② 2r.3~3r.2

【訳文】


――怒り / 斬撃 / 目覚めを呼び起こすもの

――憤慨は空濠くうごうに囲われ / 陰謀はまばたきと共に 


――要塞は移動し

――追跡し、寝返り、振り落とし

――転換点を通り、痙攣けいれん

――重圧を断ち切り、走り抜け

――流水の如く奪い

――門を抜け、せきをたどり

――その蛇行は空隙に垂るる



【解説】


 師範は剣の振りすぎで頭がおかしくなり、意味不明なポエムをぎんじ始めたのだ――と断ずるのは少し待ちましょう。


 というのも、この部分は詩文形式で技や構えの名前を列挙しているのです。いわば「メッサー剣術技名覚え歌」というわけです。技名だけを抜き出すと以下のようになります。


――〘怒りの斬撃※1 / 〘驚撃※2

――〘憤慨撃※3〘空濠※4 / 〘陰険撃※5まばた※6


――〘要塞※7〘置換※8

――〘追跡※9〘寝返り※10〘振り落とし※11

――〘転換※12〘痙攣※13

――〘阻塞そさい※14走抜そうばつ※15

――〘流出※16〘奪撃※17

――〘弓弧※18〘突進※19〘剥ぎ取り※20

――〘垂※21〘巻取り※22〘隙※23


 詩文・技名ともに意訳した部分が多いので「詩と一致しないよ?」となる箇所もあるかと思いますが、ひとまず流しておいてください。


 技名の羅列を見てもわけがわからないと思いますが、ここでは技の数に注目してみましょう。


〘要塞〙〘弓弧〙〘垂〙は構え、〘隙〙は狙いの話なので除外するとして、19個の技が列挙されています。……加えて、この「メッサー技名覚え歌」に収録されていない技が10個ほどあるので、だいたい30個前後の技があると考えてください。


 これを「力任せの叩き斬り方が30種類もあるんだ!」と解釈するのも不可能ではないでしょうが……どう思います?


 まあ、これは実際に技の説明を読んでみなければ決着がつかない問題ですね――というわけで次回はやっと技の説明です。


 西洋剣術が叩き斬るものなのかどうか、見ていきましょう。あえて題をつけるならこうなります: 次回「正しい叩き斬り方」――乞うご期待!



【注釈解説】


(原文では「〘置換〙、この技名は引用されている」といった感じで各技名に注記がついています。「引用されている」というのはロングソードや他の剣術からの引用と思われます。ドイツ剣術の「横の繋がり」あるいは「時間軸の繋がり」が感じられますね)


※1 怒りの斬撃: Zornhauツォーンハウ //ロングソードにも同名の技あり。


※2 驚撃: Weckerヴェッカー


※3 憤慨撃: Entrüsthauエントリュストハウ //意訳が強くなるものの「挑発撃」や「虚突」なんて訳語もアリな気はするのですが、何か良い訳案ないですかね……。


※4 空濠: Zwingerツヴィンガー //これも訳語に自信ないですが、「相手を足止めする」というニュアンスでは間違っていない気はします。訳案求む。


※5 陰険撃: Geferhauゲフェーアハウ //これも訳語に(略)。


※6 瞬き: Winkerヴィンカー //原文ではVinckerなどと表記。ウィンカー。「指示棒」「信号棒」と訳してもニュアンスは通じるかもしれませんね。なんかパタパタ、あるいはクルクル振っている感じ。


※7 要塞: Basteiバスタイ //原文ではPastey などと表記。フランス語だとBastilleバスティーユとなりますが、フランス革命の嚆矢こうしとなった「バスティーユ襲撃」で聞き覚えがある方も多いでしょう。あれは「(パリの)要塞襲撃」の意です。


※8 置換: Versetzenフェアゼッツェン //ロングソードにも同名の技あり。


※9 追跡: Nachreisenナーハライゼン //原文ではNachrayßなどと表記。ロングソードにも同名の技あり。


※10 寝返り: Überlaufenユーバーラオフェン //原文ではVberlauffなどと表記。ロングソードにも同名の(略)。


※11 振り落とし: Absetzenアプゼッツェン //原文ではAbsetzと表記。ロングソードにも(略)。


※12 転換: Durchwechselnドゥルヒヴェクセルン //ロングソード(略)。


※13 痙攣: Zuckenツッケン //原文ではZuckなどと表記。ロング(略)。


※14 阻塞: Abschneidenアプシュナイデン //原文ではAbschneydなどと表記。ロン(略)。


※15 走抜: Durchlaufenドゥルヒラオフェン //ロ(略)。


※16 流出: Ablaufenアプラオフェン 


※17 奪撃: Benehmenベネーメン //原文ではbenymなどと表記。


※18 弓弧: Bogenボーゲン //原文ではPogenなどと表記。ロング(略)。英語だとBow、弓のことですね。あるいはスキーをやっている方は「ボーゲン」=「の字のブレーキ」として聞き覚えがあるかもしれません。ハ。そういうイメージです。


※19 突進: Durchgenドゥルヒゲン 


※20 剥ぎ取り: (Messerメッサー)abnemenアプネーメン / Vernehmenフェアネーメン //原文ではwernymなどと表記。


※21 垂: Hengenヘンゲン: //英語ではHang。引っ掛ける、斜めに垂らすといったイメージ。ロングソード(略)。


※22 巻取り: Windenヴィンデン //ロング(略)。


※23 隙: Blößeブレーセ //原文ではplössenなどと表記。ロン(略)。……なのだが、メッサー術ではZinnenツィネンと呼ばれたりする。ちなみにBlößeは現代剣術・ボクシング用語として生き残っています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る