第27話・最終章、開門

 塔が開く。そう発信されてからしばらくすると、多くの人が集まった。


「(これ全員ネームドか・・・・・・)」


 見渡す感じでは50名ほど、か。何にせよ圧巻の光景だ。ここにいる全ての存在が、何かしらの背景を持った存在だということ。


「ちょっと、なにソワソワしてんの」

「いや、お前も左手を鍔に添えてるだろ。分かるだろ、この異常さが」

「それは・・・・・・、うん。分かるけど」


 ここにいる奴らが、門が開いたら挑戦するやつら、なのだろう。同時に、敵対する相手でもあるかもしれない。

 殺人鬼的な考えかもしれないが、こういう集まったタイミングで一網打尽にしてしまおう。なんて考えるやつはいないようだ。


「今回はかつてない大規模になりそうだな」


 そう言うのは、自称情報通の「カラシニコフ」だ。彼は何度もこの門が開かれるのを見てきたという。


「そうなのか?」

「ああ、今までは多くても20少しくらいだったから、今回はかなり、だな」


 かなり所ではない。過去最大規模じゃないか。


「つっても、賑やかしで来てる奴らもいるからな。こっから10人は減る」

「なるほど、お前みたいなやつも少なくないのか」

「そういうこった」


 だが、だとしても、だ。過去最大規模であることには変わりない。出来ればコイツから過去の情報を聞き出したかったが、そうもいかないようだ。


「さて、俺はここらで去るかね」

「いいのか、見てなくて」

「遠目に見てるさ。いつも通りな。それより、アンタは自分の心配をした方がいいんじゃないか?」

「というと?」

「なに、少し歩いてみれば分かるさ。じゃぁな、納得のいく結末を見つけてくれ」


 そう言って「カラシニコフ」は去っていった。もし戦っていたら、と考えてしまうのは悪い癖かもしれない。


「んで、どうする?」


 リンが声を掛けてくる。


「歩いて情報を集めてみよう。もしかしたら知り合いがいるかもしれない」

「ほー。らしくないわね」

「なにが?」

「案外、緊張してるのかもね」

「?」


 それから周囲をキョロキョロと見ながら塔の足元を目指す事にした。そして歩いてみると案外──。


「おや、本当に再会するとは」

「お前は・・・・・・、名は出さない方がいい、か?」

「どちらでも。──というのは、分かっている、という顔ですね」

「お前には何がどう見えているんだ、『マトリクス』」


 最初に出会ったのはあの『獏』があった時に出会った黒服にサングラスの男だ。相変わらず異質な空気感を持っている。


「見えているものはあなた方と大差ありませんよ。わたしはただ、相性の悪さ、いえ、この場合は良すぎるというべきでしょうか」

「……どうだかな」

「この塔では敵になるのか味方になるか分かりませんが、私にとって警戒すべき相手なのは変わりません」

「そうか」

「なので、時が来たら、必ず決着をつけたいものです」

「俺は戦いたくはないが」

「まあ、そう言わずに」


 口元はほほ笑んでいる、が、目が笑っているかは分からない。

 ではまた、という彼に対し挨拶を返してこちらもその場を後にした。

 また歩いていると、見知った顔に出会う。


「・・・・・・アーサー、か」

「ん・・・・・・その名前を知って、かつ呼ぶと言うことは──」


 その金髪、西洋鎧の男が振り返る。腰には黄金に輝く剣を携えて。


「お前、結構前に会ったな?」

「結構、か。かもしれないな」

「何か用か?」


 再び会ったそいつは、かつての威風堂々さを失っている様に見える。


「・・・・・・かつてのお前は、存在感が強かった。逆に問いたい。何があった?」

「『獏』に名を食われてな・・・・・・」

「・・・・・・」


確かに、俺はその場に居合わせた。その光景を目にしていた。だが、口を噤んでおく事にした。


「原典開放が出来なくなるんだ。ここまで来たんならわかるだろ? やべぇって」

「だが、お前にはその剣がある」

「・・・・・・まあな。だがアーサーではない者が振るう聖剣なんてどんなもんだと思う?」

「それは──」

「そもそもが不思議な話だ。突然自分の背景を失うというのは。偽物だと言われた気分だ」


 我が身の事と思って思案する。自分の背景がなくなる。何のために生き、何を成したのか。それが無くなる。

 在るのは、恐怖か。それとも虚無か。どちらにせよ、恐ろしいものだろうと思う。


「今の俺がどこまでやれるかは知らん。だが塔はあるんだ。逃げる訳にはいかない」


 背景を失ってなお、その男は上を向いていた。表現は悪いが、「かつて名のある者」として、その姿は威厳に満ちていた。


「おっと。もし戦う事になったとしてもだ。その時は手加減なんかするんじゃねぇぞ」

「無論だ。むしろ手加減が効く相手だとは思ってない」

「そうか? なら、そんときを楽しみにしておく。じゃあな」


 聖剣の騎士も去っていった。その背はとても小さく、日没の日ような儚さがあった。


「私らも色々あったけど、他のみんなも色々あったんだろうね」

「だな。負ける気はないが、誰も侮れない」


 そうこうしていたら門の足元に着いた。門の目は開かれ、高い位置から見下している。あと・・・・・・どことなく全体が光っている。


「話しかけたら答えてくれるかな」

「どうかしら。準備中にも暇そうにもみえるわね」


 なんて話していたら──。


「──これより開門する。勇気あるもの、結末を求めるもの。通るがいい」


 というアナウンスと同時に重々しい音と振動が起こり、門がゆっくりと開いていく。


「いよいよね」

「──ああ」


 最終決戦の門が開かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る