定義を聞いてみた

 ピザを食べ終えた俺はたちは、部屋へと帰ってきていた。


 「それにしてもじゃ、ピザ、ものすっっごくおいしかったのじゃ!!とてつもなく、おいしかったのじゃ!!」


 汚れた手や顔を洗った…

 洗わされた魔王から、そんな言葉が飛び出てきた。


 「まぁ、確かにおいしかったな…」

 

 あほが余計なことをしなかったら、より一層…


 「おいしかった…?何を言っておるのじゃ!!」

 「ん?」

 「果てしなく、ものすっごくおいしかった、なのじゃ!!」

 「あっはい。」

 

 ただおいしいだけじゃ、どうやら納得できないみたいだ。

 相当ピザが気に入ったらしい。


 「ピザ、そんなに気に入ったのか?」

 「うん、気に入ったのじゃ!!ものすっごく気に入ったのじゃ!!もう、毎日食べたいくらいには気に入ったのじゃ!!!」

 

 「毎日か…。それは良かったよ。」

 「ん?冗談じゃないなのじゃ?妾はほんとに、毎日ピザが食べたいのじゃ!!」


 あー、それくらい食べたいっていう比喩じゃなかったのね…

 

 「いや、それはさすがに…」

 「なんでじゃ?あれだけおいしいのじゃから、毎日でもいいのじゃ?というか、食べたいのじゃ!!」

 「いや、それはさすがに飽きるだろ…」


 それにあんな重いものを毎晩って、しんどいし、身体に悪そうだし。


 「飽きる?あんなおいしいものを、飽きるわけないのじゃ!!絶対、妾毎日ピザが食べたいのじゃ!!」


 また、魔王の駄々(だだ)が始まった。


 というかこいつ、ほんと子供なんじゃ…


 「そういえばさ…」

 「ん?なんじゃ?」

 「ご飯食べ終えたときに聞いてみたかったんだけど、お前の中のレディって何?」


 だって、顔とか汚しながら食べるし、わがままだし。

 なんというか、俺がイメージしてる、おおらかで大人びた女性っていうイメージからは、この魔王はクソほどかけ離れてるんだよな。

 だから、ちょっと聞いてみたくなったんだよ。


 「レディ…?」

 「そう、レディ。」

 

 俺が確認するためにそう返すと、魔王はニタっと笑った。


 「ふふ、いいのじゃ。教えてあげるのじゃ!!妾が思うレディとは…」

 「とは?」


 魔王が、もったいつけるように言葉を少し溜めて…

 そして…


 「レディなのじゃ!!」

 「ん?」


 どういう意味だ?


 気づくと、俺は首を傾げていた。

 それを見て、どうやら自分の言ったことが俺に通じてないと気付いたようで、魔王がもう一度レディの意味を宣言してきた。


 「レデイとは、レディのことなのじゃ!!」


 レデイとはレディのこと…?

 ん?

 

 何それ?

 ○○構文…?


 というかこれ、きっとクソ浅い話だ。


 「そ、そうなのか…」

 「そうなのじゃ!!」

 「あー…」

 「ふふ、しょうがないのじゃ。物わかりの悪いお主に、もう少しだけ教えてあげるのじゃ!!」

 「お、おう…」

 「レデイとは…」


 ・・・


 なかなか、魔王から言葉が出てこない。

 そして俺からも、言葉が言い出しづらい。

 だから当然、嫌な静けさがこの場を支配し始めた。

 魔王も、それを嫌ったのか…


 「レデイとはなのじゃ…」


 同じ言葉を、また口にした。

 だけどやっぱり、続きの言葉が魔王からは出てこない。

 

 そして諦めたのか…


 「れ、レディのことなのじゃ…」

 

 知ってた。

 うっすいの知ってた。


 「薄…」

 「薄っ!?薄くないのじゃ!!全然、薄くないのじゃ!!!」

 「いや、薄いだろ…」

 「薄くないのじゃ!!」


 「そう言うなら、言ってみろよ!!続き、言ってみろよ!!!」

 「あー、言ってやるのじゃ!!何度でも言ってやるのじゃ!!レデイとは…」

 「とは?」

 

 ・・・


 当然、出てこない。

 

 「うっす…」

 「ぬぬぬ…。うっさいうっさい、うっさいのじゃ!!一々うるさいのじゃ!!!」

 「あーはいはい。」

 「ななな、なんじゃその態度は!!妾を、誰だと思っておるのじゃ!!!」

 

 誰…?

 そんなの…


 「レディの定義も知らないお子ちゃま…?」

 「ぬぁぁぁ!!!誰が、誰がお子ちゃまなのじゃ!!妾はれっきとした…」


 ドンドンドン!!

 

 騒ぎ過ぎたからだろうか…

 横から、壁が叩かれた。


 「あーあ、どこぞのお子ちゃまのせいで…」

 「ぬぁっ!?ま、また…、また言ったのじゃ!!またお子ちゃまって言ったのじゃ!!!」

 「だって、間違いじゃないし…」

 「ぬぁぁ!!!」


 ドンドンドン!!

 

 「ほら…」

 「ぐぬぬぬ…、もう怒っ…」


 ドンドンドン!!


 もう三度目だからだろうか…

 さすがに我に返った…

 というか、このまま続けるのはまずいということを察した。


 「そろそろ、寝るか…」

 「なんでじゃ!?まだ妾は納得できないのじゃ!!」


 らしい。

 でも、これ以上騒ぐのもまずい。

 

 んー…

  

 「明日の昼に、色々食べ歩く気だから、そろそろ寝ないとまずいんだよな…」

 

 「食べ、歩き…?なんじゃ、その甘美な響きは!?絶対、絶対…

 寝る。妾もう寝る!!」


 そう言い残すと、魔王は布団の中に潜り込んで大人しくなった。


 こうして、今日が終わった。



 やっぱり、お子ちゃまだよな…

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