第14話 幻の花の行方

かつめしの秘密と「幻の花」の存在を知った凛は、加古川から離れた山奥へ向かうことを決意した。もし幻の花が再び力を手に入れようとする者の手に渡れば、教団と同じような恐ろしい陰謀が再び生まれるかもしれない。猫が語った「人の心を解き放つ力」が善にも悪にもなりうることを理解した今、凛にはその花を見つけ、町を守るためにその力を封じる義務があった。


翌朝、凛は山奥へと向かう準備を整えた。加古川の周囲には険しい山々がそびえ、いくつかの山は古くから神聖視され、地元の人々に「霊山」として恐れられていた。その中でも、幻の花が見つかるとされるのは「影見岳(かげみだけ)」という、登山客もほとんど訪れない場所だ。古い伝承では「影見岳の深淵には、この世のものならざる力が宿っている」と言われ、凛は少しの緊張感を覚えながらも、その足を山へと進めていった。


山道は険しく、鬱蒼と茂る木々に日光が遮られ、薄暗い雰囲気に包まれている。空気はひんやりと冷たく、ただ静寂だけが彼女を包んでいた。道中、ふと風に乗ってかすかに甘い香りが漂ってきた。その香りに導かれるように足を進めると、やがて山の奥深くにひっそりと咲く、美しい青紫色の花々が視界に広がった。


「これが…幻の花…」


凛は驚きと感嘆を抑えきれず、その花々に見入った。花びらは薄く繊細で、月光に照らされて青白く光るように輝いている。その花の根が、教団が追い求めた「覚醒の力」を秘めているのだと思うと、凛の胸は高鳴った。


しかし、その場に長く佇む間もなく、背後に気配を感じた。振り向くと、黒い服に身を包んだ数人の男たちが現れ、彼女を取り囲んでいた。その目は鋭く、彼らが幻の花を狙う者たちであることは明白だった。


「君が幻の花を見つけたようだな。ご苦労だったよ」と、リーダー格の男が冷たく笑った。


凛は身構え、相手の出方を伺った。「あなたたちは誰?この花を何に使おうとしているの?」


男は不敵な笑みを浮かべながら答えた。「我々は、教団の残された意思を引き継ぐ者だ。幻の花の力を手に入れ、人の心を支配する“新たな覚醒”を実現させる。それに、かつて教団が成し得なかった“完全な覚醒”も、今なら成し遂げられるかもしれない」


凛は驚きと共に怒りがこみ上げた。彼らは教団の残党であり、再び町を危険に晒す存在だ。凛は決意を固め、カンフーの構えを取って男たちを見据えた。「あなたたちにこの花を渡すわけにはいかない!」


男たちは一斉に凛に向かって襲いかかってきた。凛は冷静に彼らの動きを見極め、カンフーの技で次々と倒していく。彼女の動きは鋭く正確で、幻の花を守るという使命感が彼女に力を与えていた。彼女は一瞬の隙を見逃さず、彼らの攻撃をかわし、逆に彼らの間合いに入り込んで一撃を加えていく。


やがて最後の男が倒れ、静寂が戻った。息を整えた凛は、地面に倒れた男たちを見下ろし、彼らの持っていた袋の中から巻物のようなものが見えるのに気がついた。彼女は慎重にその巻物を取り出し、中身を確認するために広げた。


巻物には「完全なる覚醒」の儀式に関する詳細が記されていた。幻の花の力を用い、儀式の中心に立つ者が人々の意識を支配するという恐ろしい計画だった。さらに巻物には、この儀式を実行するための特別な祭壇が「影見岳」のどこかに隠されていると記されていた。凛はその計画を阻止するため、すぐに祭壇を探し出して破壊しなければならないと考えた。


花々を後にしてさらに山奥へと進むと、岩に覆われた暗い洞窟が現れた。その入り口には奇妙な紋様が刻まれており、かつて教団が利用していたものと似ている。凛は警戒しながら洞窟に入り、奥へと進んでいった。


やがて洞窟の奥に辿り着くと、そこには古びた祭壇があり、儀式に使われたであろう道具が並んでいた。祭壇の中央には、幻の花が捧げられた跡があり、かすかに香りが漂っている。この場所こそ、教団がかつて儀式を行った場所であり、残党たちが再び復活させようとした祭壇だったのだ。


凛は祭壇に手を触れ、力を込めて破壊を試みた。古びた石が崩れ、祭壇は次第に壊れ始め、洞窟の中に響く音と共に崩れていった。やがて祭壇は完全に崩れ去り、幻の花の力を封じるための儀式がすべて終わったことを凛は確信した。


洞窟を出ると、再び白い猫が現れ、凛を静かに見つめていた。猫の目にはどこか安堵の色が浮かんでいるようだった。


「君が、幻の花の力を再び封じてくれたことで、この地に平和が戻るだろう。しかし、幻の花の伝説は消えない。この先、再びその力を狙う者が現れるかもしれない。それでも君は、この町を守り続ける覚悟があるか?」


凛は力強く頷いた。「私はこの町と、人々の平穏を守るために戦うわ。たとえどんな困難が待っていようとも」


猫は満足げに目を細め、「その覚悟がある限り、君には力が宿り続けるだろう」と告げ、再び夜の闇に姿を消した。


凛は調査室に戻り、これまでの戦いを振り返った。幻の花と教団の残党との戦いは終わったが、この地にはまだ未知の力が眠っているかもしれない。そして、何か新たな危機が訪れたときには、再び立ち上がる必要があるだろう。


加古川の町は静かに夜に包まれていたが、凛の心には強い決意と安らぎが広がっていた。

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