第30話・ガイ

 ガイ。そう名乗ったナイスガイな男。身長は180代、筋肉質な体、タンクトップにジーパンなのにかっこいい。非常に、整った男だ。


「む、その顔は俺の『原典分化』ナイスガイに見惚れたか? 正直者め!」


 原典の力だった――! なんという……いや、それよりも。


「お前は、塔側の人間だな?」

「いかにも! だがより正確に表現するなら、存在、だろうか。自分で自分を人間だとは判定していなくてな! ガハハ!」


 底抜けに明るい。いい人、に見えるが塔の存在だ。最初に出会ったバクやセツナと同じ、見えないが感じる圧を持っている。

 ——強い。そこの少女共とは文字通り別次元の存在だ。


「ところで!」


 いちいち声が大きく、そのたびにナイフを構えてしまう。


「君たちは先へ、この塔を登ろうというのだろう?」

「・・・・・・ああ」

「では戦いだ! 鎧ッ!」


 光ったと思ったら、装甲のようなものを身に着けた。見た目は簡素なプロテクターだが。


「この気配、原典か!?」

「俺は君たちの様に勿体ぶる程大層な名前では無いからな! 行くぞ、害ッ!」


 凄まじい推力で接近し、拳を振るってくる。早い部類だが、対応出来ない程ではない。が・・・・・・。


「(──重い! まともに喰らえば一撃でやられるか!)」


 幸いにも近接戦で重打撃の使い手とはやり合った記憶がある。凌ぐくらいならなんてことはない。


「ほう! やるな!」

「ちっとは加減しろ・・・・・・!」


 恐ろしいのは拳に纏った薄い装甲。プラスチックの様に見えるのに、それでナイフに向かって殴りつけてくるところだ。

 ナイフの刃面で拳をいなしているのに、少しの傷もついていない。


「どうした? 持っている殺気はその程度か?」

「化け物め・・・・・・!」


 さっきからナイフを使っていなしている、とは言うが、既に原典の力は使っている。ナイフによるダメージはこれ以上上がらない。


「むっ!」


 上手く拳を絡めて動きを止める。一瞬だが、それで十分だった。


「やれ! リン!」


 その背後からリンが斬り伏せんと振りかぶる。


「もらった――!」

「やるな! しかし――概ッ!」


 刀の攻撃は通った。いや、素通りした。


「なに……?」

「ハハハ! 惜しいな!」


 ガイを名乗る男は無傷で健在。——強い。


「どうする?」

「感覚的に、だが。フェイトブリンガーなら効くかもしれない」

「よし、なんでも試してやろうじゃない」


 リンと耳打ち作戦会議する。正直あまり手がない。純粋なフィジカル勝負されるのがここまで苦しいとは。

 銃をリロードし右手に持つ。


「埋まった右手分の攻撃を捌いてくれ」

「了解」


 再び接近。今度はこちらが攻めに出る。防御は俺なら出来るが、リンが不得手だ。攻撃で隙をこじ開ける。


「『原典開放』赤燐!」


 それはなんてことないリンの攻撃だった。だが……。


「(なんだ? 受けたように見えたが、効いた?)」


 明らかに動きが悪くなった。もちろんそのチャンスを逃すわけもなく。


「『原典開放』フェイトブリンガー!」

「ぐ!?」


 ゼロ距離で発砲、弾丸は胴体を貫いた。はずだが――。


「——さすがに、銃弾までは。いや、特殊な弾丸、か。ぐ……」


 タフどころではない。ダメージはあるようだが、傷にはなっていない。


「どうなってやがる」


 なにか手がかりを掴んだようで、壁に当たったような。

 本当に、コイツに勝てるのか?

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