第33話・共闘

「『原典開放』マトリクス・ネオ」

「『原典分化』、ジャック・ザ・リッパー」


 こちら側にとっても都合がいい。しかしそれは相手にとっても同じだった。


「我々が肩を並べるなど、そうないことだが」

「アマラ姉さん。私は楽しみですよ」


 相手らはなにやら楽しそうな雰囲気をしているが、それはこちらも同じ事。


「悪いが武器がナイフしかなくてな。接近戦は譲って貰おう」

「では中距離はお任せを」


 両者共に構える。アイという女型が斧剣、恐らく前衛になる。もう一人、アマラ、と言ったか。そいつは槍、あるいは杖か。それを持っている。

 魔法使い、という読みでいいのだろうか。あまり経験はないが。


「いくぞ」

「来ます」


 アイが前に出る。同時に俺も前に出る。二人の打ち合いになる、と思っていたのだが。


「(なんだ!?)」


 アイの後方、俺の前方上空。そこに氷柱の槍のようなものが出現した。

 やはり魔法、なのか。氷柱は円錐になり、殺意がにじみ出る。

 初撃くらいは躱せるだろうが、連続は……と思慮したとき。


「お気になさらず。前方にのみ集中を」


 後ろから声がした。同時に銃声のような轟音がした、かと思えば氷柱が砕けていた。援護を任せただけのことはある。

 そして近接戦二人がぶつかり合う。


「くぅ! この力、貴様……」

「お前たちの力がどういう背景を持つのかは知らないが、俺の背景は少し響くぞ」


 それに通常の打ち合いなら既に経験している。有利なのはこちらだ。


「”挨の手”——」


 ――当然、能力を使ってくることも予測出来ている。だが、相手は”女性”である。


「『原典変成』ジャック・Xth」

「っ!?」


 女性体なら俺の能力が届く。早々に決着をつける!

 弓型の斧剣を下へ受け流したあと、足で踏んで固める。動けなくなった体にナイフを突き立てる。——はずだったが。


「ぐあっ!?」


 突然の衝撃が腹部を襲った。それによって地面に転がる事になる。


「助かった。すまない、アマラ姉」

「ヤツの力は少し厄介だ。気を引き締めておけ」


 安堵しているような敵側。対して……。


「失礼、物理なら遠くからなんとか干渉出来ますが、純魔法は自分一人なら問題ありませんが、誰かを守るほど器用ではなくて」

「……互いに誰かを助ける”物語”ではない、ということだな」

「確かに。言われてみれば誰かをどうこうとした事はないですね」


 反省会を開くこちら側。


「どうする? 前衛後衛という戦い方は不向きなようだ」

「ではお互いに前に出ましょう」

「……ぶつからないか?」

「そこは私の能力でなんとかします」


 その”なんとか”に賭ける事にした。


「さて、参りましょうか……」

「お前、もしかして無理してないか?」

「多少は。下層で戦ったセツナとの傷が多いですね」

「やはりか。トドメまで考えなくても、隙を作れれば俺がなんとか出来る」

「……分かりました。努力はしましょう」


 二人並んで立つ。構え、敵を見据える。


「こちらも本領を見せる必要がありそうだ」

「ついていきます。アマラ姉」


 火蓋は俺が切った。先行する。狙うのは手が分かっているアイの方だ。このままでは隙だらけ、だが。

 同時にマトリクスが来ている。彼がアマラを制圧する。援護ではなく同時に戦う。


「——!」


 ナイフを振るう。当然防がれるが、ナイフを滑らせ躱し、斬りつける。

 致命ダメージには至らないが、痛みはあるはず――。


「ち、やっかいな」

「(効きが悪い。純粋な女属性ではないのか?)」


 だが有利ではあるはず。ダメージは通っているはずだから。

 このまま詰めていけば、こちらが先に落とせる――。


 ドゴォッ!


 鈍く、重い轟音が響いた。爆発のような衝撃が生まれ、その中心に――。


「マトリクス……!」


 その黒の男は膝から崩れ、地に伏した。倒された? 奴ほどの存在が。


「アマラ姉」

「造作もない。少々、頑丈だっただけだ」


 二人分の視線を感じ、構える。

 なにか、ただの所作のような杖の動き。なんの意味ない、そう判断してしまった。


「──」


 何をされた。それさえ分からない何かの衝撃を体に受けた。

 体が吹き飛ぶ。こんなものをアイツは相手にしていたのか。


「ぐ・・・・・・」


 ダメージが大きい。立ち上がったところで次の攻撃への抵抗も出来ない。

 やられる。ここまで、か。


「──ちょっと!」


 俺と敵との間にリンが割って入った。


「駄目だ、リン。巻き添えをくらう・・・・・・!」

「それよりもあんた・・・・・・」

「離れろ・・・・・・! ここでお前を失っては──」

「あんた、アレが見えなかったの?」


 ・・・・・・? どういう事だ。見えなかったというのは、やつの攻撃のことか?


「見えたのか? やつの魔法が」

「魔法? そんな大層なもんじゃないでしょ。なんか触手みたいなのがみょーんて出てきて」

「……凌げそうか?」

「多分行ける」

「なら……半分任せる」

「任された」


 気力を振り絞って立つ。敵は謎の多い存在だが……。

 乗り越える。乗り越えなければならない。

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