第9話・夢の世界
「ところで、さ」
「ん? シャワーありがと」
「いや、俺たちってどうやって移動してるんだ?」
「徒歩じゃん。何言ってんの?」
「いや、あの瞬間移動みたいなやつだよ」
俺たちはなんだか大きな街にやってきていた。元の記憶だよりに表現するなら、現代の凱旋門の広場のようなものがある大都市にやってきていた。
そこで「シャワー」としか言わなくなったリンを連れて、またしてもお高そうなホテルへやってきていた。そして何故か高層階の部屋にやってきていた。
「ふうっ。いい景色ね~、こういう世界は初めてかも」
「そうだな。未来的というか」
「え、現代じゃない?」
「……現代?」
車が沢山走っている道路を下に見る。現代、そうか、現代か。
そもそも俺たちが生きている世界はなんなんだろうか。塔までの道のりは一本(?)のはずだが、世界観が大きく変わっている。
最初はヨーロッパの街中。次はむかしのどこかの村。そしてビーチときて列車。なんとなくヨーロッパ風として片付きそうだが、ビーチだけは少し違うと思う。
「世界観なんて気にしちゃダメよ。私日本にも行ってきたわ」
「日本、ねぇ」
「すごかったわ。私の剣術もそこで教わったものだし」
「ああ、なんとなくそんな気はしていた。特に――」
「ショウグンニンジャ直伝よ。きっと最強の剣術なんだわ」
「……」
世界は広い。
* * *
夜。
「ルームサービス取りましょ。何食べようかしら~」
「そろそろお前も払えよ。俺と同じ報酬をもらってるはずなんだから」
「はいはい。あんたスシにする? 私お肉かな~」
なんて、会話をしながら夜も更けていった。
夕食も部屋で取り、あとは寝るだけになった。
「んじゃおやすみ~」
「ああ……」
そして、眠りにつく。
*パアァァァァァン!
「起きろぉぉぉぉぉ!」
「痛ってぇぇぇ!」
なんか流れるような睡眠導入だった。一体なにが起こった?
「んもおおおお! 相手にしたくないタイプの敵に連続で当たるなんてぇぇぇぇ!」
「痛い……。で、何がどうなっている?」
リンが俺のベッドの横にいる。そして俺の頬がすごく痛い。多分叩き起こされたのだろう。
で、何が起こったのだろうか。
「この相手は知ってるわ。原典『獏』ね」
「バク? 動物の、無害そうなやつか?」
「そうとも言えるし、違うともいえる。多分頭に浮かんでるそいつで間違いけど、違う所がある。——相手が神ということよ」
神? ゴッドか? とは言われても脅威を感じないというかなんというか。そもそも、獏が怖くない。
「なんて考えてるんでしょ。やっかいよ、こいつは」
「ではどうすればいい。いつ『フェイトブリンガー』を抜く?」
「気が早い。厄介ではあるけど厄害とまではいかないわ」
「うーん。出来るだけ分かりやすく頼む」
そういうと彼女はベッド横から離れ、こちらにも起き上がるよう手招きをしてくる。
「原典解放してみて」
「無駄撃ちはしたくない。あと原典的に軽い気持ちで撃ちたく――」
「五月蝿い。やれ」
なんか圧力を掛けられる。偶に雑になるというか。
「……発動には対象がいる」
「じゃあドアだな。壊していいぞ」
銃を抜き、構える。対象を捉え、照準を定める。
銀の銃身から赤い……。何もでない。
「発動、しない?」
「でしょ。獏の影響なのよ。厄介よね」
「これは……俺たちだけか?」
「いえ、この街一帯……もっとか。夜の街全域、というべきかしら」
という言葉だけでも規模の大きさ、影響力の大きさが分かる。というか、夜全域ということは塔の周りもか。
「世界の更新までは影響を受けないだろうけど」
「更新?」
「ああ、私達が世界を渡ってるあの現象ね」
「やっと最初の話に戻った」
そしてようやく落ち着いた二人(?)。とにかく話を整理しよう。
「で、どうすればいい?」
「まず寝てはダメ。バクに捕捉されて喰われるわ」
「俺の記憶では夢を食うとかだった様な気がするが」
「その通り夢を喰われるわ。するとどうなると思う?」
「……死ぬ?」
「とまではいかないけどそんなものね。原典解放が使えなくなるわ」
原理はともかくそれはマズイということは分かる。ということはまさか。
「俺のフェイトブリンガーは?」
「まず、バクの影響下では全ての原典解放が出来ない。そして次に夢を見る生命体に対して、夢を喰われたら二度と原典解放が使えない状態にさせられる」
「現在進行と永続効果、か」
「そう、なので私たちがすべきは・・・・・・、寝ない事、よ」
・・・・・・それだけ?と思わざるを得ない。が、今は何かが起こっているわけでもなく、敵として明確なやつがいる訳でもない。
「では……何をする?」
その問いにニマリと口角があがるリン。そして待ってましたと言わんばかりに答える。
「夜の街に繰り出します」
* * *
高層階から地上に降りてみると人気がすごかった。周囲の雰囲気もこれまでの変な世界とは違い、現代的なフランスと相違ないものだった。
「まるで観光に来たみたいだな」
「まあ実際そうよ。そして原典解放が使えないからみんな平等な”人間”になる。お祭りみたいなものよ」
人気の多い、とは言ってもそのほとんどがNPC。中身のない存在達ばかりである。だが――。
「ネームド、か?」
「だろうね。話してみよう」
「おい!」
今まで、ネームドと出会ってきた事数回だが、その全てが戦闘に発展している。祭りだかなんだかしらないが、安易に声をかけるのはどうか。
「こんばんわ~。見た所初めてのバク? 困ってたりする?」
なんというか声の掛け方がアレだなぁ。なんて見ていたら。
「わたし、メリー」
認識、理解、判断に五秒は掛かった。本来なら、致命傷だった、かもしれない。
「大丈夫。今は誰も原典開放出来ない」
「はっ……」
ナイフを抜刀。真後ろへ差し込んでいた。
『メリーと名乗る』。もし思っている通りなら、あの『メリーさん』なのか?
「あっ、はっ、はっ。今は誰も原典開放出来ないのだよ。初心者達、もっと気を抜いて楽しむといい。あっ、はっ、はっ」
ぎこちない作り笑いをするリン。こんな現象滅多にないだろうに。そういう自分はどうなんだと言いたくなったが、彼女の重心が深く落ちているところを見るにビビッたのは彼女もだろう。
「お前……」
「あっ、はっ、はっ」
「『不死性』を失って必要以上にビビっているな?」
ピタリと止まるリン。それなりに見てきて分かっていた。彼女の原典は見当つかないが、その能力うんぬんで不死になっていた。はずだ。
「……。はぁ……」
「これを機に命の重さを量ったらどうだ?」
「そんなの知ってる。吹けば飛ぶような、軽い命よ……」
「俺は重い命は知らない。逆説的に軽い命もないと考えている」
「わたし、メリー、さんじゃない……」
「かわいいわね。この世界では原典は意味を成さない。唯一有効なのは、原典でも、エキゾでもない。それは――」
「あッーーーーはッはッはッ!」
妙に耳に触る、甲高い声が聞こえてくる。広場の中央か。
「——スキルを持つものだけ」
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