「西洋剣は叩き斬るもの」なのか ― 剣術書からの示唆 ―
しげ・フォン・ニーダーサイタマ
まえがき
『西洋剣は叩き斬るもの
Twitter(現在はXを
インターネットで西洋剣について検索してみれば、有名サイトがこの論を展開しているのだから、幾度となくこの話題が蒸し返されるのも無理はない話だと思います。
『西洋剣は叩き斬るもの』――本当でしょうか?
この話題は、色々な角度から語る人が混在しているせいでややこしくなっています。例えば「西洋はプレートアーマーが発達したから、鎧をぶっ叩くように斬りつけるのだ」と言う人もいます。
これは明確に間違いだと言えます。何故なら鎧を着込んだ状態の相手に対して使う「甲冑剣術
では反対に、甲冑を着ていない状態――すなわち素肌の状態では、どのような技が展開されていたのでしょうか? 剣術書に書かれている内容の多くは、この素肌剣術のものです。
ときに、西洋剣術の技法を記した剣術書は15~16世紀のものを中心に、実に豊富に残っています。特にドイツ(神聖ローマ帝国)では、剣士団体が皇帝より特許状を与えられ、独占的に剣術を教える権利を持つ――といった状況が生まれていました
ここで疑問が浮かんできます。
『力任せに叩きつけるだけなら、剣士団体も特許もいらなくないか? それに、そんな単純なものなら、紙がバカみたいに高い中世の時代にわざわざ書物に書かないんじゃないか?』と。
鉄の棒を力いっぱい振り回すだけなら、それこそ子供でも出来るでしょう――逆説的に、「西洋剣術は力任せに叩きつけるものではないはずだ。そこには"技術"があったはずだ」という推論も可能でしょう。
いえ、冷静に考えれば推論とも呼べないですね。この段階では憶測、もっと言えば裏付けのない「雑語り」にしか過ぎません。
――そこで本稿では、実際の剣術書の内容を紹介しながら、上記の雑語りを検討していきます。あるいはそこまでいかなくとも「実際の西洋剣術はどのようなものだったのか」、その片鱗を感じ取って頂ければ幸いです。
題材とする剣術書は"
ランゲスメッサーという、十字
本稿ではこの剣術書の序盤を抄訳して紹介します(全文は長いので。それに剣術とは明確に殺人術なので、本気で学びたいならスクールに通って適切な指導のもと学ぶか、自分で翻訳して学んでください)。なお私はドイツ語の専門家ではないので、誤訳もあるかと思いますがご容赦くださいね。
まえがきが長くなりましたが、次ページから本編が始まるのでご安心です。西洋剣術書に触れて、少しでも興味を持って頂ければ幸いです。あわよくば一緒にやろうぜ、西洋剣術!
……あわよくば翻訳手伝ってくれ!!
◆◆◆ 以下、注釈解説 ◆◆◆
※1:
「日本刀は引き斬る / 西洋剣は叩き斬る」という対比の文脈で論じる人もいます。
ですがそもそも剣とは手首・肘・肩、あるいは体幹を中心に円弧を描いて運動するものです。普通に振るだけで、自然と「引き斬る」動きになるのです。
わかりづらければこれと逆の動作、「叩き斬る」すなわち「引き斬らない」動作とは何かを想像してみると良いでしょう――ギロチンですね。刃が垂直に落ちてくるあの器具の動きが、完全な「叩き斬る」「引き斬らない」動作です。かなり特殊な動作ですね。
では日本剣術はすべからく「自然な引き斬り」を超えて「引く」のか? ――というと、日本剣術界隈から「いやウチの流派は引かないが?」という回答がちらほら返ってきます。剣士団体が教える権利を独占したがゆえに技法が平準化され、「流派による違い」が希薄化してしまったドイツとは違って面白いところでもあります。
※2: 甲冑剣術:
※3: 『ドイツ中世後期の剣術と剣士団体』(楠戸一彦)に詳しい。
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