第31話・『垓』
敵、ガイの攻略をおさらいする。
相手はその圧倒的フィジカルを以ってこちらのナイフや刀といった近接系主装に高い耐性を見せた。しかし、リンの原典開放には何かありそうだ。
こちらの切り札、フェイトブリンガーでは致命傷とまではいかないが、大ダメージを負わせはした。
これで、果たして奴を倒せるのか。
「ふんっ!」
「!?」
「ふぅぅー、流石に堪えたが、なに、この通りだ」
仁王立ちになるガイ。元気が戻った、ように見えるが、ダメージから立ち直ったわけでは無いはず。ただ、空元気で立っているだけ。多分。
「では、再び参る!」
ヤツが距離を詰めてくる。俺が前に立って攻撃を受けるが・・・・・・。
「(左腕しか使えない今、凌ぎきれるか!)」
一抹の不安が頭をよぎるが──。
「(いや、明らかに遅い。やはりダメージは入っている)」
左のナイフと右腕の少しの補助で凌げる。これなら……。
「リン! 原典を打て!」
通常の太刀では通用しない。だが”何故か”リンの原典はダメージが通る。
「骸ッ!」
今度は大きな外骨格のようなものを身に纏った。硬さによっては刀は弾かれるかもしれないが……。
コォン、と高い音が響く。
「ぬぅ!」
「効いた!?」
よろめくガイを見てリンが驚く。やはりなんらかの効果があるらしい。
その隙をフェイトブリンガーで撃ち抜く。さすがにこの弾丸は受けきれないだろう。
「ぐぬああぁぁ!」
弾丸は貫き、纏った装甲ごと破壊した。相変わらず出血は見られないが、リアクションを見るにダメージは通っている。
「え~っと、戦況はどうみればいいの?」
「やや優勢、だと思いたい。でなければ困る」
銃弾が二発も胴を撃ち抜いているのに、いまだに立っている存在がいるというのが異常だが。
「ふむ。ややメタな話だが、あと一発。その銃弾を受ければ私は倒されるだろうな」
「なんだと?」
「その様子では、やはり自分自身ですら扱いきれていなかったようだな。丁度いい。私を倒すついでにその原典定義を定めてしまえ」
こいつ、なんなんだ? 何が目的でそんな──。そういえば、こいつから仕掛けられたから戦っているし、戦わなければならないと、そう思っていたが。目的については分かっていない。
なんなら、聞いた方がいいのかもしれない。
「なあお前・・・・・・」
「なんだ、原典定義ならお前たち冒険者の方が得意だろう」
「そうじゃない。お前はなんで戦っているんだ?」
よくよく考えればこれまで戦って来たのは、この塔を目指すため。そしてその障害となる存在がいたから戦ってきた。
塔側にも、登られるとマズイ理由があるのか。あるいは、何者かの意思があるのか。
「──試練だとも。それ以外にあるか?」
「お前を、いや、お前たちを退けた先に、何がある?」
「「人による」。何を手にするかは貴様次第だ」
真剣に目を覗き込む。どうやら茶化しているわけではなく、本気で知らないらしい。当然か、登頂者は誰もいないのだから。
「それよりも、だ」
敵が、拳を上げしっかりと構える。
「準備は出来たか? 覚悟は決めたか? 路を切り開く決意はいいか?」
相手の意識がこちらへ向くのが分かる。コイツは、最後の打ち合いをするつもりだろう。
俺は──。
「リン。下がってろ」
「でも私ならダメージが・・・・・・」
「いや、多分、そういう問題じゃない」
前に立つ。
「"男"だな。見つけたか、どうやって進むか」
「確信はない。だが、間違いだとしても、これは有意義な間違いになる。そのための、打ち合いだ」
「──よく言った! では・・・・・・、死合いといこう! 凱ッ!」
前に出る。
「『原典開放』、運命を齎す者!」
その銃の名を呼んで起こす。加えて、殴り合いに参加してもらう。
「!?」
そりゃ困惑もするだろう。それなりの威力がある拳を銃身で受けている。並みの銃なら動作不慮の原因になりかねない。
だがこいつは違う。衝撃程度で壊れる訳がない。
銃身から黒い煙が昇る。銃の準備が完了した。あとはこちらの照準のみ。
敵の右手の拳を左のナイフで受け、右へ受け流す。その後に返ってくる敵左の拳を透かし、クロスカウンターの様にすれ違う右手で顎を殴る。
やや仰け反る体に合わせて銃を合わせ、発砲。
「ぐぅお……!」
三度、胴を穿った。これで倒せない相手はいない。”本来なら”。
相手は未だ健在である。相手のタフさにどうこう言っても仕方がない。
だから、コイツの全開を使う必要がある。
「『原典全開、”虚空”の四弾』」
最大火力を三発使ったこの銃に残弾はない。
撃鉄、照準、発砲の三種で構成された三発が作り出す”在り得ざる四発目”。全行程を”確定”する”シ”の弾丸。
音は無く、握った右腕に強い衝撃だけが伝わる。反転した白銀の黒が敵の胴から銃口へ向かって逆行する。破壊しつくす全ての威力を決定する。
「————。見事」
ガイはそう呟き、地に伏した。
* * *
「……どうもなぁ。お前さん程の存在が”これ”をあてずっぽうでやったとは考えられん。やはり気づいているんじゃないのか?」
「なんでさも当然の様に息をしているんだ」
こちらが出し得る最大火力。それを叩きこんだというのに生きている。
「いや? 立てんが。寝返り一つうてんぞ」
「勝った。でいいんだな」
「それは――無論。向こうに上層への階段がある。試練は踏破された。貴殿らは先へ向かう資格がある」
振り向くと確かに階段があった。勝った感じが今一つだが……、勝った。
「……」
「それは……捨てていけ。もう二度と、動くことは無い」
右腕に握られた、銃身の焼き切れたフェイトブリンガー。先ほどの最大開放をもって、原形を留めない程に捻りきれてしまっている。
「これはオマケだ。塔を登るのなら、”何かを失っていくこと”を覚悟するんだ。今回のことも――必然だった。分かるな?」
……。
銃を手放す。想像以上に軽い音がした。
「……行こう。リン」
「待った。この子らはどうなるの」
すっかり忘れていたが少女二人がいるのだった。実際どうなるのだろう。
「俺は倒された。彼女たちも上の階に行ける。だが生き残るかは別の話だ」
続けて言う。
「はっきり言うが……、俺以外は――殺しに来るぞ。粛々とな」
「……。どうする?」
二人の少女は首を振った。助かった。正直、
「あとはどうやってリンを上げるか」
だけに注力したかった。
「……? なに、じっとみて」
……本人はまだ分かってないようだが。まぁ、それも正しいとは限らない。
「とにかく、登ろう。答えは……そのうち付いてくるだろう」
「?」
そして――。
「じゃぁな」
一礼を添えて激戦の場を去っていく。
塔は続く。謎と敵を残して。
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