朝と

 目をつむっているはずなのに、眩しい太陽に光が目に刺してくる。

 どうやら、朝が来てしまったらしい。


 「ふぁ~~~。」


 目が覚め、俺の口から無意識にそんな音が出てきた。

 

 眠い…

 まだ眠い…

 もう少し寝るか…?


 十分寝たはず…

 なのに、まだ睡魔が俺を襲ってくる。


 ん-…

 昼まで寝るか…

 どうせ、今日も大したことはしないんだし…


 俺がそう思っていると、下から…


 「ふわぁ~~~~~。」


 女の子の声が聞こえてきた。

 どうやら魔王も、この日差しにやられて起きてしまったらしい。


 魔王と勇者を同時に攻撃するだなんて…

 やっぱり太陽さんはすごい。


 俺が馬鹿なことを考えていると、さらに下から声が聞こえてくる。


 「むにゃむにゃ…」


 まだ完全には覚醒してないみたいだ。

 というかあいつ、マジで子供みたいだな…


 まぁいいか、そんなこと…

 だって眠いし、もう昼まで…


 気づくと、俺は意識を失っていた。




 どれくらいの時間が経ったのだろうか…

 頭が…

 いや、身体がぐわんぐわん揺れる。

 まるで誰かに、揺さぶられているように…

 そして声が聞こえてきた。


 「起きるのじゃ…、早く起きるのじゃ…」

 「眠い…」

 「眠いじゃないのじゃ、早く起きるのじゃ…」


 どうやら、魔王が俺を起こそうとしていたみたいだった。


 「眠い、昼まで…」

 「ダメじゃ、ダメじゃ。そんなのダメじゃ!!」

 「うるさいな。なんでだよ…」

 「人間とは朝から起きて動くものなんじゃ。だからお主、早く起きるのじゃ!!」

 

 うんまぁ、間違ってはいない。

 でも…


 「お前、魔王だろ…。だから、規則正しく…」


 ダメだ。

 しゃべるのすら、眠くてめんどくさい。


 「規則正しく生活するのに、人も魔王も関係ないのじゃ。だから早く起きるのじゃ。」


 いや、それはなんか違くね…?

 いや、違わないのか…?

 分かんね…


 そして頭を微妙に使ったからか、目が冴えてきた。


 はぁ、起きるか…


 起き上がった。

 すると魔王から…


 「おっ、起きる気になったのじゃ?えらいのじゃ。」


 そんな声が聞こえてくる。

 というかお前、お母さんか…?


 「ふぁ~~~。」

 「だらしない、大きなあくびなんじゃ。こいつほんとに、勇者、ぐぬっ!?」


 魔王が急に鼻をつまんだ。


 「どうした?」

 「お、お主、息が臭いのじゃ…」

 「息が…?」


 あぁ、それはたぶん…


 「たぶんお前も、臭いぞ?」

 「はっ?そんなわけ…」


 馬鹿にしたように、魔王が鼻で笑ってきた。

 ただ確認はするようで、自分の口元に手を当て、息を吐いてから嗅ぐ。

 すると…


 「くしゃ!?妾の口も臭いのじゃ!!」


 はは、やっぱり…


 「なんでじゃ、なんでなんじゃ!!

 妾はこんなにも可愛くて愛らしいのに、なのになんで…?

 ぐぬぬ、これでも、レディの端くれなのにじゃ…」


 「まぁ、ほんと端の方だろうな…」

 「はっ!?」

 

 俺の言葉に、魔王がキッとした視線を向けてくる。


 「今お主、何か言ったのじゃ!?」

 「いや、言ってないけど…?端の方とか…」

 「今も言ったのじゃ。あとちゃんと、一回目も聞こえてたのじゃ!!」

 「なら聞くなよ…」

 「うるさいのじゃ!!一々うるさいのじゃ!!」

 「はいはい…」

 「ぐー、ぐーなのじゃ!!」


 魔王が変なうねり声で、不満をぶつけてくる。

 でもまぁ…


 「はいはい。」

 「ぐー。まぁ今はいいのじゃ。それよりも、なんで妾の口も臭いのじゃ!!」

 

 あ、まだその話か…


 「昨日さ、ニンニク食っただろ?」

 「うん、なのじゃ…」

 「あれ食うとな、翌日、口臭くなるんだよ…」

 「ぬぁっ!?」

 「だからまぁ、しゃーないやつなんだよ。」

 「ぬぬぬぬ…」

 

 嫌な気持ちを発散しきれないのか、魔王が言葉にすらなってない音で不満を表してくる。

 でもさ…


 「でも、おいしかっただろ…?だから、諦めるしかないんだよ。」

 「ぬぬぬ、確かに美味かったのじゃ…。でも…。ぬぬぬ…」


 美味しさと口臭の天秤が、相当拮抗しているらしい。

 まぁ、分かるけどね、気持ち…

 ただ、それが決まるのをずっと待つのはめんどくさい。


 「じゃ―、下降りるか。」

 「待つのじゃ、もう少し考えさせて…

 「朝ごはん、食べないのか…?」

 「朝、ご飯…?」


 魔王の目が、バッと大きく見開いた。

 そして明るい表情に移り変わって…


 「食べる!食べるのじゃ!!」


 分かりやすいな…

 そして、やっぱり子供みたいだ。


 「じゃー、降りるか。」

 「うん、なのじゃ。」


 こうして俺たちは下へ降り、食堂へと向かった。

 そして今日、魔王の口からニンニクについて述べられることは一度もなかった。

 

 下手したら、端のほうにもいないかもしれない。

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