スキルと復活

 また魔王である少女は、俺の前できれいな土下座をしていた。


 正直、周りから小さい女の子を正座させているように見えそうで嫌なんだよな…

 なんというか、虐待チックというか…

 だからまぁ、ここが人目のない場所で良かった。


 「で、なんで復活したんだ?」


 俺は魔王であり、一度は殺したはずの少女にそう疑問を投げかけた。


 「それはなのじゃ、妾の持っていたスキルのおかげなのじゃ!!!」


 正座のまま、胸を張って…

 少女は何故か自信満々に、そう言い放ってくる。


 お前…

 なんで自分から正座するような立場なのに、そんな自信満々なの…

 ふつー…

 いや、魔王に普通を求めるのは変な話か…


 「スキル…?」

 「そう、スキルなのじゃ。」

 「へー、どんな…?」

 「知りたいのじゃ?」


 勿体付けるように、ニマニマとした顔を向けてくる。

 

 こいつ…

 ほんとこいつは、今の自分の立場を分かってるのか…?


 「別に…

 言わないなら、殺す…


 「あー、あー!!

 それはなのじゃ…」

 

 焦ったように…

 でも少女は、勿体付けるように少し溜めてから…


 「残機、というスキルのおかげなんじゃ!!!」

 「残機…?」


 残機というと、ゲームとかの体力…

 いや、死んでも蘇られる、体力のストックとかか…


 「そう、残機なのじゃ。」

 「ちなみにどんな能力なんだ?」

 「それはなのじゃ、死んでももう一度蘇られる、夢のようなスキルなのじゃ!!」


 死んでも、蘇られる…

 やっぱり、ゲームとかの残機のイメージと一緒か…


 「強いな…」

 「そうじゃろ?そうじゃろーっ?」


 俺の言葉が嬉しかったみたいで、少女はニコニコとそう言ってくる。


 「妾の核さえ無事だったらなのじゃ、蘇れるスキルだったのじゃ!!!」


 核…?

 あと、だった…?


 気になるのが二つ出てきたな…

 とりあえずは核からか…?

 でもおそらくだけど、それはきっと…


 「核…?」

 「そう核なのじゃ。紅くきれいな、まるで妾のように美しい宝石のことじゃ。」


 やっぱりか…


 「だから…」


 「だから…?」

 魔王が、またコテッと首を傾けてくる。

 そして目をぱちぱちとし始め…

 まるでそれは何かを考えているようで、そして…

 「あっ!!!」

 何かに思い至ったらしい。


 「そうじゃ、そういうことだったのじゃ!!!

 勇者、お主!!妾の核を持って帰ったのじゃ!?だから、妾はこんなところで…」


 気づいたらしい…

 魔王がこんなところで蘇ってしまった理由に…


 「ひどいのじゃ、ひどいのじゃ、ひどいのじゃ!!泥棒なんてひどいのじゃ!!!」


 魔王であるお前が、それを言うのか…


 「勇者、お主が持って帰ってなかったら、妾は今こんなところに…

 それにきっと、こんな目にも合ってなかったのじゃ!!それなのに、それなのにお主が持って帰ったから…

 ぬーーーっ!!!!」


 不平をぶつけるように、威嚇してくる。

 大きかった目を鋭く、そして口元を強く結んで…


 でもそれは、小さい子供がただ怒った時の表情で…

 怖いというかは可愛らしさしかない。

 だからどんだけ凄んでも、俺のところには微笑ましさしか届いてこない。


 「そういや、魔王さ…」

 「えっ、無視なのじゃっ!?」

 

 きっと、謝罪かなんか欲しかったのだろう。

 魔王になんかしないけどな…

 

 「さっき…」

 「ぐぐ…」


 魔王が不満そうにしてくる。

 でもそれを相手する気もないし…

 したらしたらで図に乗りそうな気がしたから、俺はまたスルーすることにした。


 「もしかして残機ってスキル、もう使えないのか…?」


 さっき目の前にいるこの少女は、残機の話をしたとき…

 残機はそういうスキル”だった”と言った。

 だからそう言葉にするってことは、きっと…

 

 「ぶー…」


 ただ…

 魔王は俺からの扱いが不満らしく、口を尖らせてくる。


 ほんとこいつ、魔王なのか…?

 もう魔王というよりかは、ただの子供の様な…


 「で、どうなんだ?」

 

 俺が再度そう聞くと、魔王は渋々と…


 「そうじゃ…、残機というスキルは一度だけ…

 というかじゃ、残機のスキルが発動すると、ほとんどのスキルが妾からなくなってしまうのじゃ…」


 あー、だから、”だった”か…

 それに、前は使っていた黒い光線が、さっき使えてなかったのもそういう理由で…

 なるほどな。


 「ということはさ…

 今は、スキルとか魔法とかは使えないのか…?」


 「たぶん、そうなのじゃ…

 前復活したときも、ほとんどのスキルがなくなっておって…

 たった一つ、たった一つしか、残ってなかったのじゃ…」


 「そっか…」


 でも俺たち勇者パーティで魔王と戦った時は、たくさんのスキルと魔法を使っていた。

 ということは…


 

 そもそも…

 スキルで適正がないと、魔法というものは上手く発動しない。

 

 ただここで重要なのは、上手くという部分…

 つまり魔法自体は発動し、練習すればするほど上達…

 スキル、として備わってくる。


 

 だからまぁ…

 きっと目の前の少女は復活してからたくさんの努力をして…

 そして、俺たちと戦った時にはあった、たくさんのスキルを習得していたのだろう。


 「ぬーっ。これもそれも全部…、勇者!お主たちのせいなんじゃ!!!」


 まぁ、確かにそうだ。

 心が痛い。

 

 でも俺は勇者…

 そして目の前にいる少女は魔王…

 だからまぁ、しょうがないことなんだよ。


 「で、スキル…

 今は…、前の時は、何が残っていたんだ?」


 「また無視なのじゃっ!?」

 

 驚く元気な声…

 その声に、少し笑ってしまいそうだった。


 「で、何が残っているんだ?」

 「ぬっ…、冷たい…、勇者は冷たいのじゃ…」

 「いやまぁ…」


 だって、魔王と勇者だし…


 「で?」

 

 「はぁ、しょうがないのじゃ…

 それは…

 それは…

 なぁ、勇者。妾今思ったのじゃが…」


 「どうした…?」

 

 「妾、たくさん…

 今、色々としゃべり過ぎている気がしてるのじゃ…」


 「ほう…」


 気づいたか…

 

 「だってなのじゃ?

 妾が復活した理由も話して、今ほんとんどスキルがないことまで話してしまったのじゃ。

 なら今…、妾はすごくピンチな気がしたのじゃ…

 これでもし、残っているスキルまで話してしまったらじゃ?勇者、お主に殺されてしまう気がしてきたんじゃ…」


 「あー…」


 いや、喋らないならないで、殺すけどな…

 もう、次殺せば死ぬことは分かったし…


 「あー、ってなんじゃ?あーって!!

 怖いのじゃ、その間がすごく怖いのじゃ!!!」

 

 「で、残ったスキルは何なんだ?」

 「ぬぉ!?また無視なのじゃ!?」

 「で?」

 

 「ぐぐぐ…。いいのじゃ、もーいいのじゃ…

 言っても言わなくても、もうどうせそこまで変わらないのじゃ…」


 良くお気づきで…


 「最後のスキル、それはなのじゃ…」

 「あぁ…」

 「魔物使役なのじゃ…」


 魔物、使役…

 

 「というと…」

 

 「あー、そうなのじゃ…

 その辺にいる魔物を操ることができるスキルじゃ…」


 「そうなのか…」


 残ったスキルがそれか…

 なんというか、すごく魔王というイメージに近いのが残ったな。


 「そうなのじゃ…

 とは言ってもなのじゃ、残機で、前はかなり弱くなっていたから、たぶん今回もかなり弱くなっているはずなのじゃ…」

 

 「へ…。ちなみにどれくらい…?」

 「確か、ゴブリンくらい弱い魔物までだったはずじゃ…」

 「なるほどな…」


 弱い…

 けど、かなり便利だな。

 

 「数はどのくらいまでいけるんだ?」

 

 「数…?

 そうじゃな…

 10くらいじゃろうか…?」


 10か…

 ならそこまでだな…

 これがもし100とかなら、すごく…


 というか最終的には、強く…

 そしてもっとたくさんの魔物を使役できるはずだから、やっぱり恐ろしいスキルだな…


 で、今の魔王の現状は聞けたと…

 だから…


 「じゃー…」


 俺は収めていた剣を握った。

 そしたらその瞬間…


 「ぬぬぬ、殺すのか、やっぱり妾を殺すのか…」

 「あぁ…」

 

 「嫌じゃ。そんなの嫌じゃ。やっぱり、死にたくないのじゃ!!」

 「」

 

 「まだ死にたくないのじゃ。もっと色んなことがしたいのじゃ。もっともっと、生きたいのじゃ!!」

 「」

 

 「ぐぬぬぬ…。そうじゃ!!」

 「ん?」

 

 少女は、ニマッと笑った。

 

 「勇者、お主と手を握ってあげるのじゃ…。だから…」

 「手…?ん?」


 どういう意味だ?

 こいつは何を言って…


 俺は少女が何を言いたいのか…

 何を思って、そう言ったのか分からなかった。

 だから少女を見ながら茫然としていると、それに少女は何を思ったのか…


 「ぐぐぐ…。さすが勇者、それくらいじゃ満足できないのじゃ…?なら…」

 少女は顔を赤らめて…

 「ほほほ、ほっぺに、ちゅちゅーでどうなのじゃ!?」


 「ちゅちゅー…?」

 「チューじゃ!!ほっぺにチューじゃ!!!」


 顔を赤めて、少女は怒鳴ってきた。


 「あー、でもなんで…?いや…」

 

 それで、見逃してくれってことか…

 でもなー…

 

 俺は魔王を…

 全く実りを知らない少女を見る。

 そして…


 「チェンジで…」

 「はっ…!?」

 「チェンジでお願いします。」

 「何がチェンジじゃ!!何が!!!」

 「いやだって…」


 子供にキスされてもな…


 「だってなんじゃ!だって!!」

 「それは…。言葉にするのは申し訳ないっていうか…」

 「何が申し訳ないじゃ。ぐぐぐぐ…」


 また、少女が睨みつけてくる。

 ただ少し前と違うのは…

 さっきとは打って変わって、自分で言ったチューという言葉でまだ頬を赤らめていることだ。


 頬は紅く…

 そして、大きい目は少し潤んでいる。


 「腹立つのじゃ…。この勇者、すごく腹立つのじゃ!!」

 「そう言われてもな…」

 「もう知らん。勇者なんて知らんのじゃ!!」


 知らん…


 「そっか。なら…」

 「嘘じゃ、知らんとか嘘なのじゃ!!」

 

 ………

 

 「まぁでも、そろそろ…」

 「あれじゃ、マウストゥマウスでもいいのじゃ…」


 「」

 「もう、なんでも言うことを聞くのじゃ…」


 少女は、すごく必死に懇願してきた。

 そして…


 「なんでも…?」

 

 「そ、そう…

 な、なんでもなのじゃ…」


 「何でも、か…」


 この言葉で、自分の口角が勝手に上がったのが分かってしまった。

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