第37話・終わるときは、何者かで。
* * *
思えば変な出会いだった。
”なんとなく”で私たちは目覚め、この世界を放浪する。
そこへ与えられるのが”塔”という目標。他にやることがあるほど深慮な人間は多分こんな世界に来ていない。元から浅慮な人間だったから、なあなあで冒険なんかを始めてしまうのだろう。
彼もまたそんな一人だった。私がいてもいなくても、多分きっと前に進み続けただろう。
でも私は……、そんな彼に付いていくことでしか自分であれなかったんだろうなと。そんな感じがするのだ。
『原典、マッチ売りの少女』。
どう見ても生きながらえる事が叶わない少女。幻にすがる事しか出来ず、幻におぼれて消えていく。そんな一生。
私がこの世界にやってきたときから、「ああ、これは本来在り得ざるifの話なんだ」と納得した。
でもそこへ偶然、彼と出会って。”なんとなく”出会った縁を持っていたくて、心内はすがるようについてきた。
結果的にそれでよかった。たくさん旅ができた。塔に辿り着くことが出来た。
幻越しに夢見る少女としては十分な成果だろう。
そんな――私だから。
私だけが先に進む、なんて。ありえないことなんだよ。
同じ人とは思えない力を振るうジャック。確かに、破格の強さだ。
でも駄目だ。それだけでは届かない。
誰かが、背を押してあげなくちゃ。
* * *
攻撃力は圧倒的に上、手数も少なくない。なのに押しきれない。
「く……」
全てを投げうった。なのに、届かないのか。
「疑問か? 気づけないなら教えてやろう」
「なに?」
「全てを投げうったな。存在する価値さえ投げうったお前が先に進めるとでも?」
「進むのは俺じゃない。お前を倒すだけだ!」
「同じだ。お前は、未来さえ放棄してしまったのだから」
何と言おうがこいつは倒す。その為に俺は在る。
「その証拠をみせてやろう」
下手に突き出したナイフが絡めとられる。と同時に強い力が加わり、あっさりと折れてしまった。
「————」
「つまりはそういうことだ。——終われ」
敵の剣が来る。こうなれば素手でも戦って――。
「『原典解放』——」
敵の攻撃は凌がれた。やったのは……リン。
「な、なぜ……」
「私が見てるだけかっての。ちょっとはやり返すわよ」
「駄目だ、お前には――」
「上に登るとかなんとか? まずは今でしょ」
受けた剣を弾き返す。肩を並べて立つ。それを見た敵が一歩、下がった気がした。
「思えば、まともに一緒に戦った事ってないじゃない?」
「それは、俺の原典との相性も・・・・・・」
「未だによく分かってないけど、それは無いんでしょ? じゃぁ残ってるのは『アンタ』だけだ」
「──」
「まだ残っているものがある。なら進むのよ」
「・・・・・・頼もしい、な」
二人で戦う。先頭は俺が。アイツの攻撃は生身には痛いはずだ。そして見切れない。なら体で受けるしかない。
「『宣戦』、『閃』」
やはり刺突を放つ。速さは健在、当然くらうが──。
「!」
「タダではやられんさ・・・・・・!」
食らったと同時に剣を掴む。そして離さない。大きな隙をこじ開ける。
「『原典分化』、厘!」
リンが放つ刀からは異様な力が感じた。あれが、塔側が使える力の一端か!
刀は敵の体を捉えた。普通の人間なら重症だが・・・・・・。
「ぬぅ・・・・・・」
「まだ足りないらしい! リン」
「あいよ!」
敵は剣を手放し、距離を取る。だがそうはさせない。二人、踏み込んで距離を詰める。
敵との間に無数の糸が現れる。ナイフは破壊されたが"なにもかもを絶つ"力は健在だ。爪で空間を引き裂いて障害を打ち消す。
その空間を飛び再び切りかかる。
「リン・・・・・・!?」
刀は振るわれなかった。気が抜けたようにふらりとするリン。
やられた。そう思った。だが──。
「──使えッ!」
こちらに刀を投げて来た。それを受け取る。・・・・・・。
裂帛の気合いで刀を振り抜く。敵を含める広範囲の空間を切り裂いた。
「・・・・・・これほどか」
その一撃を受けた敵はやっと膝を折った。手応えもある。決着だろう。それより──。
「リン・・・・・・!」
ぶっ倒れて天を仰ぐリンに駆け寄る。目で捉えた限り軽傷のはずだが、何があった。
「! お前・・・・・・」
「いやぁ、これまでが無理をいわしてたんだって」
下腹部。かつて俺が刺した場所から致命的な出血をしている。傷口が開いた、様に見える。
「蘇生は?」
「無理だよ。アンタがよく知ってるはず」
「俺のせい、か・・・・・・」
俺の、かつての原典。魔女狩りのジャックには特に蘇生に対して強い抑制効果がある。
原典は捨てた。なのに、呪いだけは着いてくるのか。
「逆に考えるべきじゃない? これは"清算"。ここから先へ進むための、決別の清算」
「これから、先に?」
「なに。なんか変な風に考えてない? 登るんでしょ。迷うな」
でも、俺は──。
「ここまで来たんだ。登るんだ」
──。一人では──。
「”なんとなく”で始まることはある。生まれを選べないように。だけど終わり方は選べるはず。終わるときは、それっぽく、終われるはずだから」
……。
「私の刀、あげる。だから──泣くな」
もう、何も残っていない。それでも、か?
「進め。止まるな。最後まで、——」
「……」
消えた。体が光に帰った。腕の中に、陽炎の揺らぎだけが残った。
……。
俺は――。
「先に進むがいい」
敵、センが語り掛ける。
「なにもかもを失った者よ。お前こそ、終わりを選ぶにふさわしい」
目の前に、階段が。
「往け。——次が最後の試練だ」
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