第32話
私は智君と接するようになって、穏やかな時間が自分に流れ始めたことに驚きを感じていた。
最初は最悪な声をかけられたはずなのに、それをネタにして、智君を揶揄うのが楽しい。
だけど、私には時間がないから、あまり彼にかかわるわけにはいかない。
そんなある日、大学の図書館でいつものように本を読んでいた。
別に読む必要があるわけではない。時間を無為に消費しているだけだ。だって、未来が決まっている私には何をしても意味がないのだから。
そんな私が見つけたのは、とても胸の大きな女の子だった。彼女は戸惑った様子で、資料を集めていた。
「ねぇ、あなた何か困っているのかしら?」
「ふぇ?」
「たくさんの資料を持っているようだけど?」
「えっと、あの先輩ですよね?」
「ええ、困っていることがあるなら、手伝うわよ」
「ありがとうございます」
頭を下げた表紙に荷物を落としてしまう可愛い子に、私は笑ってしまう。智君と接するようになった影響かしら? これまで人に興味などなかったのに、自分から声をかけようと思ってしまった。
「私は黒曜美咲、あなたは?」
私は資料を拾ってあげながら、自己紹介をすると、彼女は驚いた顔をして顔を上げた。
「ふぇええ! 綺麗な先輩です! あっ、あの、私は白井未来って言います!」
「未来?」
「はい。ミライって書いて、ミクって言います」
未来ちゃん! 私にはない。未来を持った可愛い子。これは運命に思えた。絶対に智君と引き合わせなければならない。
だから、私はサークルへ誘うことにした。
「経済サークルってどんなところですか?」
未来ちゃんは大きな瞳で私を見つめながら尋ねてきた。彼女の質問はありきたりだったけれど、彼女の表情は真剣だった。
話を聞くと、コスプレヤーとして、実はモデル業をしたいと思っている。だけど、事務所に入る勇気がなくて、自分で何かを求めるような真剣さがあった。その真剣さが、私の心の奥底に眠る何かを刺激した。
「ふふ、未来ちゃんね。経済サークルって言っても、難しいことをしてるわけじゃないわよ。ただ、ちょっとした交流の場って感じかしら。興味があるなら、来てみたら?」
軽く答えると、彼女はほっとしたように笑った。その笑顔は私が忘れていたような純粋さを思い出させてくれた。
未来ちゃんとの出会いは、それから私に小さな変化をもたらした。
彼女は私を慕ってサークルに参加してくれた。何でも興味津々に取り組んでいた。未来ちゃんと智君が知り合いだって知った時は驚いたけど、未来ちゃんの純粋さが私にとって救いのような存在になっていった。
智君の幼馴染さんである藤原由香とも交流を持つようになった。
「由香ちゃん、どうしたの? 最近、元気がないように見えるけど」
彼女はストーカー被害にあっているそうで、智くんに相談をしていたわ。誰かといた方がいいということで、サークルにやってきた。
「実は……ストーカーに悩まされているんです。誰なのかはわからないんですけど、視線を感じたり、手紙が届いたりして……怖くて。」
その話を聞いた瞬間、私は胸がざわついた。
余命を宣告された私には大した未来はないけれど、だからといって、周囲の人が苦しむのを放っておけるわけではない。
智君の関係者が傷つくのを見たくない。
「大丈夫よ。私たちも協力するわ」
智君はあまり目立つタイプではないけれど、芯の強さがある子だった。
私はそんな彼を陰ながら見守ることにした。
その中で、彼の不思議な行動を知ることになった。
彼は私を調査している? そして、それは教授との関係を?
隠れて智君はしているようだけど、彼を見ている私にはすぐにわかってしまう。
ある日、彼が大学の薄暗い廊下を歩きながら、教授のオフィスに向かうのを偶然目撃してしまう。
「何をしているのかしら……」
そう思いながらも、私は遠くからその様子を見守るだけだった。彼の表情は真剣そのもので、何かを決意したような強い目をしていた
彼はきっと何かをしている。
教授のオフィスに入った彼が出てきたのを確認して、私は盗聴器やカメラを見つけた。彼が仕掛け物なのか確信は持てないけれど、あの怪しい動きは多分これね。
彼は教授を調査して何かをしようとしている。
それに気づいた私は、すぐに教授のことを調べた。どうやら教授は女生徒によからぬことをしているようだ。
そして、現在は私がターゲットになっているという噂が流れていた。私が病院に入退院を繰り返して、大学を休みがちになっていたのが、教授の別荘に泊まっていると噂されていた。
「智君は……これを調査していたのね」
私は自分ではないことを知っていたから、すぐに別の角度から調査をすることにした。智君が真相に近づくように誘導してあげなくちゃ。
調べていくうちに、教授が本当にターゲットにしていたのは、未来ちゃんだとわかってしまった。だから、絶対に助けたい。未来ちゃんが教授と会う日に彼を誘導することにした。
智君は未来ちゃんを救ってくれて、教授に証拠も突きつけて黙らせた。
だけど、一度犯罪を起こしたした人が、すぐに改心するとは思えない。だから、私は智君が教授を脅すために使った証拠を借りることにした。
「原田教授、失礼します」
私は一人で、教授に会いに行った。
「黒曜君! なっ、何のようだ」
「その怯え方ならもうわかっておられるのではないですか?」
「何だと!?」
「ああ、安心してください。確かに彼はあなたの秘密を誰にも漏らしていません」
「どうして君が?!」
「それは、私もあなたのことを調べて知っているからです。そして、すでに学長と警察にあなたのことは報告させてもらいました」
私は教授の最後を見るために、会いに来た。
智君は優しすぎる。犯罪者は許してはいけない。私には未来はない。この人にいくら恨まれても何ともない。
「なっ! 何がしたいんだ?!」
「何も、これまであなたが地獄に落とした女性たちよりも酷い地獄に落ちて欲しいと思うだけですよ」
「なっ?!」
教授は項垂れて、へたり込んだ。私はもう相手にする気もないので、教授を置いて部屋を出た。
「ふふ、あ〜はははは! 私は悪い女。だけど、それでもいい。智君は手を汚せない。だけど、私はいくら恨まれてもいい。ふぅ。智君。あなたは綺麗なまま幸せになってほしい」
未来ちゃんを救って、きっと未来ちゃんは智君を好きになる。
それでいい。二人の未来は素晴らしいはずだから。
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