魔石と子供を
この街に来てから、9日目…
俺はまた、草原で昼寝をしていた。
今している、家と草原…
この二つのサイクルは、思った通りやっぱり最強だった。
やっぱあれらしい。
環境を変えろ、という先人の言葉はやっぱり正しかったみたいだ。
前までの、ベッド一色の生活はすぐに飽きが来たが…
草原という新しいスパイスを入れることで、俺の日常に新しい色が追加され…
この前まで飽きがきていた家での昼寝も、草原での昼寝とまた違って、やっぱり良い物だと再認識することができた。
これが…
これが、気づきというものか…
俺は、つい新しい価値観を手に入れてしまったようだった。
そして今日も程よい日差しに、冷たい風…
もう、俺に寝てくださいと言わんばかりの快適さだった。
だからしょうがないので、俺は寝ることにした。
ただ無駄に時間が過ぎていき、今はお昼過ぎ…
新しい発見とさっきの気づきはどこへやら…
俺は、寝ることに飽きてきていた。
暇だ…
暇だ。
そして暇ということでようやく他の欲求が働きだしたのか、お腹が空いてきてしまった。
腹減った…
ということで、俺は朝…
ちょっと遅い朝ご飯を食べることにした。
そしてちょっと鬱陶しくなってきた草の上に寝ころんだまま、俺はアイテムボックスを開く。
確かこの前、露店で焼き鳥買ったけ…
今日はそれでいいや。
そう思い、俺がアイテムボックスへ手を伸ばそうとした瞬間、赤いものがアイテムボックスから落ちてきた。
「うぉっ!?」
とっさのことに、そんな驚きの声を…
そして反射的に、俺は目をつむってしまった。
落ちてきた赤い何かは、俺の胸元にぶつかった。
「イテッ…」
小さい衝撃でそう痛くもなかったけど、ついついそうこぼしてしまう。
何が落ちてきたんだろう…
俺はそう思い、落ちてきたもの手でを拾う。
そしてそれを、顔の上にまで持ち上げて…
するとそれは…
魔王を倒したときに拾った、楕円の形をした宝石だった。
前見た時にも思ったが、それはやっぱり紅く…
ずっと奥までもが紅だった。
そして太陽の光にかざされているせいか、前よりも光っているように見える。
それはただただきれいで…
さすが、魔王討伐で得られた戦利品なだけはあった。
ぼけーと、それを見つめる時間が続く。
きれいなものはやっぱり、人の目を引き付ける力があるみたいだった。
そして長い間見ていると、宝石の奥…
真ん中あたりで、何か揺らぎのようなものがあるように見えた。
よく見ないと気付かないほど、小さな揺らぎ…
紅の中に、さらに深い紅が動いているかのような…
それは、ずっと見ていられそうな気がした。
でも、お腹も減った。
だから俺は、それをアイテムボックスへとまたしまおうとした。
ちなみにだが、アイテムボックスは生きたモノ以外だったら何でも入るらしい。
そして俺は試したことはないが、昔…
アイテムボックスに生きた魔物を入れてみようとした人がいたらしい。
魔物を瀕死にまで弱らせ、それを開いたアイテムボックスに向かって押す。
でも結局は上手くいかず…
アイテムボックスの入れ口がまるで壁の様なものになって、ただ魔物を押しつけるみたいな形だけで終わってしまったらしい。
たがらその実験のようなもので、アイテムボックスには生きたモノは入らないという結論がつけられたらしい。
なら卵はどうなるのだろうか…
アイテムボックスへは、生きたモノが入らない。
でも、卵とは生きたモノが生まれてくるものだ。
だけど卵の状態で、それは生きていると言えるのだろうか…?
これは、当然議論へと上がってきたらしい。
そして、先人たちが色々と試した結果…
入るものと入らないモノとがあるという結果に終わったらしい。
入るものは、この世界にもいる鶏からのもの。
ただそれも、アイテムボックスへ入るものと入らないものとがあったらしい。
そして絶対に入ることがなかったものは、魔物の卵だ。
色々の魔物の卵で、入るかを試したらしい。
大きいのから小さいの…
日本で言う哺乳類みたいのから、虫や魚のようなものまで…
でも結果は、全部入らないという結果だったらしい。
すごく迂遠な話をしてしまった。
アイテムボックスへと、俺は宝石をしまおうとした。
だけどそれは、アイテムボックスへと再びしまうことができなかった。
「へっ…?」
もう一度、もう一度と…
俺は、アイテムボックスへ宝石をしまおうとする。
でもそれは成功しない。
「な、なんでだ…?」
俺はまた、宝石を見てみる。
するとその宝石の揺らめきは…
さっきまでよりも大きく、そして激しくなっていた。
宝石の中にある紅いナニか、それが渦のように回っている。
それはまるで、何かを形づくっていくかのように収束されていくようにも見えて…
ただそれはやっぱりきれいで…
俺がその紅いナニかに、目を奪われて数秒…
いや、十数秒かもしれない。
その紅い揺らめきが形を形作っていき、ほぼほぼ完成へと近づいた時、俺はそれが何の形になろうとしているかが分かった。
ひし形…
楕円の宝石の中に…
より紅い色の、ひし形の形をした宝石を形づけていることに気づいた。
そしてそれが完成された…
その瞬間…
今まで吹いていた心地よい、穏やかな風から一転…
少し強めの…
まるで台風でも近づいているかのような風が、宝石に収束していくかのように吹き荒れ始めた。
それは強く…
反射的に、俺は目をつむってしまう。
ただ、目の前で起きる現象を見逃すわけにはいかず、片目で何が起きているのかを見続ける。
風が…
いやきっと魔力が、周囲から宝石へと向かい宝石を囲んでいく。
それがなんだか気持ち悪く、俺は手から宝石を投げ捨てた。
ただそれでも、宝石に向かう魔力の渦は止まらず…
そして宝石が、その魔力を身に纏うことも終わらない。
しかも続けて、魔力がまるで物体であるかのように形づけられていく。
そしてひと間…
ほんのひと間で…
宝石…
そして魔力が…
小さい子供へと形づけられてしまった。
背は低く、髪は黒い。
いや、ピンクが混ざったようにも見える。
頭には、角のようなものを二本生やして…
そして、子供が目を開いた。
その瞳は紅く、ただ紅く…
それはまるで、さっきまで俺が見ていた宝石の色の様で…
そしてその子供は…
顔に、明るい笑顔を形づてから…
空へ向かって、大きく手を広げた。
「ぱんぱかぱ~~ん!!
魔王、ふっか~~~~つ!!!!
なのじゃ。」
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