街をブラブラと


 「ふわぁ、おいしいのじゃ。これ、すっごくおいしいのじゃ!!」


 細長く切られている、ポテトを揚げたもの…

 フライドポテトに、感嘆の声を漏らしていた。


 俺たちは今、テキトーに食料を買い漁りながら街をブラブラとしていた。

 そして少し前、魔王がフライドポテトが気になったらしく、それを買わされたところだった。


 「どううまいんだ?」


 ちょっといじわるの気持ちも込めて聞いてみた。

 すると…

 

 「ん?どう…?

 それはもう、おいしいのじゃ!!すごく、ものすっごくおいしいのじゃ!!」


 「そ、そうか…」


 果たして、この魔王の語彙力が成長することはあるのだろうか…?

 いや、ないな。

 絶対ないな。


 ただ、隣でそんな美味しそうに食べられ…

 しかもフライドポテトの良い匂いまでもが匂って来てしまうと、俺もちょっと食べたくなってしまう。


 「なぁ、俺にもくれないか?」

 「はっ…?これは妾のものなんじゃ!!それなのにあげるわけないのじゃ!!」


 えっ…


 「いやそれ、俺が金出して買ったんだけど…」

 「ん?だからなんなのじゃ?これはもう、妾のもの。だからこれを、お主にあげる必要なんて全くないのじゃ!!」

 「あっ、そう…」

 「そうなのじゃ。」


 そして魔王はまた、フライドポテトを口に運ぶ。


 「ん~、おいしいのじゃ!!ほんと、おいしいのじゃ!!」


 なにこいつ、クソ腹立つんだけど…

 俺が金出したのに、少しもくれないって何…?


 そしてこっちをニマニマとした顔で見て来て…


 「あー、ほんとおいしいのじゃ。すっごくおいしいのじゃ。まぁ、お主にはあげないのじゃけどな。」


 うざ… 

 あー、そうかよ。

 そっちがそのつもりなら…


 近くに、とある出店を見つけた。

 そこで、俺はオススメを買った。


 「な、なんなのじゃ?それは…?」


 分からないのか、魔王からそんな疑問の声が上がった。


 形は、バナナのように長細い形。

 表面は、茶色いきれいな焼き色…

 それがテカテカと、きっと中からの肉汁で光っていた。

 そう…


 「フランクフルト。」

 「フランクフルト…?」


 その存在を知らなかった魔王は、首をコテッと倒す。

 でもそれを気にせずに、俺はフランクフルトへ噛みついた。


 噛みちぎったものを口に含んだ瞬間、作り立てなのか、強い熱とそれによる痛みが口の中を走る。

 それをなんとか誤魔化すため、俺はハフハフと、外の空気で冷やす。


 そして少し冷えて食べられそうになったタイミングで、口の中に入っていたフランクフルトを歯で噛み砕いた。

 するとぶわぁと、油と一緒に肉汁が口の中に広がる。

 

 肉汁…

 肉汁…

 肉汁…

 圧倒的な量の肉汁が、ただ俺の口の中を支配した。


 「う、うまい…」

 

 噛めば噛むほどに、フランクフルトに凝縮されていた肉汁があふれ出し…

 しかも、皮のパリっとした触感が楽しく…

 それに加えて皮の内側のジューシーな歯ごたえが、俺の脳に美味しいという気持ちよさを伝えてくる。


 これはもう…


 「美味すぎる…」


 そして気になったのか、魔王から…


 「そ、そんなにおいしいのじゃ?」

 「あー、めっちゃ美味い。」

 

 「そ、そうなのじゃ!?なら、妾も欲しいのじゃ!!」

 「え、嫌だ。」

 「はっ…?」


 魔王が、目を丸くした。


 「な、なんでじゃ?なんでなんじゃ!!」

 「いやだって、さっきポテトくれなかったじゃん…」

 「そ、そんなことでなのじゃ…?」

 「そんなことって、普通じゃね?」


 しかもそのポテト、俺のお金なのに…


 「でもじゃ、妾はその…、え…」


 名前が出てこないみたいだ。

 

 「フランクフルト。」

 「そう、フランクフルトじゃ。それを食べてみたいのじゃ!!」

 「でも、ポテトくれなかったじゃん…」

 「それはそうなのじゃ!!だってあれは妾のものなのだし。」

 「なのに俺のは食いたい、と…」

 「そうなのじゃ!!」

 

 えっ…


 「めっちゃわがままなんだけど…」

 「わがまま…?お主何を言っておるのじゃ?妾はすごく優しいのじゃ…」


 優しい…?

 あー、人思いとか、そんなのを言いたかったのかな。


 「どこが…?」

 

 「はっ!?見れば…

 いや、そんなことよりもじゃ、妾、それが食べたいのじゃ!!食べてみたいのじゃ!!!」


 「やだ。」

 「ぬぁっ!?ぬー、やだやだやだ。妾、食べたい食べたい食べたいのじゃ!!!」

 「ダメ。」

 「ぬぁあああ!!」


 魔王が叫び始めた。

 そのせいで、周りから注目され始め…

 さっきの、フランクフルトの店主がやってきた。


 「なぁ兄ちゃん、これやるよ。」


 そう言って、店主がフライドポテトを差し出してくれる。

 すると、魔王は店主の方へ向き直り…


 「えっ!?いいのじゃ!?」

 「あぁ、いいんだ。」


 そして店主がフランクフルトを渡そうとしたところで…


 「あっ、遠慮しておきます。」

 「「へっ…?」」


 俺の言葉に店主と魔王…

 もしかしたら、俺たちを見ている周囲の人からも驚いた声が上がったかもしれない。


 「なんでだ…?」

 「そうじゃ。なんでなんじゃ!?」


 店主、そして魔王とから疑問の声が飛んできた。


 え、だって…


 「甘やかしたら碌なことにならないじゃないですか。」

 「あ、あぁ…」

 「へっ…?」


 店主は、魔王を見て納得の声…

 魔王からは驚きの声があがった。


 「正直、もう手遅れな気もしますが…

 でも、甘やかしたらダメと言うことも教えないといけないと思うんですよ。子供には…」


 「なんじゃ、手遅れって…。なんじゃ、子供にはって!!」


 魔王から、納得が言ってない声が上がる。

 でも、店主さんは俺の言葉に理解をしてくれたようで…


 「そうか。そうかもしれないな。」

 「待て、待つのじゃ!!お主まで納得するのではないのじゃ!!考え直せ、今すぐ考え直すのじゃ!!」

 

 店主に向かって声を荒げる魔王を、店主は優しい目で見る。

 そして、また俺の方に向き直ってから…


 「そうだな。俺も自分の息子に、もっと厳しくしないといけないのかもしれないな。」

 

 「待て!!なんじゃこの空気…

 しかも、お主の子供と妾を同じに考えるのじゃないのじゃ!!!」


 店主は、一瞬だけ魔王を見てから…


 「俺も頑張らないとな…」

 「頑張ってください。」

 「待て!!妾を置いて勝手に話を終わらすのじゃないのじゃ!!しかもその目、その目はなんなのじゃ!!!」


 まだ、魔王がまだなんか言っている。

 でも俺は気にしない。


 「あ、でも、お気遣いは感謝します。ありがとうございました。」

 「いやいんだ。俺も出過ぎた真似をしてしまった。」

 「待て。本当に待つのじゃ!!まだ、終わらすんじゃないのじゃ!!」


 「じゃ―俺、仕事戻るわ。」

 「はい、頑張ってくください。」

 「あぁ。」

 「待て。本当に待って欲しいのじゃ!!」


 ただ、魔王のその願いは叶わず…

 こうして、店主は去って行った。


 「妾のフランクフルトがぁぁあああ!!!!」



 

 こうして、街でのブラブラは終わりを迎えた。


 結局、魔王がフランクフルトを食べれたかって…?

 はっ、食べれるわけ…

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