① 概念のお話 (1v.2~1v.5)

【凡例】


・ 〘 〙で囲んだものは剣術用語です。注釈解説ではドイツ語での表記も記しました。動画サイトに「Messer ◯◯」といった感じで検索ワードを打ち込めば、再現団体による解説や実際の動作が見られます。興味があればぜひ。


・( )で囲んだものは、訳者による補足です。


◆◆◆ 以下本文 ◆◆◆


【訳文】


――〘同時※1、〘先手※2と〘後手※3 これらの言葉は

――この剣術の宝である

――〘弱い部位※4と〘強い部位※5は知恵を問う

――きみは剣の芸術を為す


 ここで師範は、〘同時〙〘先手〙〘後手〙こそメッサー剣術の基本だと言っている。〘先手〙と〘後手〙の2つは、全てのことに先行する。


 〘弱い部位〙と〘強い部位〙、そして〘同時〙、これらの言葉は同様に全てのことに先行する。


 これらの術を学べば、メッサーの良き師範となり、諸侯らの前に、正しい技をもって立てるだろう。


 〘先手〙とは: きみが相手を攻撃すると、相手はメッサーを動かし、他の技を使用する。その後に彼の技を出させてはならない。それでは彼を〘先手〙に固定してしまう。


 しかし、相手が〘斬撃※6を放ってきて、自分が動かなければならなくなった場合は、〘同時〙や他の技で再度〘先手〙を奪えるかどうかを確認する。そうすれば、〘後手〙を〘先手〙に変えることができる。


 何よりもメッサーの〘強い部位〙と〘弱い部位〙を知っておくことが大切だ。


 〘強い部位〙は、柄から刃の中央部まで。


 刃の中央から切っ先まで、この部分を〘弱い部位〙と呼ぶ。



【解説】


 技の説明から入らず、概念的な部分から入るあたりはいかにも「剣術っぼさ」を感じさせます。


 ですが「全てに先行する」という表現が2度も出てくるあたりが、なんだかシマらなくて可愛いですね。これらはとにかく重要なんですね師範!! と頷いておきましょう。



 〘先手〙とは「技を繰り出す側 / 対応を強いる側」のこと、対する〘後手〙は「対応を強いられている側」のことだ、と解釈できます。とにかく相手に対応を強い続けることが大切なのだ、というのは頷けることです。


 では〘同時〙とは? ……解説が大変に面倒くさい概念なので、スクールで習ってください。ドイツ剣術の核心的な部分でもあります。「閃き」「瞬間」と訳しても大意からそれないように思えますが、ひとまず本稿を読むうえでは、「同時」「閃き」「瞬間」から連想されるなんかを思い浮かべて頂ければ大丈夫。フィーリング!



 〘強い部位〙〘弱い部位〙は剣の部位を指しています。ようは柄(力点)から近い部分は力が込めやすくて強いが、遠い部分(切っ先)は力が逃げて弱いよね、ということ。物理のお話ですね。


 ちなみにメッサーの重心は十字つばの先、〘強い部位〙の中にあります。ここに重心があると、軽い力で素早く切っ先を動かせます。そのかわり切っ先には力を乗せづらい、という特性が生じます。


 ――さてそうなると、こういう構造の剣は「叩き斬る」行為に向いているのだろうか? という疑問がわいてきます。「叩き斬る」ためなら切っ先側に重心を置いたほうが都合が良いのでは? あるいはリーチを捨てて、重心のある〘強い部位〙で斬りつけるのでしょうか?


 これこそ、剣術書に載っている技を検証することで明らかになってゆくことでしょう。次項では技名が紹介され、その次項から実際の技法がつづられてゆきます。今暫くお付き合いください。



【注釈】


※1 同時: Indesインデス


※2 先手: Vorフォーア //某戦車アニメに脳を焼かれた人は「Panzerパンツァー vorフォー!」のフレーズで聞き覚えがあるかもしれませんね。この場合は「前」を意味しますが、剣術用語では「先手」と訳したほうがしっくり来るかと思います。ちなみに私はウサギさんチーム推しです。


※3 後手: Nachナーハ


※4 弱い部位: Schwächeシュヴェッヒェ //原文ではSwechなどと表記される


※5 強い部位: Stärkeシュテアケ //原文ではSterkなどと表記される


※6 斬撃: Hauハウ //「剣を振って斬りつける」動作全般を指す単語で、他の単語で修飾して技名を構成します。例えばKurzクルツ(短い=裏刃のこと)と組み合わせてKurzhauクルツハウ(裏刃斬り)など。

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