第17話
僕は、様々な仕掛けを施すことにした。
第一段階として、原田教授に仕掛けた隠しカメラと、盗聴器。
由香に対しては、何かあったときに気付けるようにGPSを持ち歩いてもらっている。それはスマホとは別にしてあるので、由香本人にも許可をもらって所持してもらった。
僕だけでなく、美咲先輩にも共有しているので、由香と連絡が取れなくなった際に、使用することを伝えている。
さらに、由香のストーカーを突き止めるために、罠を仕掛けることにもした。由香自身に講義の際や移動の際に周囲で同じ人物はいないか、相手がどんなタイミングを狙っているのか、警戒を強めてもらい。
僕たち三人が由香のことを隠れて見ているものはいないか監視をした。
そこで三名の男が、怪しい人物として浮かび上がっていた。その中に拓也も入っているが、他にも二人の人物が由香の周りで目撃されていた。
「直接的に動いてもらわないとこれ以上は判断できないな」
「なら、智君が由香ちゃんの彼氏としてイチャイチャすればいいんじゃないかしら?」
「美咲先輩?!」
「だって、ストーカーさんとしたら、自分の彼女に由香ちゃんをしたいのよね? なら、他の男と付き合ったと知れば、諦めるか危険なことをしでかすと思うんだけど?」
美咲先輩の提案に、僕は一瞬言葉を失った。確かにその方法で相手の出方を探ることはできるかもしれないが、由香を巻き込むことに少しためらいがあった。
「でも、それって由香に危険が及ぶ可能性もありますよね?」
僕が慎重に言うと、美咲先輩はニヤリと笑って肩をすくめた。
「智君、何も本気で付き合えって言ってるわけじゃないのよ。あくまで演技として、由香ちゃんに少し協力してもらえればいいの」
美咲先輩の言葉に、由香も少し戸惑った表情を浮かべながらも、すぐに覚悟を決めたようにうなずいた。
「うん、私でできることなら協力するよ。今のまま怖い思いをし続けるのも嫌だし、智君がそばにいてくれたら少しは安心できるかも」
その言葉を聞いて、僕も決心した。由香の安全を確保するためなら、多少のリスクは承知の上だ。
「わかった、じゃあ、そういう演技をしてみよう。でも無理はしないように。何かあればすぐに知らせて」
由香は頷き、美咲先輩も満足そうに笑って「いいわね、これでストーカーの動きも見えてくるわ」と意気込んでいた。
数日後、僕は由香と一緒にキャンパス内を歩いていた。周囲の視線が少し気になるが、できるだけ自然な会話を心がけながら彼女の隣を歩く。僕たちが仲良さそうに見えるように意識して会話を続けると、ふと由香が微笑みながら囁いてきた。
「ねえ智君、こうやっていると、なんだか少し昔に戻ったみたいだね」
「昔?」
「ほら、高校の頃、私たちこんな感じで一緒に歩いてたことあったじゃない? 拓也君がいつも見てた気がするけど」
由香の言葉に、僕も少し懐かしさを感じた。高校時代、由香とはよく一緒に過ごしていたが、当時はまさかこんな形で彼女を守る役割になるとは思ってもみなかった。
その時、視線を感じて周囲を見渡すと、少し離れたところに例の怪しい男たちがいた。僕たちの様子を遠くから見ているようだが、動く気配はない。
「やっぱり見てるね」
僕が小声で言うと、由香も少し緊張した表情で頷いた。
「うん。でも、こうしていると少しは安心できる」
由香が笑顔を見せてくれたのを見て、僕は少し安堵した。この状況が彼女の恐怖を和らげる助けになっているなら、それだけでも意義があると思えた。
その後も、僕たちはキャンパス内を自然に歩き回り、彼女の安全を見守る時間を過ごした。そして夕方、待ち合わせしていた美咲先輩と未来さんが合流した。
「どうだった? 何か変わった動きはあった?」
美咲先輩が小声で尋ねてきた。
「怪しい男たちがこちらを見ていたけど、まだ動く気配はないみたいです」
僕が答えると、美咲先輩は少し考え込んでから頷いた。
「そう。彼らの様子を少しずつ探っていきましょう。ただ、由香ちゃんの安全が第一だから、無理はさせないでね」
「もちろんです」
そう話していると、美咲先輩がふと視線を向け、少し離れた場所にいる男の姿を指さした。
「あそこ、彼女を見つめている男がいるわ」
視線の先には、確かに一人の男性が立っていて、僕たちの方をじっと見ていた。だが、すぐに気づいた。その男は拓也だった。
「あ……違います。あの人は、僕の友人で、由香の元カレなんです」
美咲先輩が驚いた表情で僕を見つめた。
「彼が……そうだったのね」
拓也は僕たちに気づくと、少し戸惑ったようにこちらに近づいてきた。僕も由香も、どう説明すべきか迷っていると、彼が申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「智、由香、何やってるんだ? なんか二人で仲良さそうにしてたから、ちょっと心配で……」
拓也は心配して見守っていたのだろう。僕は由香のためにも、慎重に言葉を選びながら説明することにした。
「拓也、実は由香が最近ストーカーに遭っていて、僕が彼氏のふりをして様子を見てたんだ。君が見守ってくれてたのは分かるけど、誤解を招かないように伝えておくよ」
拓也は驚いた表情を浮かべ、すぐに険しい顔でうなずいた。
「なるほど……そういうことなら俺も協力するよ。由香のことは心配だし、何かあればいつでも呼んでくれ」
そう言って拓也は去り、僕は彼の背中を見送りながら、少しだけ安堵を覚えた。
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