⑥ 力任せに突っ込んでくる人へのカウンター (72v.1~73v)

【訳文】


 ――もし彼が腕力自慢なら

 ――さしあたり〘走抜※1せよ

 ――手と腕を近づけ

 ――そして、捕らえる時を思慮深く待つ

 ――腕は掴まれ

 ――膝はきみを求める


 ここで技の拡張 ※2は主要部、すなわち〘走抜〙、そしてどのように〘走抜〙をすべきか言っている。


 この〘走抜〙と〘格闘※3は、力に物を言わせて腕を高く振り上げ、きみを押し倒そうと突進してくる者に対して使う技である。


 敵が上段攻撃をしてきた時、きみは〘憤慨撃※4を放ち、手と手が触れ合うようにする(その距離まで踏み込む)。〘同時〙に左手で彼の肘の先端を掴み、〘同時〙に彼から見て左側に押し、〘同時〙にメッサーを捨て、右手もしくは右腕で彼の膝を捕らえ、持ち上げよ。


 もし(彼が倒れるのをこらえて)力が拮抗したなら、両手で彼の右手を掴んで高く持ち上げ、身体を半回転させて彼に背を向け、きみの右肩の上で(彼の右肘を)折れ。



【解説】


 〘憤慨撃〙についての詳細は省きますが、外側から回り込むようにメッサーを振る技だと思ってください。


 相手が大上段に構え、力任せに振り下ろしてくる――その瞬間に(相手から見て)右側から回り込むように斬りつけつつ(これで相手の斬撃を打ちそらして)距離を詰め、投げるか肘を折るというのが、この〘走抜〙という技です。


 〘格闘〙はドイツ語でRingenリンゲンと言い、英語だとレスリングです。このように、メッサー剣術はレスリング技をも内包しているということは是非覚えておいてください。


「この距離では剣は使えまい!」と迂闊に突っ込んでいくと、相手はなんの躊躇いもなくレスリング技を発動し、投げ技や関節破壊技を繰り出してくるということです。


 なんならこの〘走抜〙という技は、ご覧の通り自分から距離を詰めてレスリングを仕掛ける技でしたね。ドイツ剣術を「剣を振る技術」だけだと思ってはいけないのです。ちなみにメッサー剣術における〘格闘〙技は、投げ・関節技・肘や柄頭での打撃など多岐にわたります。



『この〘走抜〙と〘格闘〙は、力に物を言わせて腕を高く振り上げ、きみを押し倒そうと突っ込んでくる者に対して使う技である』


 こうあったように、〘走抜〙は力任せに突っ込んでくる相手へのカウンター技でした。


「西洋剣術は叩き斬るもの」であるなら、体格が大きくて腕力のある人が強い、ということになるでしょう。戦闘という行為において、確かに体格と腕力は大きなアドバンテージになります。それは紛れもない事実です。


 ――ですが、です。体格と腕力にものを言わせて突っ込んでくるだけの素人を、「技」でくだす。それが出来るからこそ武術には価値があるわけです。



【注釈解説】


※1 走抜: Durchlaufenドゥルヒラオフェン


※2 技の拡張者: Mererメーラー derデア Kunstクンスト //師範のことと思われます。Merer(Mehrer)は「増やす人」といった意味ですが、Mehrer desデス Reichesライヒェスで「帝国拡張者(皇帝の尊称)」といった慣用句を構成するため、これに倣って「技の拡張者」と訳しました。いずれにせよ急に偉そうになりましたね、師範。


※3 格闘: Ringenリンゲン //格闘全般をRingenと言いますが、特に剣を使った格闘をRingen amアム Schwertシュヴェアトと呼びます。甲冑剣術(Harnischfechtenハーニッシュフェヒテン)に多いですが、素肌剣術であるメッサー剣術にも幾つか収録されています。


※4 憤慨撃: Entrüsthauエントリュストハウ //ロングソード術で言うところのZwerchhauツヴェルクハウだと思われます。メッサー剣術においては、峰に手を当てて押し込むなどの独特の技法が見られます。

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