第21話

 あの一件以降から、なぜか白井未来に好かれてしまった。


「ふええ~、今日は久しぶりに新しいフィギュアが届いたんです~!」


 未来が、嬉しそうに俺と美咲先輩に向かって話し始めた。


 俺たち三人は一緒に過ごす時間が多くなってきて、いつの間にか、未来を「白井」ではなく「未来」と呼ぶのが当たり前になっていた。


「フィギュアって、なんのキャラだよそれ」

「えええ!!! これを見てもわからないのですか?!」

「うん」

「仕方ないですね。マジカル魔法少女の名前:マジカル・カオス☆ソラリス。フィギュア名:カオス覚醒!ソラリス-アンノウンフォームVer.です!」


 物凄く自信満々に言われたが聞いたこともねぇ!


「あらすじは、『マジカル・カオス☆ソラリス』は、次元の裂け目に存在する「カオス領域」からやってきた謎の少女、ソラリスが主人公の物語。彼女は、現実世界と異次元のカオスが交わる瞬間に誕生した「次元のカオスの子」であり、その出自のせいで、時空を自在に操る力を持っているです!」


 ヤバいなんか語り出した。


 そこからはあらすじを長々と10分ほど語り出したが、まぁ話をしている未来が嬉しそうなので、聞いてやるか。


「未来、それまたアニメのやつ? どんだけ集めてるんだよ」


 俺が少し呆れたように聞くと、未来はキラキラした目でこちらを見つめた。


「ふええ! もちろんです! 今日は特に楽しみにしていた限定版フィギュアが届いたんです! 次元のカオスソラリスですかね! すごく可愛くて、しかも強くて…!」


 彼女は息を切らすように興奮しながらアニメのキャラクターについて語り始める。


「あら、フィギュア集めに命をかけてるのね。未来ちゃんって本当に真面目よね。そこまで一途に打ち込めることがあるのは素敵だわ」


 美咲先輩がにっこりと笑いながら、未来の話に乗ってくる。


「そうなんです! 私、フィギュアの世界を極めたいんです! 将来はコレクションを公開して展示会を開くのが夢なんですよ!」

「へぇ、展示会ね。それなら智君に手伝ってもらえばいいんじゃない? 彼もきっと何か役に立つわよ」


 美咲先輩がちらりと俺を見て、意味深に笑う。


「何かってアバウトすぎでしょ! 俺が何を手伝うって言うんですか?」


 俺は驚いて美咲先輩を見返す。


「もちろん、フィギュアの展示台を作ったり、設営を手伝ったりするのよ。未来ちゃん、フィギュアを集めるのは得意かもしれないけど、会場の準備とかは力が必要だから、智君にお願いしたらいいんじゃない?」

「ふええ! 智先輩、お願いしてもいいですか? 私、力仕事はちょっと苦手なんです……」


 未来が困ったような顔で俺に頼んでくる。


「おいおい、俺が手伝うのはいいけど、そんなに真剣に考えてたのか?」


 俺は少し驚きながらも、未来の熱意に押されてしまった。


「はい!私、本気です!」


 未来は自信満々に大きな胸を張って言い放つ。


「ふふ、それじゃあ、決まりね。智君、未来ちゃんの夢をサポートするのは男の役目よ。それに未来ちゃんがコスプレしたセクシーな姿が見れるかもしれないわよ」


 美咲先輩がニヤニヤしながら俺にプレッシャーをかけてくる。


「えっ? セクシーな姿?」

「コスプレですか?! はい! 私してますよ! ソラリスは昨年したので見ますか?」

「おっ、おう!」


 フィギュアの衣装はかなり際どい! 本当にこんな格好をしたのか? 僕は若干、ワクワクしながら画像に視線を向けた。


「へへへ、力作なんですよ!」


 そう言って見せられたのは、着ぐるみだった。


「着ぐるみじゃねぇか?!」

「うわっ!? 私のスマホ!」

「ふふふ、智君。人の物を壊してはダメよ」

「いや、あ〜未来。すまん」

「もう、智先輩は乱暴者なのです。美咲先輩を見習ってお淑やかにして欲しいのです!」


 俺としては期待を裏切られた気分ではあるが、今年は頑張ると言っていたので、ワンチャンを考えてしまう。


「智先輩がソラリスのフィギュアを好きになってくれて、繊細さも理解してくれるなら許してあげます! 智先輩は優しいから…ふええ!」


 未来が頬を赤らめながら言うのを聞いて、俺は少し照れ臭くなってしまった。


「おいおい、そんなふうに褒めても何も出ないぞ…」


 俺は頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる。


「ふふ、智君もだいぶ未来ちゃんに懐かれたわね。最初はちょっと距離があったみたいだけど、今ではこんなに仲良しじゃない」


 美咲先輩が楽しそうに俺をからかってくる。


「懐かれたって、俺は別に…ただ、なんとなく一緒にいるだけで……」

「それがまさに懐かれてるってことよ。未来ちゃん、智君のこと大好きでしょ?」

「ふええ! 智先輩は尊敬してます! だって、教授からも私を助けてくれたし、それに優しいし、私がオタクな話をしてもちゃんと聞いてくれるんです!」

「それは…まぁ、普通に話を聞いてるだけだよ」


 俺は困惑しながらも、未来がそんなふうに俺のことを思ってくれていることに、少し嬉しさを感じていた。


「そうよね、智君って意外と器が大きいのよ。だから、私もついからかっちゃうんだけど」


 美咲先輩は笑いながら俺にウインクを送る。


「美咲先輩、からかいすぎなんですよ! 俺は毎回振り回されてばっかりで…」

「それが智君の役目なのよ。男は強くあって、女性を楽しませるもの。でしょ、未来ちゃん?」

「ふええ! そうなんですか? でも、智先輩は私にいつも優しくしてくれるし、もっと一緒にいられるといいなって…」

「おいおい、なんでそんなことをここで言うんだよ!」


 俺はまたもや顔が熱くなるのを感じた。


「ふふ、二人ともかわいいわね。じゃあ、今日は私が奢ってあげるから、楽しく過ごしましょう」


 美咲先輩はそう言って、また俺たちを引き連れてカフェに入っていった。

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