第13話
大学のキャンパスを歩きながら、俺は由香をサークル部室へと案内していた。ストーカー被害について相談された以上、少しでも彼女の安心できる場所を増やしてやりたかった。
講義の際には、友人が近くにいてくれる。それ以外の時間をなるべく一緒に過ごすために、俺のサークルに案内することにした。
「智君、サークルってどんなところ?」
「まあ、あんまり派手な活動はないけどな。みんなで経済の話をしたりするんだよ」
「昔から経済系に強かったもんね」
「まぁね。それにそっちに興味にある先輩たちは、俺が知らない情報とか知っているから所属して良かったと思ってるよ」
「ふふ、なんだかいいね」
由香が小さく笑いながら肩をすくめる。俺もそう思う。人付き合いはどうしても得意じゃない。だから、先輩たちからガツガツ来られるのは得意じゃない。だから、たまに集まってお互いの自慢を話し合うぐらいが丁度良い。
部室に到着すると、部屋の奥でくつろいでいる美咲先輩と未来の姿が見えた。未来がこちらに気づいてにっこり微笑む。
「智先輩、こんにちは! …って、あれ? 美人さんを連れてきています!」
すると、美咲先輩も由香に視線を向けて、にやりと微笑んだ。なんだか嫌な予感がする。
「智君、もしかしてナンパに成功したのかしら? それを私たちに自慢するために連れてきたの? あらあら、やるわねぇ〜。そんな美人を口説いてくるなんて、見直したわ!」
美咲先輩が相変わらず俺をからかってくる。
「違いますよ! 由香は幼馴染なんです」
「あらまあ、じゃあ智君ってば美人の幼馴染がいたなんて隠していたのね。まさか…」
美咲先輩が俺をからかうように笑うのを、未来が嬉しそうに見ている。すると、未来があることを思いついた顔で一歩前に出てきて、由香に向かってにこりと笑った。
「はじめまして! 白井未来です! もしかして…智先輩の彼女さんになられたんですか?」
由香が驚いた顔で俺を見たので、俺は慌てて否定する。
「いやいや、彼女じゃない! 由香はただの幼馴染だよ。俺じゃ由香に釣り合わないよ」
すると、由香も慌てて頭を下げた。
「はじめまして。えっと、私は智君の幼馴染で…藤原由香です。皆さん、智君が仲良くしているって聞いて…」
由香は少し戸惑いながらも、俺のことを知っている二人に興味を持ったようで、美咲先輩と未来を見つめていた。
「智君の幼馴染さんね! なるほどなるほど、由香さん。うちのサークルにようこそ」
美咲先輩が爽やかな笑顔を見せながら、軽く肩を叩く。未来もニコニコしながら手を振ってくれた。
「由香先輩、よろしくお願いします! 智先輩と仲良くされてるんですね」
「ありがとうございます。こんな感じのサークルなんですね。なんだか楽しそうですね」
由香は、俺が揶揄われているのを見て笑っていた。最初少し緊張していたが、二人が親しげに接してくれるので、次第に肩の力が抜けたようだった。
「でっ、智君? どうして由香さんをサークルに連れてきたの? 幼馴染ということは二年生なんでしょ? 今からサークル勧誘?」
美咲先輩が問いかけるので、俺は少しだけ真面目な顔をして、由香が悩んでいることを説明した。
もちろん、由香にストーカーのことを話しても良いのか許可をもらって、サークルを使わせてもらう理由を伝えた。
「ふ〜ん、そういうことだったのね。由香さん。私たちも協力させてもらうわ」
「私もです! ストーカーなんて最低です! 相手の嫌がることをするなんて!」
二人は快く許可してくれて、しばらく由香と一緒に行動することで彼女を安心させてやりたいと伝えると、美咲先輩が納得したようにうなずいた。
「なるほどね。智君って優しいわねぇ。私も見習わなくちゃ」
未来も嬉しそうに由香を見つめて頷く。
「そうですね、由香先輩がここにいると安心できるようになって欲しいです!」
「あ、ありがとうございます」
由香は照れくさそうに笑いながらも、徐々にリラックスしている様子だ。二人の明るい雰囲気が彼女に伝わっているのだろうか。
しばらく三人が楽しそうに話をしている様子を眺めていると、次第にその話題はどんどん脱線していく。
「でね、智君って、実は結構頼りになるのよ。ほら、この間も猫カフェで未来ちゃんを助けたりして」
美咲先輩が楽しそうに笑いながら俺のことを話題にする。
「えっ、智君が猫カフェ? バイト先のこと知らなかったです」
由香が驚いた顔をするのを見て、未来がすかさずにこにこと微笑みながら手を叩いた。
「由香先輩、もしかして猫が好きなんですか? 私も大好きなのです! 素敵ですよね!」
「ああ、まあ、猫カフェのバイトだから…」
すると、美咲先輩がからかうようにニヤリと笑った。
「やっぱりね〜、智君って意外にモテるのかもよ? さすが、噂の猫カフェ男子」
「なんですか?! 噂の猫カフェ男子って!」
俺と美咲先輩のやりとりに、未来さんと由香が一緒になって笑ってくれる。
不意に、美咲先輩の噂が頭を過ぎる事もあったが、三人集まれば本当に姦しいという感じだったことで考える余裕もなくなる。
しばらくこうして賑やかに話しながら過ごしているうちに、由香もすっかり二人と打ち解けたようで、少しずつ会話に入っていく。
「智君ってこんなににぎやかなサークルに入ってたんだね」
「智先輩は素敵な人なのです。とても明るくなるんですよ!」
未来さんが得意げに言うと、美咲先輩が小さく肩をすくめて、にやりと笑った。
「ほんとほんと。智君がいるだけでサークルが賑やかになるって言われてるのよね〜」
俺は顔を赤らめながら、どうにも居心地が悪くなってくる。
「もう、からかわないでくださいよ」
そう言って困った顔をしていると、由香が小さく笑って俺を見つめた。
「なんだかいいな、こういうサークルって」
俺も少しホッとしながら、またいつもの賑やかな時間が続いていく。それにしても、三人の笑い声に囲まれると、なんだか俺だけが落ち着かない気がする。
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