第11話 静かなる余波
教団を倒し、町を救った凛だったが、数日が経った今も不穏な気配が消えたわけではなかった。彼女は日々の鍛錬を続けつつ、幻のかつめし店と教団にまつわる出来事が、町にどのような影響を与えるのかを見守っていた。
ある日、凛は調査室のドアをノックする音に気づいた。ドアを開けると、そこには高橋が立っていた。彼は教団の陰謀に巻き込まれていた一人で、凛にとって重要な情報提供者だった。高橋は少し憔悴した様子ながらも安堵の表情を浮かべていた。
「凛さん、無事に戻ってきてくれて本当にありがとう。君のおかげで教団は崩壊し、町に平和が戻ったように見える。しかし、私は…まだ不安なんだ」
凛は高橋を調査室に迎え入れ、静かに耳を傾けた。「不安って、何か気になることでも?」
高橋はゆっくりと話し始めた。「実は、教団が使っていた幻のかつめし店に関する文書がまだ一部残されているかもしれないんだ。彼らが持っていた秘密が、完全に消えたわけじゃないかもしれない」
凛は深く頷き、その言葉に同意した。「確かに、教団の目的は一度止められたけれど、彼らが研究してきた『覚醒の力』や、かつめしの効果についての知識が完全に失われたわけではない。もしそれが誰かに悪用されるなら、再び町は危険に晒されるかもしれない」
二人の間には緊張感が漂っていた。高橋はふと、小さな紙切れを取り出し、凛に差し出した。
「実は、教団の集会所からこれを見つけたんだ。そこには“西の丘の祠”という場所についての記述がある。教団の残党が最後の拠点として使っていた可能性があるんじゃないかと思ってね」
「西の丘の祠…」凛はその名前を口に出し、すぐに心当たりがあることに気づいた。それは加古川の西の端に位置する古い祠で、地元でもほとんど忘れられた存在だった。祠は小さく、周囲には古びた石碑や捨てられた祭具が散乱しており、今ではほとんど人が訪れない場所だ。
「教団の残党がいるかもしれない以上、私が行って確かめるべきね。もし、かつめしに関する文書や知識が残っているなら、完全に消し去る必要がある」
高橋は凛の決意に小さく頷き、「くれぐれも気をつけてくれ」と静かに告げて、調査室を後にした。
翌朝、凛は西の丘の祠に向けて歩き始めた。道中は静かで、祠に近づくにつれて薄暗い森が彼女の周りを包んでいく。祠の前にたどり着くと、そこには朽ち果てた木製の鳥居があり、長い年月を経た古びた雰囲気が漂っていた。
彼女が祠の中に入ると、空気が異様に冷たく感じられた。小さな祠の内部には、石でできた小さな祭壇があり、その周囲にはいくつかの古い巻物や、かつて使われたであろう儀式の道具が残されていた。
慎重に祭壇を調べると、奥に隠されていた一冊の文書を見つけた。それは教団が使っていた「覚醒の儀式」に関するものだった。凛はその文書を読み進めると、教団が「覚醒」の力を得るための詳細な手順や、さらなる強力な力を引き出す方法について記していることが分かった。
「覚醒の儀式を真に完成させるには、“供物”に加え、特定の地点で捧げられた祈りが必要である。それが叶えば、人の欲望と恐怖を完全に支配し、新たな時代を築く力が宿る」
凛はその恐ろしい内容に息を飲んだ。教団の計画はまだ完全に潰えたわけではなく、残党たちはこの祠で儀式を再び完成させようとしている可能性がある。
そのとき、背後で物音がした。振り向くと、黒服の男が二人、祠の入口を塞ぐように立っていた。
「やはり、来たか。君がここに現れることは予想していたよ」
その声に、凛はすぐさま構えを取り、警戒を強めた。「教団の残党ね?儀式を再び試みるつもりかしら」
男たちは冷たい目で凛を見つめ、にやりと笑った。「君が知っていることはすべてここで終わりにする。君を供物に捧げ、覚醒の力を再び得るのだ」
男たちは一斉に凛に向かって突進してきた。凛は彼らの動きを読み、カンフーの技で彼らの攻撃をかわしつつ、的確に反撃していく。男たちの技は荒々しく、凛の動きに圧倒されていたが、彼らの執念が凛に襲いかかり続ける。
彼女は集中力を高め、息を合わせた一撃で彼らを次々と倒していった。最後の一人が地面に倒れると、祠の中は再び静寂に包まれた。
凛は息を整えながら祭壇の前に戻り、見つけた文書を手に取り、祠の外に出た。祠に残された儀式の道具や文書は、すべて焼き払うべきだと彼女は決意した。そうすることで、教団が残した恐ろしい知識が二度と世に放たれることはないだろう。
祠の前で火を起こし、見つけた文書や巻物を次々に炎の中へと投げ入れていく。書物が燃え、儀式に使われた道具がすべて灰になっていく中で、凛は深い安堵を感じた。これで、教団の企みが二度と復活することはないだろう。
彼女が静かに祠を後にすると、遠くの木陰から白い猫がじっと見つめていた。その目にはどこか優しさと誇りが浮かんでいるように見えた。
加古川の町に戻った凛は、教団の陰謀が完全に消え去ったことを確信し、これまでの戦いを振り返った。多くの試練と危険があったが、彼女の決意と行動が町を救ったのだと、静かな満足感が胸に広がった。
「これで、本当にすべてが終わった…」
凛は夜の静かな町を見つめ、再び訪れる日常に感謝しながら、自分の役割を全うしたことに安堵していた。
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