今、食べたいらしい
フライドポテト、フランクフルト騒動の後…
時刻で言うと正午過ぎだろうか…
俺と魔王、それに一号を含めたゴブリンたちで、今魔物の森にいた。
目的はそう…
「じゃー、今日もテイム頑張るか。」
魔王曰く、魔物を使役できる合計はおそらく10匹くらい。
ただ、”くらい”だ。
きっと、多少は誤差があるだろう。
だからそれを確認するためにも、テイムを限界までやってみようという感じだ。
ただ…
「プイッ…」
俺の言葉に、魔王はしかめっ面で顔を背けた。
どうやらご機嫌斜めらしく…
もう少し詳しく言うと、フランクフルトを食べさせてもらえなかったことが相当御立腹らしい。
子供かな…?
「おーい、やるぞー。」
「プイッ…」
次は逆向きに背けてきた。
「めんどくさ…」
「めっ、めんどくさとはなんじゃ!めんどくさとは!!」
魔王が振り向いてきた。
単純だ。
「いや、食べれなかっただけでふてくされるとか、めんどくさいなーって思っただけだけど…」
「めんど…。また言ったのじゃ…
いやそれよりもじゃ、”だけ”とはなんじゃ!”だけ”とは!!」
「だけ…?」
「ぬぬ、食べれなかっただけとはなんじゃと言っておるのじゃ!!」
あー…
「いや、その通りじゃね?」
「ぬぁ!?分かっておらぬ、お主は分かっておらぬのじゃ!!乙女心というものを!!」
次は乙女心か…
「はー…」
「まずじゃ、妾はフラ…、えっと…」
「フランクフルトな。」
「ッ!!分かっておるのじゃ!!その…、フラックフルトが…
「フランクフルトな。」
「あ~もう、進まないのじゃ!!」
「いや、俺のせいじゃないし…」
「はいはい、分かったのじゃ。もういいのじゃ!そのフラック…。それを、妾は食べたかったのじゃ!!ものすごく食べたかったのじゃ!!」
諦めたらしい。
「はー…」
「なのにじゃ、お主は妾の分を買うことはおろか、一口すらくれんかったのじゃ!!」
「いや、お前もポテ…
「今はいい訳なんて聞きたくないのじゃ!!」
言い訳…?
「その時点でないのじゃ。人としてないのじゃ!!なのにじゃ、あの男が妾にフラ…
あれをくれようとしてた時、お主は理由(わけ)の分からんことを言って断ったのじゃ!!許せないのじゃ、それがどうしても許せないのじゃ!!」
「はー…」
「はー、じゃないのじゃ!!」
「はー…」
「ぬぅぅー!!」
魔王が必死に睨みつけてくる。
ただやっぱり、その顔は子供が怒ったような顔で怖くもなんともない。
でもまぁ、魔王を怒らせてしまったのは俺にも責任がある、のかもしれない。
だから、アイテムボックスにあるやつをあげてもいいような気もする。
でもなぁ…
ここであげるとどうせこれからも、ごねたり、キレたり、ふてくされたりとかしてくるんだよな…
めんどくさい。
それは、ひじょーーにめんどくさい。
なら…
「フランクフルト、欲しいか…?」
魔王が、目を煌めかせた。
「えっ、あるのじゃ!?フラ…、あれ、あるのじゃ!?」
「ある。」
「えっ、食べたいのじゃ!!妾、あれ、食べたいのじゃ!!」
「そっか…。なら、あげてもいい。」
「まっ!?やったーなのじゃ!!妾、やったーなのじゃ!!」
「ただし!!」
「な、なんでじゃ…?」
魔王が喜ぶのを止めて、怪しげに見つめてきた。
「さっさと、ゴブリンのテイムを終わらせること。そうしたら、フランクフルトを食べさせてやる。」
「えー、なんでじゃ!?妾、今すぐにもあれを食べたいのじゃ!!」
「ダメ。」
「ぬぬ、なんでじゃ…?」
「俺の生まれたところではな、とある格言があるんだ。」
「格言…?格言ってなんなのじゃ?」
そこからか…
「昔の人たちが残した、ためになる言葉だよ。」
「昔の…。はー、それでその、格言?とはどういうものなんなのじゃ?」
「それはな…」
日本人なら誰でも知っている常套句。
それは…
「働かざる者食うべからず、だ。」
「働か…、なんじゃ、それ?」
「簡単だ。働いてない奴にはご飯を食べる資格がないよね、っていう意味だ。」
「なるほど、なのじゃ…」
まだ、ちゃんとは分かってないらしい。
「そうだな、もう少し言うと…
食べ物とか、何か欲しいものがあるのなら、働くなり、その対価を払おうねという話だ。」
「なるほどなのじゃ。」
「そう。」
「で、その格言というものが、今どう関係するのじゃ?」
分かってないんかい。
「何かを買ったりするには、まずお金が必要なのはわかるか…?」
「妾を舐めるなじゃ!それくらいは分かるのじゃ!!」
「お、おう…」
本当か…?
いや、さすがにそれくらいは大丈夫か…
「なら、フランクフルトを買うのにもお金が必要なのも分かるよな?」
「分かるのじゃ!」
「うん、じゃー、まずお前はフランクフルトを食べたい。でもお金は持っていない。だから俺が買ってあるのをやる。だからその代わりに、まずは働け。」
「なるほどなのじゃ。」
良い返事は返ってきた。
ただ…
「でも嫌なのじゃ。」
「はっ!?」
「だってじゃ、妾は今フランクフルトを食べたいのじゃ!!今今今食べたいのじゃ!!」
「」
言葉が出てこない。
「そうじゃ、良いことを思いついたのじゃ!!」
魔王が何か閃(ひらめ)いたらしい。
でもこういう時のそれって、大抵は碌(ろく)でもないんだよな…
「なんだ…?」
「それはなのじゃ…
魔王はニタっと笑ってから…
「食べてから働くのじゃ!!!」
うわ…
「あー、妾ってなんて賢いんじゃ!!今妾はフランクフルトを食べたい。そしてお主は、妾を働かせたい。ならじゃ、食べてから働けばいいのじゃ!!そうすればじゃ、妾は今食べられてお主の願いも叶って、二人ともが幸せなのじゃ!!」
はは…
でもそれって結局は…
「どうじゃ?良い案じゃ…
「ダメ。」
「はっ…!?」
魔王が目を丸くした。
そしてすぐ強い視線を向けて来てから…
「ななな、なんでじゃ!!なんでなんじゃ!?こんな、妾からの崇高なる案を…。何でこれがダメなんじゃ?!!」
なんでって…
「いやだってそれ、食べたら絶対やらないやつだろ…?」
「そんなわけ…
「いや、絶対あとでめんどくさいとか言ってやらないやつだからな、それ…」
「いや、そんなわけないのじゃ!!やる。絶対にやるのじゃ!!妾を信用するのじゃ!!」
魔王を信用…?
「さすがにできないって…」
「ぬぬぬ…。大丈夫じゃ!!絶対に大丈夫じゃ!!!」
「はー…」
絶対やらないやつだよな、これ…
どう考えても…
でも…
「やる。妾は絶対にやるのじゃ!!」
魔王は真剣な表情を向けて来ている。
ん-…
一回はくらいは信じてみてもいい、のか…?
俺は魔王を見る。
すると魔王は、まだ真剣な表情を向けて来ていた。
一回だけ…
一回だけなら信じてみてもいいか…
「わかった。」
「ほ、ほんとなのじゃ!?」
「あーでも、食べたら絶対にやれよ?」
「分かってるのじゃ!!やるのじゃ、絶対にやるのじゃ!!!」
「はぁ…」
俺はアイテムボックスを開く。
そしてフランクフルトを取り…
「一つだけじゃなくて三つは欲しいのじゃ!!」
「はっ…?」
「大丈夫じゃ。働く。その分絶対に働くのじゃ!!」
自信満々で、澄みきった目…
だからしょうがなく…
俺はフランクフルトを三つ取り出して…
「はいよ。でも、食べたらやれよ?」
「分かっておるのじゃ!!ちゃんと、分かっておるのじゃ!!」
ということで、魔王はフランクフルトへ噛り付き始めた。
「ん~、おいしいのじゃ!!!」
そして30分後…
「おい、やるぞ!!」
俺は地面に座り込んでいる、腹の膨れた魔王にそう声をかけた。
ただ…
「うぷっ。そんな焦ってもしょうがないのじゃ。ちょっと待つのじゃ…。もう少しだけ、もう少しだけ食休みをさせるのじゃ。」
「はぁ…。でも約束だろ?食べたらやるっていう…」
「やる、ちゃんとやるのじゃ。でも、もう少しだけ食休みしたいのじゃ!!」
はぁ…
なんで俺は、こんなやつの言うことを聞いてしまったんだろうか…
「もう少しっていつまでだ?」
「あと、30…
いや、1…、2時間じゃ。2時間だけでいいのじゃ!!」
「伸びてるし…。しかもそれ、下手したら日が暮れるんだけど…」
「それはまずいのじゃ。晩御飯に遅れてしまうのじゃ。でも魔王である妾は、時間だけは守るのじゃ!!だから1時間、1時間だけでいいのじゃ!!」
「1時間、ほんとに1時間だな?」
「そうじゃ。1時間じゃ。」
「分かったよ…」
こうして、1時間の食休みに入った。
1時間後…
「あと1時間、1時間だけ食休みが欲しいのじゃ。」
「」
2時間後…
「あー、もう日が暮れてきたのじゃ!!晩御飯の時間なのじゃ!!帰るのじゃ!!」
「」
こうして、今日は終わりを迎えた。
魔王がちゃんと働いたかって…?
働いてたらいいな。
これが答えだよ。
こいつの言葉、もう絶対に信用してやるか!!!
そしてここからは、後日談的なものを…
日が暮れた時間…
俺と魔王は、宿屋に帰ってきていた。
そしてサーナさんがご飯を運んできてくれた。
「おぉ、今日はハンバーグか!!」
「ん?これ、ハンバーグというのじゃ!?すごくおいしそうなのじゃ!!」
俺は今日のストレスのため…
そして、ピザの一件の反省も踏まえて、俺はすぐにハンバーグに手を付けた。
それに習って、魔王もハンバーグに手を伸ばす。
でも…
「うぷっ…」
魔王の口からそんな音が漏れた。
「どうした…?」
「なんかじゃ、お腹いっぱいで気持ち悪いのじゃ…」
「まぁ、フランクフルト3本も食べてたらな…」
「ぬ…」
諦められないのか、魔王は必死にハンバーグを口に運ぼうとする。
でも…
「無理、やっぱり無理なのじゃ。気持ち悪いのじゃ…」
「お、おう…」
「妾、先に部屋へ戻っておるのじゃ…」
そう言い残して、魔王は一人部屋へと戻っていった。
だから俺は、優雅に一人で二人分のハンバーグを食べた。
ハンバーグ…
すごく美味しかった。
ほんと美味しかった。
ざまぁ。
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