今日こそは
フランクフルト騒動の翌日…
時間は、朝の10時くらいだろうか。
俺たちはまた、魔物の森にいた。
目的は昨日、一昨日と同じ、魔王にゴブリンをテイムさせることだ。
「よし。今日こそはテイムやるぞ!!」
だけどその言葉に魔王は…
「妾、今日はやる気が起きないのじゃ…」
「はは…」
昨日はやるやる言って結局やらず…
で、今日もか…
というか、何が今日”は”だよ。
今日”も”だろ…
ったく…
「…で、今日はなんでだ?」
「それはなのじゃ、昨日の晩御飯で出た…、えっと…
「ハンバーグ。」
「そうそのハンバーグの味が…
「おー、今回は一回で覚えられたな。」
じとっと、魔王が見つめてきた。
「もしかしてじゃけど、ばかにしておるのじゃ?この妾のことを…」
「いや、してないぞ?」
「ほん…
「ただ、ばかに似た扱いをしてるだけで…」
「はっ!?今なんと…、お主今なんと言ったのじゃ!!」
「ばか。」
「ぬわぁぁぁぁ!!
この妾のことを…。こんなに賢い妾のことを、今お主、ばかと言ったのじゃ!?」
「え、うん…」
「うん、じゃないのじゃ!!」
「いやだって…
「なんじゃ?」
「バカだし。」
「ぬぅぅ!!また…。
違うのじゃ。妾は決して、バカなんかじゃないのじゃ!!」
「へー、そうか。なら昨日の昼、お前が散々食べたいって言ってたご飯の名前言ってみろよ。」
「はっ。そんなの簡単なのじゃ!!」
そう言った魔王は、腰に両手を当て、偉そうで自信満々のポーズを取っていた。
「へー…」
「それはなのじゃ!」
自信満々な物言い…
期待はしてないけど、黙って続きを待つ。
「それは、なのじゃ…。えっと…」
「」
「えっとなのじゃ、えっと…」
「」
うん、だよな。
そうだよな。
もう結果は分かった。
だけどまだ待ってみる。
もしかしてがあるかもしれないし…
いや、無いだろうけど…
「えっとなのじゃ…。えっと…
少し待つのじゃ。出てるのじゃ。もうすぐそこまで出てるのじゃ。でも、そのもうちょっとが思い出せないだけなのじゃ…
だからもう少しだけ待って欲しいのじゃ…」
もう十分待ってんだけどな…
そして魔王が「ん~、ん~」と何回か唸った後…
「はっ!!思い出したのじゃ!!」
「ほう。」
「それはなのじゃ…」
ニヤッとした笑顔を向けて来てから…
「フラックンバーグなのじゃ!!」
「」
言葉が出てこない。
やっぱりこいつ…
そして、魔王は何か勘違いでもしているらしく…
「どうじゃ、妾はすごいじゃろ?思い出したのじゃ、ちゃんと思い出したのじゃ!!だからほれ、妾のことを馬鹿と言ったのを謝るが良いのじゃ!!ぬはははは。」
偉そうに、高笑いを始めた。
でも残念だけど…
「違うけどな。」
「へっ…?」
魔王は間抜けな顔になっていた。
さて、訂正の必要があるかないか…
ないな。
きっとないな。
だって、バカだからどうせすぐ忘れるだろうし。
ということで、本題へ戻すことにした。
「で、ハンバーグがどうしたんだ?」
「えっ、ハン…
「昨日の晩御飯のハンバーグと、今日”も”やる気ができない理由がどう関係するんだ?」
「あっ、そうなのじゃ。そうだったのじゃ。
えっとなのじゃ、そのハンバーグ?を食べられなかったのが心残りなのじゃ。すごく心残りなのじゃ。もう気になって気になって、それ以外のことが考えられないの…そうじゃっ!!」
何か思いついたらしい。
「何だ…?」
「ふははは、妾は良い案を思いついたのじゃ。」
「はー…」
どうせ、また碌な案じゃないんだろうな…
「で、何だ?」
「それはなのじゃ、昨日みたいに、先に…
「却下。」
「へっ…?まだ…
「却下です。」
「ま、待つのじゃ。妾はまだ、最後まで言っておらぬのじゃ!!」
「いや、”昨日”で分かるから。」
どうせ昨日みたいに先に食べさせてくれ、だろ?
あとでやるとか言って…
「な、ならじゃ、ならなんでダメなのじゃ?こんなにも素晴らしい案だというのにじゃ…」
素晴らしい…?
「いやお前、昨日やるやる言って、食べた後結局ずっと寝てたの覚えてないのか…?」
「お、覚えておるのじゃ。でもじゃ、それはもう昨日の話なのじゃ。過去の妾の話なのじゃ。今日はもう新しい妾で、昨日の妾とは違うのじゃ。」
「いや…
「大丈夫じゃ。今日こそは、今日こそは絶対にやるのじゃ!!」
鼻息荒く、魔王が言い放ってくる。
ただ…
そう言ってやった人、俺見たことないんだけど…
まぁでもそれ以前に…
「あのさ…」
「ん?なんじゃ?」
「なんか俺がハンバーグ持ってる前提で話進んでるけどさ、なんで俺がハンバーグを今持っていると思ってるんだ?」
なんで持ってる…
アイテムボックスに入ってる前提の話になってるのだろうか…
謎だ。
「そんなの、持ってるに…
「いや、俺今、ハンバーグ持ってないんだけど…」
「へっ…?」
魔王が間抜けな顔になった。
「な、なんでじゃ?昨日の晩御飯は、確かにハンバーグだったのじゃ。な、なのに何故なのじゃ?」
何故って…
そんなの…
「食べたから…?」
「食べた…。えっ…?」
すぐには、俺の言葉を飲み込めなかったらしい。
「だってじゃ、だってあれは妾ので…
なのにお主、食べたのじゃ…?妾のハンバーグ、食べたのじゃ?!」
「え、うん。」
「うんって、お主今、うんって…」
魔王が悲しそうな顔になった。
だけど、すぐに怒りに満ちた顔になってから…
「ななな、なんでじゃ!!なんでなんじゃ!!!あれは妾のだったのに、なのになんでなんじゃ!!!」
なんでって、そんなの…
「おいしそうだったから…?」
「はっ…?」
「あと、残すのも勿体ないし…」
「勿体ないって…
そんなの、アイテムボックスに入れておけばどうとでもなる話しなのじゃ!!なのに、そんな理由で…
もうもう、知らんのじゃ!!お主なんて知らんのじゃ!!今日はもう、妾は働かないのじゃ!!!」
「はー…」
でもこいつ、今日は最初から働く気ないって言ってたんだけどな…
まるで、今俺のせいで働く気が失せましたみたいな雰囲気出してるけど…
はぁ…
でだ、ここからどうするか…
昨日もつぶれて今日もつぶれるのはさすがに嫌だ。
でも魔王は怒って、今はそっぽ向いている。
さて、どうしたものか…
俺は少し考えてから…
「一号。」
俺と魔王から少し離れてたところにいた一号を、俺は手招きしながら呼んだ。
すると、すぐに一号はやってきた。
そして俺はアイテムボックスを開く。
視界の端で俺の動きを捉えたのか、ピクッと魔王が反応した。
でも気にしない。
俺はアイテムボックスを開いたまま、あるものを取り出した。
昨日、魔王が美味しそうに食べたもの…
そう、フランクフルトを。
その瞬間、魔王の顔が一瞬だけこっちを向いた。
でもすぐにまた向こうへと向き直る。
でもチラチラと見てきていて、どうやら興味津々のようだ。
それに少し笑ってしまいそうになりながらも、俺は取り出したフランクフルトを一号へと差し出した。
「ほら一号、食べていいぞ。」
「ぐぎゃ?」
一号は『いいのですか?』と…
「あぁ、いいぞ。」
「ぐぎゃぐぎゃ。」
『ありがとうございます。』と返してきてから、一号はフランクフルトを受け取る。
そして、美味しそうに食べ始めた。
「ぐぎゃぐぎゃ。」
一号は、幸せそうに食べる。
そしてそんな一号の姿を、魔王は物欲しそうな瞳でじっと見つめていた。
「どうかしたか…?」
「あっ、フンッ。」
また魔王はそっぽ向く。
ただそんな中…
「ぐぎゃぐぎゃぎゃ。」と、また一号からの美味しそうな声が聞こえてきた。
だからその声に釣られて、ゆっくりとまた魔王の顔が一号へと向いていく。
そして魔王は、一号を…
一号の手にあるフランクフルトをじっと見つめ…
ゆっくりとだが段々と口が開きだし、しかもみっともなくよだれまでもが垂れ始めた。
ほんと分かりやすい。
「一号、美味いか?」
「ぐぎゃ。」
「そうかそうか。もう一本いくか?」
「ぐぎゃ!?」「ぬぁっ!?}
一号と一緒に、魔王がいた場所からも驚きの声が聞こえてきた。
でも気にしない。
「はいよ。」
「ぐぎゃ。」
俺がもう一本渡すと一号は嬉しそうにそれを受け取り、またすぐに美味しそうに噛り付き始めた。
そして、魔王の方から小さな声が聞こえてきた。
「いいな、じゃ…」
でも俺は、それには反応せず…
また一号は、魔王の呟きなんて気にせずにフランクフルトを食べ続ける。
魔王にとっては羨ましい光景が続き…
そしてとうとう我慢の限界がきてしまったようだ。
「お、お主。あのなんじゃだが…」
魔王から声をかけられた。
「なんだ?」
「妾もあれ、食べたいのじゃ!!だからくれ、くれなのじゃ!!」
かかった。
「へー、いいぞ?」
「ほ、ほんとなのじゃ!?なら…
「ただし!」
「な、なんじゃ…?」
魔王が戸惑いながら聞いてきた。
「やることやってからな。」
「な…、い、嫌じゃ。妾は、今すぐにでもそれを食べたいのじゃ!!」
やっぱりか…
ほんとこいつは…
「ならダメ。」
「ぬわぁーーっ!?なんでじゃ?ひどいのじゃ。お主は最低なのじゃ!!クズなのじゃ!!!」
めっちゃ言われるんだけど…
まじで、一回晩御飯でも抜いてやろうか…
「はぁ、そんなこと言われるなら、この話はなかっ…
「あーっ、待つのじゃ。ちょっと待つのじゃ!!」
「なんだよ…」
「ぐぬぬ…」
魔王は苦悩に満ちた顔をする。
そして、少ししてようやく決心がついたのか…
「分かったのじゃ…。やる、やるのじゃ!!!」
「はぁ…」
長かった。
ということでようやく、魔王は働く気になってくれたらしい。
俺、お母さんかな…?
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