第14話
ある日の午後、俺は大学の図書館の隅で、ノートパソコンを開き、自分の通帳の残高を確認していた。
最近の投資の運用結果が思いのほか良く、予想以上の額が口座に入っていることに驚いた。
高校時代から続けている株式投資が徐々に実を結び、少しずつ貯蓄が増えていたのだ。独り身で過ごすなら一生働かなくても良い程度には貯金ができた。
「ふええっ! 智先輩、なんですかその額?!」
突然、耳元で大きな声が響いた。
驚いて振り返ると、未来さんが俺の背後に立っていた。彼女は画面に映し出された通帳残高を覗き込んでいたようで、目をまん丸にして驚いている。
「おい、未来さん! 大声出すなよ。ここ図書館だぞ!」
慌てて声を低くしながら彼女を制したが、すでに周りの視線が俺たちに向けられていた。
「ご、ごめんなさい……でも! 智先輩、これって本当にあなたの口座なのですか?」
未来さんは口元を手で覆いながら、小さな声でそう聞いてきたが、驚きを隠せないようだ。
「ああ、そうだよ。でも、バイトだけじゃなくて、株の運用がうまくいってるからこんなに増えたんだよ。経済学部なら、こういう株式運用も習うだろ?」
「株式投資は習いますが、習って出来るものなのでしょうか? 智先輩って凄い人なのです。美咲先輩が智先輩に習いなさいと言っていた意味がわかったのです」
美咲先輩にも教えてはいないけど、まぁあの人なら何かしら察していそうで怖い。
「いつからやられていたんですか?」
未来さんの目は好奇心で輝いている。まぁ、見られたからには隠す必要はない。それに由香にはこのことを話ししている。
「高校の頃からだよ。なんとなく興味を持って始めたんだけど、気づいたら運用がうまくいって、こんな感じで貯まってきたんだ」
「ふええ……。すごいですね! これだけお金があったら何でもできちゃいますよ! あっ、あの! 私のコスプレイベントにスポンサーとして参加してくれませんか?」
未来さんから、突然顔を近づけ、にっこりと笑顔を見せながらそんなことを提案される。
「スポンサー!? いやいや、そんなの考えてなかったぞ! 未来さんがコスプレをしているっていうのも知らなかったし! 俺は投資家であって、コスプレ支援者じゃないだろ」
俺は慌てて手を振ったが、未来は真剣な顔で続けた。
「智先輩、私は将来的にコスプレイヤーとして有名になりたいって思ってるんです! 智先輩が応援してくれたら、もっともっと頑張れる気がするんです! 一緒に私の夢を叶えませんか?!」
未来さんの目は真剣そのものだ。
「おいおい、本気か? コスプレって趣味でやってるんじゃないのか?」
俺は戸惑いながらも、彼女の熱意に押され気味だ。
「ふええ! 智先輩が協力してくれたら、もっと大きなイベントにも出られるし、プロのカメラマンさんともコラボできるんです! それに、智先輩が私と一緒に写真にコスプレをしてモデルに参加して撮ってくれたら、ファンも増えちゃうかもですよ!」
未来さんは冗談半分で俺をモデルにというが、でもその奥に本気の思いが見え隠れしていた。
「俺がそんな目立つことしたら、周りに何て言われるか……」
「何言ってるの? 智君?!」
急に未来さんとは違う声が割って入ってきた。
振り返ると、美咲先輩が微笑みながらこちらに歩いてきていた。
「美咲先輩……いつから聞いてたんですか?」
「ふふ、全部よ。通帳を覗かれてるところからね」
彼女はニヤリと笑い、俺の隣に座った。
「へぇ、智君が経学サークルで話しているのを聞いたことはあったけど。まさか、そんなにお金を持ってるとは思わなかったわ。大学生でその額って、結構すごいんじゃない?」
美咲先輩は軽く肩をすくめながら言ったが、その目はどこか意味深な光を宿していた。
「まあ、高校の頃からだから、地道にやってきただけですよ。運が良かったんです」
俺は謙遜したが、彼女の視線が鋭く感じた。
「未来ちゃんのコスプレ支援者は面白いかもしれないわよ。あなたも未来ちゃんの可愛さは認めるんじゃない? この溢れんばかりの夢袋を」
そういって美咲先輩が、未来さんの後に回って、大きな夢袋を持ち上げる。
「きゃっ!」
「ふふ、物凄い重量感ね。この清楚な見た目をしている未来ちゃんが、凶器的夢袋を持ち、さらにコスプレをする。想像してみなさい」
うっ! メチャクチャいい。
「それにあなたが未来ちゃんを応援することで、彼女の好感度も爆上がりじゃないかしら? 智君が投資で稼いでいるなら、ちょっとだけ支援してあげたら、未来ちゃんの夢を一緒に叶えてあげられるかもしれないわよ。どうかしら?」
美咲先輩の甘い囁きが、誘惑的な雰囲気を生み出して、少し圧倒されてしまう。
「いや、でも……そんな簡単には……」
俺は言葉を濁したが、美咲先輩はさらりと肩をすくめた。
「もちろん、無理とは言わないわ。でも、考えてみてね。その時はきっと楽しいことが待ってるわよ」
美咲先輩の言葉には明らかに裏があり、俺の心にじわじわと何かが忍び寄る感覚があった。
「ふええ! 私も智先輩の支援が欲しいです! コスプレイベントのスポンサーになって、私が世界に出られるようにしてください! 智先輩ならできます!」
未来さんも負けじと自分の夢を語りながら、俺にお願いしてくる。
「ちょ、ちょっと待て! 美咲先輩も未来さんも、急にそんな大きな話を持ちかけないでくれよ! 俺はただの大学生で、そんな大事な決断を簡単にはできないから!」
俺は頭を抱えながら必死に二人をなだめようとした。
「ふふ、智君、そんなに慌てないで。私たち、別に今すぐにお願いするわけじゃないの。ただ、もしお金に余裕があるなら、夢を叶えるためにちょっとだけ力を貸してほしいのよ」
美咲先輩は落ち着いた声で言いながら、俺をじっと見つめ続ける。
「ふええ~、智先輩、お願いします! 私、絶対に有名になりますから! 智先輩の応援があれば、私、もっと頑張れます!」
未来さんは目をキラキラさせながら、俺の手を握りしめた。
「いやいや、二人とも……なんでこんなに急に俺に期待をかけるんだよ……」
俺は二人に囲まれ、頭が真っ白になりかけていた。どうやら、お金を持っているだけでこんなに振り回されるとは、想像以上に大変なことらしい。
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