠の確認やマッピングは引き続き私が担当します。進行ルートや出口の位置も、地図に残しておきますので、迷うことはないかと思います。」
「助かる。そちらがしっかりしていると、俺も戦闘に集中できる」と、グレンは感謝の念を込めて言葉を返した。そして、セレフィナにも視線を向ける。「セレフィナ、君はどこまで魔法を使うか、ある程度の範囲はあるのか?」
セレフィナは小さく笑みを浮かべ、「ふむ、無理に力を隠す気はない。必要とあらば、全力でやるまでだ。だが、ただのモンスターに本気を出すほどではないさ」と余裕のある口調で答えた。
その言葉に、グレンは思わず苦笑する。彼女の自信には確かな理由があるのだろう。グレンの直感は、このパーティーの中で最も異質な存在がセレフィナであることを告げていた。
一行は階段を下り、次の階層へと足を踏み入れた。その瞬間、冷たい空気とともに薄暗い通路が広がる。奥からは獣のうなり声が響き、少しずつ視界に巨大なモンスターの影が現れ始めた。グレンが前に出ようとするその刹那、リリィが警告の声をあげる。
「待って!罠が仕掛けられてる!」
リリィは迅速に動き、細心の注意を払いながら罠の解除を始めた。彼女の手際の良さに、グレンは内心で感嘆しつつも、即座に戦闘態勢に入る準備を整えた。セレフィナは少し後方でリリィの動きを見守りつつ、冷静に周囲を観察している。
リリィが罠を解除し終えると、グレンは目の前の巨大なモンスターに剣を向けた。「よし、行くぞ!」
その一声で戦闘が開始され、グレンは巧みに剣を振るって前線を支え、セレフィナとリリィが後方からサポートを行う。モンスターが数体現れても、チームワークの良さで着実に倒していった。
戦闘が一段落つくと、グレンは汗を拭いながらセレフィナとリリィを見渡した。「やはり二人とも、素晴らしい働きだ。これなら、もっと深い層まで進むのも夢じゃないかもしれないな。」
セレフィナは軽く肩をすくめて微笑む。「ふふ、ただの肩慣らしさ。それにしても、なかなか悪くないチームだな。」
リリィもまた、少し照れたように笑みを返しつつ、地図を確認した。「では、次の通路を進んでいきましょう。この調子なら、まだまだ進めそうです。」
こうして、初めての連携を通して、三人は確かな信頼感を築き始めていた。このダンジョン探索の先に、どのような試練が待ち受けているかはまだ未知数だが、それを恐れることなく進んでいく彼らの姿には、確かな成長が感じられるものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます