閑話 とある彼女の新しい日常

 時は、主人公がフワロスの街へ王都から出発するあたりのこと…

 これは、とある19歳の少女の一幕。


 

 少女にとっての新しい一日目。

 場所は王都にて、『魔法使い連盟』が所有して区画。

 そこの、『魔塔』と呼ばれる建物の中に私はいた。


 ガチャッ…


 私を案内している男性が、部屋の扉を開ける。

 その瞬間、部屋の中がちらっとだけ見えた。


 まだ明かりをつけていないから…

 もしくはカーテンが閉まっているからなのか、部屋の中は薄暗く見える。


 部屋はたぶんだけど狭い。

 きっと、お一人様用の宿の部屋くらい。

 いえ、もう少しだけ広いのかしら…

 

 中には、壁に本棚が置いてあるのと中央に机らしきものがあるのが見えた。

 前に使ってた人が置いていったとかかしら…


 「では、アイラさんの部屋はこの部屋になります。」

 

 男性に、そう案内される。


 「あっ、はい。」

 「では、私はこれで…」


 そう言い残して男性は去って行こうとする。

 でもちょっと待って欲しい。


 「あの…、私は何をすればいいのかしら…?」

 

 男性は振り向いてきて…


 「そうですね…。アイラさんもご存じの通り、ここは、魔法の神髄を研究するための場所です。なので、アイラさんお一人で研究されても良いですし、誰かと共同して研究されるのも良いと思われます。」

 「あっ、はい…」


 それは知ってるのよ。

 でも、聞きたいのはそういうのじゃなくて…

 

 初日に…

 さぁ、ここがあなたの部屋です。

 あとは頑張って、って言われても困るのよ。

 

 いきなり何をすればいいか分からないし…

 だからもう少しだけ何かサポートして欲しいのよ。


 でも…


 「では、私はこれで…」

 「あっ…」


 案内してくれた人は、それだけ言い残して去って行ってしまう。

 

 待って…

 もう少し…


 でも少し前に一度引き留めたのに、またもう一度引き留めることに気が引けてしまった。

 だから私は、去って行く男性に小さく手を伸ばすことしかできなかった。


 ぽつんと、長い廊下に一人ぼっちになってしまった私。

 これからがとても不安だ…

 

 ダメダメ、そんな弱気じゃ。

 これからここで頑張っていくのよ。

 最初からこんな弱気じゃダメよ。


 部屋へと入る。

 そしてカーテンを開いた。


 私が来るからなのか、それとも日頃からきれいにしているのか、どちらかは分からなかったけど部屋はきれいにされていた。

 それだけで、少しは気分がマシになった。


 よしじゃー、今日から頑張るわよーーっ。


 これがここ魔塔での、私にとって初めての出来事だった。




 時は少しだけ進み、四日目。

 場所は、魔塔における私の一室。

 そこで私は、『魔法使い連盟』が主有している本を借りて、一人で読んでいた。


 『魔法』とは、自分にある魔力を使って、呼び起こす現象のことである。


 難しく書いてあるけど、それくらいは当然知ってるわ。

 次。


 『魔法』の属性には基礎属性として、火、水、風、土がある。

 さらにそこから派生する『派生属性』には、氷、雷、爆、泥、………

 さらにそれとは別に、光、闇が存在する。


 …、これも知ってるわ…

 次…


 魔法を発現させる方法として、1.己に適性のある魔法、それを脳内で想起し、魔力を消費すること。2.属性を生む魔法陣(円の中に、属性、作用する内容、指向する方向、等を描き示したもの)に、魔力を込めること。により発現する。

 

 ……、知ってるわ…

 次…


 そもそも魔法とは、神が我々人間へと…

 

 「あーっ、もうめんどくさいのよ!!なんでこんなめんどくさく書くのかしら。もっと簡単に書けるでしょ!!もっと具体的に書けるでしょ!!なのになんでこんなめんどくさく書くわけ?!あーーっ!!!」


 そう叫びながら、私は髪をガシガシとする。


 「はっ!!ダメダメ。落ち着くのよ、私。これからたくさんの本を読むことになるのよ?なのに一冊目でイライラしてどうするのよ!!そー、落ち着くの…」


 ふーふー…

 深呼吸をした。

 

 「よし、落ち着いた。さて、じゃー、続き読みましょっと…」


 そもそも魔法とは、神が我々人間へと…


 「落ち着け…、落ち着くのよ、私…」


 ……与えた神聖なるものである。その名誉を我々人族が得られたことは…


 「あーーーっ!!なんか違う!!これ、なんか違うわよ!!!私が読みたいのは、もっと魔法の…

 というかよ?魔法なんてテキトーにやったらできるのに、なんでこう難しくするのよ!!意味わかんない、ほんと意味わかんない!!!」


 乱雑に、本を机の上に放り投げる。

 そして、椅子の背もたれに体重を預けた。


 「はー…」


 魔塔に入ることは、魔法使いとして一つのステータスになる。

 ここに入れたかどうかで、周りからの見られ方が変わり…

 さらにここで結果を出すと、歴史に名を残すまでとも言われてる。


 私は侯爵家に生まれ、小さい頃から魔塔に入るようと口うるさく言われ、魔法を教えられてきた。

 その甲斐もあり、勇者パーティに入れて…

 しかも魔王まで倒せて、今は念願だった魔塔に入れた。


 でもね、ここまでに私の意志はあったのかしら…?

 親に言われ、ただここまで来ただけじゃないのかしら?


 勇者パーティでの日々は楽しかった。

 いえ、魔法を使うことも楽しいわ。

 大きい魔法を使うことの爽快感が!!

 でもね、別に魔法の深淵とかどうでもいのよ。

 そう、どうでもいいのよ。


 不意に思い出してしまったのは、勇者の顔。

 あいつは自由に生きるらしい。

 それを思い出すと、今の自分がバカみたい。


 よし、決めた。


 私はすぐに部屋を飛び出た。


 するとすぐ、昨日私を案内してくれた男性と会った。

 いえ、すれ違った。


 「アイラさん、どこかへ行くのですか…?」

 

 男性からそんな声が聞こえてきた。

 私は振り返って…


 「フワロスへよ?」

 「はっ…?」


 男性は間抜けな顔になった。


 「でも…」

 

 何か言ってくる。

 でも知らないわ。


 「私、辞めるわ。」

 「はっ…!?」

 

 男性は、目がまん丸になった。

 だから、もう一度言ってあげる。


 「私、辞めるから。だから後はよろしくね。」

 「へっ…?えーーーーつ!!!!」



 こうして、彼女の新しい日々は終わったを迎えた。

 たった四日で。

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