プロローグ② 何でもない日常
「おーい
「お前歩くの早いんだよ…。誘ったのお前なんだから少しは気ー使えよ」
クラスメートの奴に誘われて今俺が来ているのは、大型のスポーツ施設。
コイツとは仲がいいというワケでもないが、この前俺が教えた部分がテストで出題されたことで数学Ⅱの赤点を回避できたことが相当嬉しかったらしく、俺を誘ってくれたのだ。
正直、遊びに行くんならカラオケくらいに、それかどっちかの家でゲームをする方が俺としては好ましかった。俺に選ぶ権利があっただろ、今回は。
「やっぱ普段体育とか見てると思うけど、豊大って体力ねーよな」
「うっせー、大学行く為に体力なんかいらないんだよ」
「そりゃそうか、勉強できりゃ運動できるよりも困んねぇもんな」
横目でソイツの顔を見る。正直、コイツの名前はうろ覚えだからあまり会話を継続させたくない。
「お前、腕相撲は得意か?それと、握力には自信ある方?」
「なんだよ、急に。腕相撲は得意だし、握力も全国平均以上はあるぞ」
「なら問題ないな」
「何がだよ。体力のない俺を下手に慰めようとでもしてんのか?」
「いや、そうじゃない。体力なくてもボルダリングならできるんじゃないか、って思ったんだけどどう?」
「ボルダリングか…」
ボルダリングはテレビで見たことは何度もあるけど、やったことはない。厳密に言えば、小さな頃に取り壊された公園の遊具に存在していたボルダリングもどきはやったことがあるような気がする。
「まあ、せっかくの機会だしやってみるか」
*
俺は最初から命綱なんてものは忘れていたが、どうやらここは床が柔らかい素材になっていて、ボルダリングの壁面自体も5メートルほどの落ちても大丈夫な設計になっているらしい。これなら初心者の俺も安全性を心配する必要はないだろうと思った。
「流石に初心者とはいえどやり方くらいは分かるよな?」
「舐めてもらっちゃ困るな。よし、じゃあどっちが先に一番上まで到達できるか勝負しないか?」
「だったら負けた方がジュース奢りな」
「臨むところだ」
俺とソイツは順調なスタートを切り、少しずつ登っていった。少し先を行かれることはあれど完全に置いて行かれないよう俺も粘り、丁度隣り合ったところはゴールまであと50センチもないところだった。
「こっからだぁ!」
俺がスピードを上げようとした時、右手が突起を空振り、足が突起から滑り、バランスを崩して仰け反り、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
首、痛いだろうなぁ…。
頭頂部が床と触れ、若干の痛みを追って想定外の音がした。
ゴキリ、ともボキリ、とも表現できる生生しい音。
起き上がろうとするもいつものように指示を受け入れず感覚のない両手と両足。
一瞬で上がる心拍数。垂れてもないのに顔に感じる冷や汗。
落ち着く間もなく視界が途切れ、すぐに意識も消失した。
ここで終わったと、思っていた。
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