新しい街と怠惰を

 王都を出てから、2週間が経った。

 馬車で移動を行い、俺は今フワロスにいる。

 そして色々と物を買い揃えるため、街をぶらぶらとしていた。


 街を歩く…

 街の外観は、建物の様式は洋風に見える。

 ただもう少し簡単に表すなら、ザ・田舎…、だった。

 

 何本か活気のある通りはあるものも、少し道を外れれば民家。

 木でできた家ばかりで…

 ぼろくなった箇所を、木の板で上から補修している家がかなりある。

 

 そして活気のある通りは、まだそこそことだけど見栄えが良い。

 でもそれは、相対的に比較をした場合で…


 最近できたような、きれいな店は数点あるものも…

 ほとんどが、けっこう年季の入った建物ばかりだ。


 イメージとしては、田舎の小さい商店街とかだろうか…

 俺はそんな街中を歩いていた。


 そしてだけど…

 俺に気づく人は全くと言っていない。


 一応は、勇者をしていて…

 そして仲間の助けも含めてだけど、魔王を倒した身。

 

 一応は、国を上げての人気者だ。

 ただそれは、勇者というスキルと称号だけ。

 

 この世界には、写真というものがない。

 だから、国民に俺の姿を周知させる方法はなく…

 

 そして俺は黒髪で…

 どちらかと言えば、平凡な見た目をしている。

 さらに今身に纏っているものも、どこにでもあるような服で…

 勇者のトレンドマークである剣…

 その剣の鞘も、煌びやかな装飾をしていたものから、今は平凡なものに買い替えてきた。


 だから俺のそんな努力、

 でいいのかな…?

 それが実ってか、俺が勇者だと気づく人はこの街にはいないようだった。


 俺はそれに、寂しさを感じていた。

 

 今までは勇者というだけで強い期待感を押し付けられながらも、かなりちやほやとされていた。

 

 それが一転…

 今俺の周りを歩いている人たちは、誰も俺に目もくれない。


 ただ、これが普通だ。

 これが普通なんだ。


 そう思うと、これからは普通でいられて…

 そしてやっと、俺が欲していた平穏が訪れるんだ。


 そう思うと寂しさ以上に、より大きい嬉しさがこみ上げてきた。

 

 これから…

 これから、俺の第二の…


 間違えた。

 転生前の人生があった。

 だから…

 

 これから、第三の人生が始まるんだ。

 

 


 そして3日後…


 今借りている、一室の借家…

 いや、借家じゃなくて宿屋だわ。

 まぁ、どっちでもいいや。

 

 俺はそこで固めのベッドに身を委ね、横になりながら一つのことを思った。

 それは…


 「暇だ…」


 そう暇だ。

 この街に来てから早3日。


 まじで、やることがない。

 ずっと横になって、飯食って、出すもの出して…

 

 いや、一日目は良かったんだ。

 平穏で、ただ静かに寝られる時間。

 すごく、快適で幸せだった。


 ただ二日目からは、退屈で…

 寝ようと思っても、寝てばかりで寝られず…

 そして起きてても、ただ時間が過ぎて行くのを待つだけ…


 そして三日目の今…

 目は冴え…

 ただ、長い一日が過ぎて行くのを待つだけの時間。

 それはもう、苦痛以外の何ものでもなかった。


 だってこの世界には…

 

 ゲームもなく…

 漫画もなく…

 スマホもなく…

 何も、暇をつぶせるものがない。


 いや、まじで暇だ。

 ちょっと、刺激がなさすぎる。


 ん-、どうしよ…

 ちょっと、俺の思ってスローライフとは違いすぎる。


 もうあれか…?

 すごい魔物でも狩って、誰かにちやほやでもされてみるか…?

 その方がまだ…

 まだ全然楽しそうだ。


 いや待て、違う違う。

 それはない。

 だってそれはもう、俺がしたかったスローライフなんかじゃなく、ただの冒険者ライフだ。

 しかも、最強であるはずの魔王を倒した勇者がするにはちょっと痛めの…

 

 でもなら、どうしたら…


 何か作るか…?


 でも、俺に生産系のスキルはない。

 あるのは…


 ほぼ容量を使い切っている、容量の少ないアイテムボックス。

 あとは身体強化スキルに、剣術スキル。


 なんというか俺…

 かなり脳筋すぎない…?

 こう、馬鹿の一つ覚えみたいに…


 いやまぁ、それも全部あのクソ親父のせいなんだけどさ…


 あと一応は、魔法使いのスキルもある。

 ただそれは、全くといって伸びていない。


 でも、やることもない。


 どうせならもう、伸ばしてみるか…?

 魔法使いのスキル…


 でもそれ…

 スローライフじゃなくね…?


 ということで今日も俺の一日は、寝るだけに終わった。


 


 そしてさらに二日後…

 この街に来てから、計五日目。


 同じく、一室のベッドの上。

 俺はそこで横たわっていた。

 そして…


 「暇だ…」


 そう、ひ…


 「暇だ、暇だ、暇だ、暇だ、暇だ!!!!!」

 

 めっちゃ暇だった。

 何もすることがない。

 ただ、一日が過ぎて行くのを待つだけで…

 暇で暇でしょうがなかった。


 そして…

 ゴン、ゴン、ゴン!!!

 隣の部屋の人から、壁を叩かれてしまった。


 「すみません!!」


 俺は壁に謝る。


 そして今はお昼過ぎ…

 しかも、平日で…

 普通の人は、働きに出かけているはず…

 なのに…

 人のことは言えないが、隣の人も部屋にいる。

 

 もしかしてだけど、隣の人も俺と似たような日常を送っているのかもしれない。

 でもそれ、ただの二―…

 

 いや、止めておこう。

 その言葉は、今の俺にも突き刺さってしまう。

 

 でも久しぶりに、宿屋の人以外と話したな…

 うん。

 

 まぁ、返事も返って来なかったけど…

 いや当たり前か…



 そしてまた、俺の部屋に音のない時間が戻って来た。


 刺激が…

 刺激が欲しい。

 

 「もういっそのこと、魔物森でぐうたらしてみるか…?

 そっちの方が…、方が…

 刺激的で…」


 アリだった。

 いや、普通に考えたらなしだけど…

 でも暇を持て余していた俺からしたら、すごく刺激的で楽しそうだった。


 ということで、善は急げ。

 俺は久しぶりに、宿屋の外に出た。

 


 

 俺は街を散策しながらキャンプ?に必要なものを色々と買い揃え、それらを小さいながらもアイテムボックス…

 異空間?に物を入れて置けるスキルに、買ったものを放り込む。


 ご飯とか…

 寝袋とかだ。


 そして俺は、街を出た。




 街を出る前から、柵…

 魔物の侵入を防ぐための木の囲いの隙間から、薄っすらと見えていたが…

 街を出ると外には、青々とした色の平原が広々と広がっていた。


 距離にするとどれくらいだろう…

 50…?

 それとも100メートルだろうか…


 とりあえず、目算では分からないくらいの平原が広がっており…

 そのさらに奥には、魔物が生息する森が広がっていた。


 でもそんな奥の森には、興味すら向かず…

 俺の興味を引くのは、やっぱりこの気持ちの良い色をした平原だった。

 そして…


 この草をベッドにして寝たら、きっと気持ち良いだろうな…


 この五日間のせいだろうか…

 俺はすっかり、すぐに寝るという思考に至ってしまうことが癖になっていた。


 街を護るための柵に沿うように、俺は草原を歩く。

 すると段々と人の気配が薄れていき、とうとう誰もいなくなってしまった。


 よし、この辺にするか…


 そう思い、俺はそこそこと草が茂っている場所で横たわった。

 

 草の匂い。

 程よく眩しい太陽の光。

 ひんやりと吹く、冷たい風。

 もう最高だった。

 

 これ…

 平原とベッドで一日ごとに寝るのを繰り返せば、もしかして最強なのでは…?

 

 俺は見つけてしまったのかもしれない。

 最高のローテーションを…


 人が誰一人もいないから、当然不快な足音すら聞こえてこない。

 そんな静かで幸せな時間は、俺に睡魔を引き起こしてくる。

 だから俺は、いつの間にか寝てしまっていた。


 ただ…

 

 あれ…?

 俺、今日何しようと思ってたっけ…


 ん-、たしか…

 たしか…


 まっ、いいか。

 どうせ、大したことじゃないだろうし。


 こうして俺の五日目は、草原でのお昼寝で終わりを迎えた。

 

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