解散と始まりを

 謁見での一幕を終え、俺は…

 いや俺たちは、王城の庭に、勇者パーティの4人だけでいた。

 

 また、いずれ会うことはあるのだろう。

 ただここからは、各々が違う道を進む。

 だから今日今この時が、俺たちの関係の一つの節目になる。

 

 だからか…

 何も言わなくても、気づけばいつものこの4人になっていた。


 そしてガネル…

 金色の短髪で、少し背丈の大きい…

 そんな男が、苦笑交じりで言葉を放ってくる。


 「それにしてもフェルグラント侯爵…、その、なんだ…、すごかったな。

 確か前会った時は、なんつーかもっと威厳がある感じだったのに、今日はフランクてか…」

 

 「そうね。前会った時は、もっと怖いおじさん?、みたいな感じだったと思うんだけど、その…、今日はすごく楽しそうな人だったわよね。」


 きれいでしっとりした黒髪…

 そして瞳が薄いピンク色の女性…

 アイラも、ガネルの言葉に、困ったように言葉を続けてくる。


 ただ二人とも口に出したは良いものも、きっと自分から出てくる言葉が自分よりも年配に向ける言葉としてはあれすぎたようで、すごく困っているみたいだった。


 なんだろう。

 

 あのクソ親父は、俺の本当の父親ではない。

 だけどそれでも、この世界での人生の中では本当の父親よりも父親をしてくれていたわけで…

 そんな父親のせいで…

 いや、俺のせいも多少はある気もするけど…

 それでも、二人が困り果てながらしゃべる姿にそこはかとなく申し訳なさが湧いてくる。


 「いやその…、なんかごめん…」

 「別に謝る必要は…」

 「そ、そうよ。悪いことしたわけじゃないんだし…」


 二人ともが、気を使ってくれた。

 

 「なんでかあのクソ親父…

 近衛騎士の話が関わると頭が悪くなるんだよ。普段は、もっとちゃんとしているはずなんだけど…」


 俺はそう言葉にする。

 でも、言ってる途中…


 あのあほさ加減見た後で、こんな弁解、果たして意味あるのか…

 いや、ないな。

 あるわけないな。


 「いや、大丈夫だ。分かってる。ちゃんと分かってるから。結構前にフェルグラント侯爵に会った時”は”、すごくしっかりしてたし…」

 「そうよ。私が前会った時”は”、すごくしっかりしてたわ。」


 二人が、また気を利かせてくれた。

 でも…

 

 「は…」


 あんなでも、多少は尊敬しているからね。

 だから、二人がクソ親父のかっこ良い所を知っているのはまだ救いだ。

 

 でも気になったのは、”は”だ。

 は。


 いや今日のあの醜態で、カッコ良いなんてあり得ないんだけど…

 でもその、”は”という部分はすごく気になった。

 

 そして、俺が小さくこぼした”は”という言葉に…

 ガネル、そしてアイラはヤベって顔をしてから…


 「あっ、で、でも侯爵は大丈夫なのか…?牢屋に連れていかれちまったらしいけど…」

 「そ、そうよね。心配だわー。」


 白々しい。

 

 俺は二人をじっと見つめる。

 すると二人は、額から微かにだが汗をかき始めた。

 

 こいつら…

 いや、ま、別に良いんだけどさ。


 で、確かに言われてみれば心配ではある。

 いや、処刑とかはさすがに無いとは思う…

 ただ一度そう言われてみると、心配にはなってくる。

 

 今から国王様のとこに、圧でも…

 いや、間違えた。

 どうするつもりか、聞きにでも行ってみるか…?


 俺がそんなことを思った時…

 ミア…

 日頃から表情は薄く…

 真っ白の聖衣を身に纏った、肩まで白髪を伸ばした女性から…


 「大丈夫ですよ。さっき教主様にお聞きしたところ、どうやら数日の間、牢に閉じ込められるだけで済むそうなので…」

 

 あー、たった数日、牢に入れられるだけか…


 「そっか、なら良かったわ。」

 「いや、良くはないんじゃないかしら?」


 俺のひと安心からの言葉に、アイラが平坦な抑揚でツッコんできた。

 

 「た、確かに…」


 牢に入れられた時点で…

 いや、でも待てよ…


 「これ、もしかして…、俺からすれば、ラッキーなんじゃないのか?」

 「いや、ひでぇな。」

 

 「いやいやいやそうじゃなくて…

 あのクソ親父が自由の身だったら、今頃絶対に、邪魔してきてただろ?」


 「た、確かに…」

 「そうね…」


 「そ、だからさ、あのクソ親父が今捕まってるのって、実は不幸中の幸いなんじゃないのか…?

 いやまぁ、自分の育ての親が牢屋にいることが幸いって言うのも、おかしな話だけどな…」


 俺の言葉に、三人が小さく笑い声をあげる。

 そして、すぐガネルが…


 「いや、でも分かんねぇぞ?もしかしたら侯爵、釈放された後すぐ、フェデの後を追ってくるかもよ?」

 「いやそれはさすがに…」


 俺は想像する。

 するとすぐに浮かんできた。

 

 あのクソ親父が…

 『お前は、近衛騎士にー。』

 という絵面が…


 「ありえそう…」

 「だろ?」


 そう言葉を続けながら、ガネルは楽しそうな笑顔を見せてくる。


 「そうよね。今日の侯爵の姿見たら、すごくあり得そうだわ。」

 

 アイラまでもがそう続けて来て、楽しそうな笑い顔を浮かべる。

 そしてずっと静かなミアを見てみると、ミアまでもが顔を笑みを浮かべていた。


 話す内容はあれだけど、俺としては楽しい時間…

 でもそんな楽しい時間も、ずっとは続けることはできず…

 どこかで終わりを迎えないといけない。


 そんな寂しい気持ちで…


 「ガネルは王都…?」

 「そうだな、最初は王都って聞いてるな。でもたぶんだけど、田舎のギルドがあるところとか…、あとは、まだ国の領土になってないところを、視察もかねて色々回るみたいな話は聞いてるな。」

 「そっか…」

 

 俺はアイラに向き直り…


 「アイラは…」

 「私は、魔塔だから王都ね。」

 「そっか、そうだよな。旅の時からずっと、魔塔に入りたいって言ってたし…、良かったな。」

 「そうね。魔法使いとしては、魔塔に入ることが一つの目標とされてるから…。嬉しいわ。」


 そう言葉にしたアイラは、キラキラとした瞳をしていた。


 そして魔塔…

 優秀な魔法使いが、国中から集まり…

 優秀であるのならば、世界中から逸材をかき集め、魔法というものだけを研究する場所。

 そしてそこに入っていることが、一つのステータスにもなるらしい。


 ただガネルがぼそっと…

 

 「アイラ、すぐに辞めそうだな…」

 「はっ!?」

 「ひぃぃぃ、すみません…」


 ガネルの、率直なイメージだったらしい。

 すぐに、威圧されちゃったけど…


 「ははっ…」

 

 俺はその光景に、つい笑い声をこぼしてしまう。

 するとガネルから、悲しそうな顔を向けられた。

 まぁ、知らんけど…

 

 そして最後…

 俺はミアに顔を向けて…


 「ミアはー…?」

 「私は、プルレアですね。そこに、聖和教の本拠地がありますので…」

 「プルレアか…、ならまだ近いな。」


 そう、まだ近い…

 

 俺が向かうフワロスは、王都から東に馬車で2週間くらい…

 そしてプルレアは、王都から北東の位置にあって…

 フワロスとは、馬車で3日くらいだったはずだ。


 「そうですね。あちらではお暇を貰えるかは分かりませんが、もしもらえましたら、フワロス…

 いえ、フェデ様のいらっしゃる所へ立ち寄ることにしましょう。」


 「そうだな。そうしてくれると嬉しいよ。俺も機会があればそっちに向かうよ。」

 「えぇ、私も、フェデ様にそうして頂けると嬉しいです。」


 日頃から、あまり表情が動くことがない彼女。

 それはきっと、彼女の聖女という立場からくるもので…

 だけどそんな彼女は、今は微かにだけど優しい笑みを浮かべていた。


 そしてもう、別れの時間。

 皆これから別の道を進み…

 こうして、4人全員が集まることはもうほとんどなくなってしまうだろう。

 

 だからこれが、きっと最後…


 ガネルが、拳を前に出す。

 それに習って、俺も…

 そしてアイラとミアも…


 どうして…

 そして誰が、これを始めようとしたのかは覚えていない。

 

 ただ、最初は恥ずかしくて…

 特にミアが、すごく嫌がっていたのは覚えている。


 ただ今は、そんな彼女も平然と自分の拳を前に出していて…

 そんな彼女に、俺は笑ってしまいそうになる気持ちを抑えながら…

 

 俺たち4人は、全員でその拳を合わせた。


 「じゃーまた…」

 「あぁ。」

 「そうね。」

 「えぇ。」


 こうして、俺たち勇者パーティの幕は終わりを迎えた。

 そしてここからは、俺たち一人一人の人生が始まる。

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