この世界の魔王、真実を語る。
ゼルナは続いて独白するように言う。「ただ、人間をあまり甘やかしすぎないほうがいいよ。彼らは上位存在が居なくなればすぐに増えて好き勝手に戦争するし、環境も破壊されてしまうしさ」
セレフィナはゼルナの言葉に少し驚きつつも、その意図を測るように視線を向けた。彼が真剣な表情で人間について語るのは、彼の中にある確固とした信念が長い時を経て形作られたものであることを感じさせる。
「君は…人間を『管理』するべきだと考えているのか?」セレフィナが静かに問いかけると、ゼルナはゆっくりとうなずいた。
「そうだよ。彼らは短い命を懸命に生きているが、そのぶん視野が狭くなりがちなんだ。より大きな視点を持つ僕たちが、時に彼らの暴走を抑えることが必要だと思ってる。破壊や戦争が蔓延すれば、我々にとっても害になるからね」
彼の言葉には、人間への侮蔑だけでなく、どこか複雑な思いも含まれているように聞こえた。セレフィナは小さくため息をつき、ゼルナに冷静な表情を向けた。
「確かに、君の言うことにも一理あるが、けど、それでも我は人間を力で支配するのではなく、彼ら自身が選択して進むべきだと思う」
ゼルナは少し眉をひそめ、問いかけるようにセレフィナを見つめた。「彼ら自身に任せる?でも、それで本当に正しい未来が訪れると思うのかい?」
セレフィナは静かに微笑み、答えた。「彼らもまた、成長し、学ぶ力を持っている。上位存在が干渉しすぎれば、その可能性を奪ってしまうかもしれない。たとえ時間がかかっても、彼らが自ら築いた未来を見守ることが、我の役目だと思っている」
ゼルナはその言葉に少し黙り込み、考え込むように空を見上げた。やがて、軽く肩をすくめると、どこかあきらめにも似た苦笑を浮かべた。「君らしい答えだね、セレフィナ。でも、僕は…まだ完全には納得できそうにないな」
二人の視線が再び交わり、それぞれの信念がぶつかり合う静かな空気が漂ったが、やがてゼルナは一歩下がり、穏やかな表情でうなずいた。
「君のやり方でやってみるといいさ、セレフィナ。僕も、それが間違いでないと願ってるよ」
セレフィナは、ゼルナに視線を向けながら、心の奥で彼への考えを少しずつ改めていた。これまで人間界には気楽な散歩気分でやってきて、自分の気まぐれで関わってきた程度だったが、ゼルナは違う。
方法は異なれど、彼はずっと人間を管理し、時には厳しく、時には見守る形で支配しながらこの世界に秩序をもたらしてきた。長い時を生きる存在として、その役割を全うしようとする彼の強い意志と覚悟が伝わってきたのだ。
「ゼルナ、そうさせてもらう。我も人間を軽視することはできないと痛感している。だからこそ、今後は彼らとより良い関係を築いていく必要があると思う。我は、君のような存在と共に歩んでいきたい。」
ゼルナは彼女の言葉に少し驚き、冷静な視線を向ける。「なるほど、君がそう考えているなら、少し期待してみよう。だけど、これからの道は簡単ではない。人間たちがどう変わっていくのか、君の手腕で見せてもらうことになるだろう。」
彼は頷きながら続けた。「だが、気を付けた方がいい。人間はその場の感情で動くことが多いから、冷静な判断ができる君がしっかり導かなければならない。僕は、君がどこまで人間たちを育てられるか、じっくり見定めさせてもらうからね。」
ゼルナの言葉には、挑戦的な響きがあり、同時に彼女に寄せる期待も感じられた。セレフィナは、その眼差しの奥にある決意を理解し、少し緊張しながらも、自身の任務に対する覚悟を新たにした。「我が力を尽くすつもりだ。君も、我を見守るだけでなく、必要なときは助けてくれ。」
ゼルナは微笑んだ。「ああ、もちろん。ただし、頼るだけではなく、自分の力を証明することを忘れないでほしい。」
その瞬間、セレフィナは彼との新たな絆を感じ、これからの未来に向けて期待が膨らんでいった。ゼルナという強力な仲間を得たことで、彼女の思い描く人間たちとの共存への道が、少しずつ開けていく気がした。
* * *
続いて、ゼルナは興味深げにセレフィナを見つめ、問いかけた。
「ところで君は何なんだい?当然人間ではないのだろう?」
その問いに、セレフィナは一瞬だけ微笑みを浮かべたが、すぐにその表情は冷静さを取り戻した。彼女は少し遠くを見つめるようにしながら、静かに自らの出自について語り始める。
「我は、人間ではない。むしろ、人間界と魔界の間に生きる存在だ。数千年もの間、魔界を治めてきた"魔王─デーモンロード─"と呼ばれてきたが、その称号に執着はしていない。我が選んだ道は、ただ強さを求め続け、無限に続く闘争の渦に身を置くことだった。人間界に興味を持つようになったのも、そういった戦いに疲れ、ほんの気晴らしで訪れたのがきっかけだ」
その声はどこか冷たくも感じられたが、どこか哀愁のようなものも滲ませていた。彼女の言葉には、人間の儚さを目の当たりにし、次第に自分が守るべきものとしての価値を見出していった経緯が含まれているかのようだった。
ゼルナはその言葉を静かに聞き入れながら、目を細めた。「なるほど、君も長きにわたる存在としての悩みがあるんだな。しかし、そんな君が人間との共存を考えるとは、皮肉なものだね」
セレフィナは微かに笑い、頷いた。「そうだな。だが、我が見る未来には、共存の可能性があると思っている。そして、君のような存在と共に歩むことができれば、その未来が現実のものになる日も、そう遠くないかもしれない」
ゼルナはセレフィナの言葉に応え、少しばかりの感慨を込めて、軽く笑った。
「共存か…面白い発想だ。僕たちのような存在が、人間と共に歩むなんて、昔は考えたこともなかったよ」
セレフィナは静かに頷き、さらに言葉を続けた。「我が魔王として魔界に君臨してきた時間は長いが、人間界の未来に手を貸そうと思ったのは、ほんの気まぐれが始まりだった。それが今、こうしてお前のような者と出会い、新たな道が見えつつある」
魔界で長い歳月を過ごし、多くの戦いを乗り越え、強者としての孤独を抱えてきた彼女にとって、「人間界の未来に手を貸す」という言葉は、自らにも予測できないほどの変化を伴うものだった。彼女が長きに渡って見守ってきたのはあくまで人間の「面白さ」であり、それ以上の干渉は無意味だとさえ思っていた。だが、こうして人間界に降り立ち、王という存在と語り合い、民を愛する者の視点を知るうちに、心の奥底に新たな衝動が芽生えているのを感じる。
「新たな道」という言葉が、セレフィナの胸に響いた。それは決して平坦ではないだろうが、この未知の道を歩むことに対する不安や迷いよりも、「共に行く者」が存在するという事実に、どこか心が安らぐ感覚を覚えていた。
彼女は静かに目を閉じ、人間という存在に対する小さな興味と、道を共にする者たちへの思いが、これまでの孤高な生き方を少しずつ変えていくことを実感していた。
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