第15話・パーティ
「というわけで何もないんだ。すまない」
「スマナイ」
互いが互いの相方と合流する形になった。そして何故かやりあっていた二人を止め、説明をし、矛を収めて貰った。
結果的に彼の望みであった連れとの合流には成功したが……、なんだか険悪な空気を作ってしまった。
「確かに、迂闊な発砲だったかもしれない。だが説明した通り、気を引く為であったのも事実だ。なにより効果はあった。で……ダメか?」
「……(つーん)」
「彼が親切にしてくれたおかげだ。元は私の失態だが、それでも助けてくれたのは彼の優しさがあってこそだ。あまり、困らせないで欲しい」
「……(ぷいっ)」
どうやらお互いにご機嫌取りに苦労しそうだ。なんて失礼な事を考えていたら、双方ほぼ同時に腕を引かれて反対方向に離れることになる。
「(ちょっと、なんであんなバケモンと一緒にいるのよ)」
「成り行きで、な。ヤバいとは思ったが、その逃げるすら出来んでな……」
「(どれくらいヤバいか分かってる? 文字通り一捻りで終わるわよ)」
「やっぱりか。でも悪い奴じゃないし、結果的に良しということで……」
「(迂闊が過ぎるって言ってんのよ!)」
><←こんな感じで訴えてくる。まあ確かに、逆の立場だったらいてもたってもいられなかったかもしれないし、彼女の心労も分かる。とはいえ、だ。
「困っていた人を助けた。それだけなんだ、機嫌を直してくれ」
「ふーん。私も困りましたけど?」
「じゃぁどうすればいい?」
「知らないっ」
うーん、拗ねてしまった。かと言って言葉だけではどうにも出来そうにない。大人しくしながらご機嫌を取っていくしかない、か。
「そちらも苦労しているようだ」
「お前……」
「だが私からは礼を言わせてくれ。私の頼みを聞いてくれた、その一点に感謝を」
「なんにせよ、よかったよ」
「ああ。もし――。次に――。会うことが――! あれば今度は――! こちらが――! 力になると――! ま、また――!」
反対方向からぐいぐいと袖を引かれ連れ去られていく彼。……この世界では、迂闊に名前も聞けやしない。大切にしたい出会いも、名前すら聞けずに終わる。そんな世界なのだ。
「……。さて、俺はあまり見て回れてはいないんだが、どうだった?」
「おなかへった」
「……あ~」
「……」
「何か、気になる所はあったか」
無言で指をさすリン。これは従わざるをえまい。
「……行こうか」
* * *
「よかったのか、こんな所で」
「いいの。丁度食べたかったんだし」
結局、入ったのはファストフード店。そこでバーガー、魚と芋のフライ、ナゲット、クリスプとファストフードで豪快に食べていた。
満足げな顔を見るに、本当にここでよかったようだが。まぁ下手な店のコースなんか頼むより分かりやすくていいか。
「……」
街について聞こう、と思ったが、今は彼女のご機嫌を伺わなければならない。しばらくは黙って……血糖値が上がるのを待とう。
「……そういえばさぁ」
「あ、ああ」
期せずして彼女から話しかけてきた。よかった、と少し安心する。
「あそこ、やけに古臭いビルがあるじゃん?」
「あの頭一つ抜けてるやつか?」
「そう。あれが気になるから後で見に行こうかな~って」
「ふむ……。ただの観光地、ではないのか?」
前に訪れた世界には凱旋門もどきがあった。あれと同じようなものだと思っているのだが。
「この世界に観光地や歴史的背景を持つ建物はほぼ無いと言ってもいいわ。基本的にどの建物にも使用目的があって存在している」
「聞いている限り、何がおかしいのか分からんな。そりゃ、元を辿れば目的があって建造されるわけだし……。いや、”元を辿れば”?」
「そう、建物の『原典』の話になってくる。私たちみたいに動ける存在より脅威ではないけれど、”なにかはある”というわけよ」
もう食べ終えたのか紙ナプキンで口を拭くリン。そして立ち上がりトレイを持つ。もう出る気なのか。
「日が落ちちゃう前に観に行っちゃいましょ。なんか嫌な予感がするのよねぇ」
「それを信じよう。憂いは断つに限る」
「そう? 今日は調子いいじゃない」
ふふ、とほほ笑むリン。俺はただご機嫌伺いをしている、卑怯な男だ。
「じゃっ、早速行っちゃいましょう!」
* * *
リンは不機嫌になった。
「これはどういうことかしら」
「俺にも……。偶然、だろうとしか」
先ほど見ていた古いビル、その地上階。入口と思われるそこには、見知った顔が二人。
「どう、とは随分な口の利き方じゃない。やっぱりみすぼらしい恰好と同じで礼節もまともに身に着けていないようね」
「手前、さっきも調子に乗ってやがったな。いいぜ、叩っ斬ってやる」
「まてまてまて。話を、話を聞くからまて」
前にいるのは少し前にであった男女の二人だ。男の方は相も変わらず凄まじいオーラをしているので見間違えようがない。女の方は全身真っ黒の重そうなローブを纏っている。比較的軽装のリンとは真逆とも言える。
なんとかこうにかリンを抑えていたら声が掛かる。
「そう離れないうちに再会できたな」
「お、おう。そうだな」
尋常ならざる男ほぼ無表情でそう答える。だが声音は機嫌よさそうだった。
「で、お前たちもこのビルを散策しに?」
「散策、では語弊がある。正しくは調査、だろう」
「何かある、ってことか?」
「可能性が高い」
相手方は俺達より情報を持っていそうだ。一緒に行動したほうが(戦力的にも)得な気がする。……相性は、分からないが。
「リン。俺達も彼らと――」
「嫌」
「……」
んも~。もうちょっと大人な対応して欲しいナー。
「私としては追加戦力はありがたい。ぜひ協力して――」
「嫌よ」
「……」
ちょっと女子~。
「……自己紹介をしておこう。俺はジャック。そう呼んでくれていい」
「……、いいのか、名乗って」
「全員抱えているリスクだろう。自分から言わなければ埒が明かないと思ったんでな」
「その覚悟、敬意を以って答えよう。——原典、ハヤブサ。他の名は無い」
ハヤブサ。隼? 鳥の一種か? だがそれだけでこれだけのオーラは出せまい。何かは持っている、そう思っていいだろう。
「ハヤブサ。呼べて光栄だ。——それから、こっちはリンだ」
「ちょ、何勝手に言ってんの!」
「呼び名はいいだろう。俺だってお前の原典は知らないわけだし」
「はぁ、もういいわ。隙に呼んで」
少しはまともな関係になれた、だろうか。あとは――。
「嫌よ」
「……」
「どの名前も明かす気はない」
……まぁ、この世界では普通の反応だな。名前が分かりやすいもの、弱点を孕んでいるものは名だけで致命傷になりかねない。
「まぁ、自衛として正しい判断だ。こちらも無理に聞くつもりはない」
「聞き分けが良くて助かるわ彼氏さん。代わりに好きに読んでいいから」
「彼ピ……!?」
「呼び名は追って考えるとして。全員、ここへ乗り込むということでいいんだな」
全員を見る。……不服そうなのもいるが、心強い一人がうなづいてくれたのでいいということにしよう。
「パーティを組むのはいいけど、私は一番後ろにいるわ。素性の分からないやつに背中なんて預けられないわ」
「リン……」
「これくらいのわがままは通させてもらうわよ」
「……最前列は私が。耐久性には自信があってな」
「ではその後ろに俺が付こう。カウンタースキルが生かせるはずだ」
「頼もしい。ではその間で遊撃をリ……彼女に任せる」
「……」
やや不安が残るが、一応攻略隊を組めた。集団行動は不慣れだが、いずれ登る塔攻略の練習として役に立つだろう。
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