第21話・一の夜、異変無し
前を歩く少女、アリス。
後ろを歩く俺は、流れてくる彼女の匂いを追っていた。幼く、それゆえの甘い匂い。少女という特性が持つその甘さは、俺の脳を駆け巡っていた。
「いて。なんだ?」
鳩尾に刀の鞘が当たる。リンがなにかしてきたようだ。
「あんた……、めちゃくちゃ怖い顔してるわよ?」
「そう、か?」
「初対面ですれ違ったら斬ってるかもしれないくらいには、ね」
心当たりは、ある。あのアリスを名乗った少女と出会ってからだ。彼女と出会ってから気が気でない、というか。気になって仕方ないというか。
「あの子が、どうかした?」
「いや、気のせい、気のせい、のはずだ」
「あ?」
そう気のせいのはずなのだ。この感情は、”ありえない”のだから。
「あの……着きました。ウチです」
正面に現れたのはきっかりとした、しかし何処かメルヘンな様な木造建築の家。錯覚か、小さく感じるが近づけばしっかりとした大きさがあることが分かる。
「いや~、家に案内してくれるっていうから助かっちゃうわ~。ほんと、雨風凌げるだけでいいからね」
「いえ!外は危険もありますし、ゆっくりしていってください!」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
・・・・・・思えば(まともな)ネームドの女の子と話すのは初めてではないだろうか。それあってか、リンのテンションが高く感じる。
「どうぞ中へ。好きにくつろいでもらって構いませんので」
促されるまま中へ入る。中は雑然としていて、普通の家というより■■の工房の様な感じだった。
「っ……」
何か、頭の中で引っかかる。だが、これを理解しては……。
「あの、お食事は済まされましたか……?」
「え! もしかして何か作ってくれたり?」
「私のものでよければ、ですが……」
「超歓迎よ! お願いしてもいい? あ手伝いくらいはするよ」
「あ、ではこちらの食材の下ごしらえをお願いしてもいいですか?」
女子二人はなにやら盛り上がっている。俺は……どうしようかな。
「あの……本当に気にしなくていいので。好きにくつろいでくださいね」
「あ、ああ……」
アリスにも気を使わせてしまった。ぎこちないのは分かっているが……。
とりあえず、テーブルにでもついておくか。
「……あんた、なんか手伝ったら?」
「言ってくれれば動くが。どうすればいい?」
「はぁ、まあいいけど」
……なんというか居心地悪い。確かに待っているだけというのも申し訳ないものだが、かといって加わったところで邪魔になるだけだろう。大人しく待つとしよう。
* * *
「……ご馳走様」
「ごちそうさまでしたっ!」
出されたのはシチューとパン。聞くだけだと質素なものだが、シチューは肉こそ入っていないが、野菜がふんだんに使用された食べ応えのあるものだった。
「片付けは任せてもらおうか」
「あっ、わたしもやりますので……」
「いいってアリスちゃん。やらしときなよ」
「でも……」
「構わない。一宿一飯の礼として、当然のこと」
皿を集めて水場に立つ。皿洗いは……灰とたわしか。知識はある。
そうして皿洗いを進めて行った。
* * *
「んじゃ、あとは寝るだけね。アリスちゃん一緒に寝よー」
「はい……、でも、あの本当にいいんですか?」
「物置で構わない。毛布があるだけで十分だ」
一つ屋根の下、異性が共に寝るのはどうか、とリンが今さら言ってきたので、俺は別室で寝ることにした。
「じゃおやすみ~」
「ああ……」
そうして眠りについた。
……。
…………。
何かが、おかしい。
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