③ 3r.3~3v
【訳文】
――何がきみを裁くのか?
――〘怒りの斬撃 - 突
――敵に恥をかかせたいのなら
――〘剥ぎ取り
師範は今、最初の技――〘怒りの斬撃〙として知られるものについて語り始めた。〘怒りの斬撃 - 突〙は全ての上段攻撃を打ち破るが、「切っ先」がなければ、それは「素朴な田舎者の一撃」に過ぎない。
敵が(彼の)右側から
(そして剣と剣がぶつかり合い、拮抗したなら)〘同時〙で切っ先を敵の顔面や胸に向け、さらに表刃が上に、裏刃が下に向くようにせよ。もし敵がその切っ先に気づいたなら、〘巻取り
再び敵がその切っ先に気づいたなら、相手のメッサーに刃を当てながら(きみの)メッサーを引き上げ、彼の反対側の側頭部を打て。これをメッサー〘剥ぎ取り〙と呼ぶ。
【解説】
技名を〘怒りの斬撃 - 突〙と意訳しましたが、直訳すれば「怒りの斬撃 - 切っ先」となります。
力強い袈裟斬り攻
この部分は原文ではschlechter pwern schlagとなっており、「下賤な農民の一撃」などと訳すことも出来ますが……どうにせよバカにしているのは同じですね。
これは漫画やアニメ、ゲーム的な剣の振り方を想像してみれば良いでしょう。袈裟懸けに斬りつけるが、振り終わった時、あるいは鍔迫り合いになった時に切っ先は敵から逸れている――ひどいと天や地面を向いている。あれは素人の振り方だよ、と言っているわけです(誤解なきように言っておきますが、あくまでも剣術上での話です。視覚作品は画的な映えを優先するのが当然です)。
ではどういう斬り方が正しいのかと言えば、剣と剣がぶつかりあった瞬間に切っ先が相手の顔や胸に向いているのが良いのだ、と師範は言っています。この状態に持ち込んでしまえば、あとは剣を押し込むだけで相手の顔や胸を貫けますね。攻撃の終末動作が次の攻撃の準備になっているのが良い、というわけです。
「もし敵がその切っ先に気づいたなら」からのくだりは、当然ですがお相手さんも自分の顔や胸に切っ先が向いていたら「やっべぇ」となって剣を動かし、切っ先を逸らそうとするわけです……そんな時は〘巻取り〙という技法を使って執拗に相手の顔に切っ先を向け続けろ、と師範は言っています。〘巻取り〙は字面から想像できると思いますが、剣と剣を絡ませるように動かす技法です。
そして最後に「再び敵がその切っ先に気づいたなら」からのくだりですが、前段で「常に刃が上に向くようにすること」とあるように、自分の刃が上、相手の刃が下を向いて拮抗している状態を想像してください。
この状態から、剣と剣が触れ合ったまま、自分の剣を上に引き上げます――ぎゃりぎゃりと刃こぼれする音を響かせながら剣を引き上げる。剣と剣が離れる。前段で相手は切っ先をそらすために剣を左右どちらかに大きく動かしているので、滑り落ちてくる彼の剣はこちらには当たらない。そして自由になった自分の剣で、相手の側頭部を打つ。これが〘剥ぎ取り〙というわけです。「引き剥がし」と訳しても良いでしょう。
最初の詩文『敵に恥をかかせたいのなら 〘剥ぎ取り〙を学べ』を振り返ってみれば、これは「同じ〘怒りの斬撃〙でも切っ先の使い方、剣と剣がかち合った
――このようにKunst des Messerfechtensという剣術書は「正しい叩き斬り(〘怒りの斬撃〙)」から教えてくれる、というのが個人的なオモシロポイントです。
なーんだやっぱり西洋剣は叩き斬るものじゃないか! と思ったかどうかはわかりませんが、引き続き読み進めていきましょう。次項では〘怒りの斬撃〙への返し技が紹介されます。
【注釈解説】
※1 怒りの斬撃 - 突:
※2 剥ぎ取り:
※3 巻取り:
※4 力強い袈裟斬り攻撃: 上段からの攻撃全般を
一方で剣の振り方には〘剛〙(Hart)と〘柔〙(Weich)があり、〘柔〙は結果的に相手に押し負けた・あるいはあえて押し負けるように弱く打った状態を指します。つまるところ「〘柔〙の〘怒りの斬撃〙」なんてものも存在しうるのです(そこから派生する技もある)。よって力強く打つか否かは〘怒りの斬撃〙の構成要件ではなく、単なる袈裟斬りを〘怒りの斬撃〙と呼ぶのだ、と考えることも出来ます。
※5 剣と剣がかちあった:
「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットを作る」みたいなノリになるでしょう。拙い訳語だとしても剣術用語に和訳が必要な理由が、ちょっとだけわかって頂けたでしょうか。
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