第28話・開幕
扉は開かれた。挑戦者はなだれ込む・・・・・・でもなく、皆悠々と通っていく。
「(流石は歴戦の、ってとこか)」
何があるか分からない。が、何があろうが立ち向かう。そんな人達が揃っているのだろう。
「ほら、私たちも」
「ああ」
一応足並み揃えて進んでいく。
「これで全滅したら面白いわね」
「可能性はなくはない。気をしっかり持て」
入口と思われる境界はベールのようなものでよく見えず、先に入ったやつの後ろ姿はもう見えない。
ベールを潜る。何が待つか。
「・・・・・・」
特筆、何も無い。円形の広場の様な、何も無い空間。白い床、白い壁。光源は分からないが明るい。
そこに先行して入っていった奴らがいた。まず全員ここに集められるのだろうか。
「なんか、不気味ね」
「何一つ分からん。気がつけば教えてくれ」
先行したやつらも周囲を見渡している。情報がない戦いだ。少しでも何かに勘づいたやつから有利になれる。
「・・・・・・む」
そういえばと振り返る。ベールがあるだけで、それを隔てた外から入ってくるやつが次々と見えるだけだ。
「今なら戻れるのかしら」
「止めておいた方がいい。前例はない、だからな」
しばらく後ろを見ていた。しばらくして、入ってくる者がいないか、と思ったが──。
──ゴゴゴ・・・・・・。
「なに?」
「多分、門が閉まる音だろう。締まりきったら──」
音が止む。
「始まる」
しん。静寂。──そこに現れるのは。
「やっほー。初めましてだね。今後ともよろしく〜」
中央に現れる。音もなく、気配もなく。誰一人存在を感知出来ずに、そこに現れた。
白寄りの青の髪。なにより小柄な少年という印象が強い。強くはなそうな見た目だが、状況的に異質な、イレギュラー的な存在だと言わざるを得ない。
全員が戦闘態勢を取る。当然だ。あきらかに塔側の存在。警戒するのは当然だ。
「おー、今回は多いねぇ。たくさん楽しめるのかな? ふふ」
笑顔は無邪気そのもの。しかし、何かをしようとしたのは分かった。
「『原点開放』——」「『原典開放』——」「『原典開放』——」
一部の、近くにいた者たちが能力を開放していく。
「ははっ、すごいや。こんな数は初めてだよ。——ねぇ『セツナ』?」
彼の視線に釣られるように壁の方に目をやる。そこにも、全く気配を感じさせない存在がいた。
「……」
金髪の長い髪。片目が隠れており、見えている片目の鋭さが際立つ。なにより下半身、足の長さが異様で、頭身の6割は脚部だろう。頭と同じか少し大きいか程度の胸からすらりと長い腕が生えている。
少年の方は非武装に見える。たいしてもう一方はアンバランスな十字架の様な、抜き身の剣を携えている。どちらを警戒するかは瞭然だと思いたいが――。
「くっ……死ね――!」
手前の少年に襲い掛かる者が一人。数を減らすという考えか。それなら正しいかもしれない。だが――。
「ああ? ——ぁぁああああ!!」
剣で切りかかった、その腕が、なんの前兆もなく切り飛ばされていた。腕の異変に気付いた時、壁際にいた者がいつの間にかその男の背後に立っていた。
まさに、「刹那」的な出来事だった。
「——油断は、いけません。『バク』」
「えへへ。でも今はセツナがいるもんね」
異質たる二人が会話している。それは親子の様な、親友の様な、深い関係性を感じられた。
「な、なんでや!」
どこかで男が声を上げる。
「なんで――ワイの『原典』が使えん!?」
その言葉は周囲に伝播し、一部のものを混乱させた。先ほど、あの少年の方を『バク』と呼んだ。であるなら、かつて出会ったあの『獏』の、その正体とでも言うべきなのだろうか。
「さて……」
剣を携えた者が周囲を一瞥する。全員に緊張が走った。
「——剪定だ。悪く思うな」
腰の剣に手を掛ける。あれが抜刀されれば、一振りでどれだけの命が吹き飛ぶか。
そう覚悟を決め、こちらも腰のナイフに手を掛ける。
「——では」
腰が下がる。——来る。
その一撃を覚悟した。次の瞬間に、黒い大きな影が動いているのを見た。
「マトリクス……!」
「周囲を見なさい! 上へあがる階段が出現しています!」
そう言われ辺りを見渡す。いつの間にか、何もなかった四方の壁面に階段? のようなものが出来ていた。
「ここは現実とはまるで違う。そう思って臨みなさい!」
マトリクスはヤツの剣を膝と肘で挟んだ状態で話した。
「ジャック!」
「ああ――行こう」
ここは彼に任せ上層階を目指すことにした。
なにがあるか分からない。しかし、進むしかなかった。
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