第9話 囁かれる秘密
凛は洋館から調査室に戻り、冷静にこれまでの情報を整理し始めた。教団の教祖が語った「覚醒」の力、そしてそのためにかつめしが利用されているという恐ろしい真実。かつめしを口にすることで欲望や恐怖が表面化し、人を操るための「供物」として捧げられる計画を、教団はどれほどの時間と労力を費やして育んできたのだろうか。さらに、彼らが求める「真の覚醒」とは一体何なのか。その全貌を知るには、まだ手がかりが足りなかった。
その夜、再び調査室に現れたのは白い猫だった。猫はじっと凛を見つめ、低く語りかけてきた。
「ここまで辿り着いたのは見事だが、教団の企みを止めるためには、もう一つ重要な場所へ行かなければならない」
「それはどこなの?」凛は真剣な表情で尋ねた。
猫はしばらく凛を見つめた後、静かに答えた。「加古川の旧市街にある、かつての教団の集会所だ。そこには『覚醒の儀式』についての詳細が記された古文書が隠されている。その古文書が、教団の計画を暴く最後の手がかりになるだろう」
凛は頷き、猫に導かれるまま次の目的地へ向かう決意を固めた。教団の「覚醒の儀式」について知ることで、彼らが本当に目指しているものが何なのかを明らかにする。それが、幻のかつめし店と町の人々の未来を守る鍵になるかもしれない。
翌日、凛は旧市街にある廃れた建物の一角にたどり着いた。かつては教団の集会所として使われていたその建物は、今では荒れ果て、誰も訪れる者がいない。彼女は建物の扉を押し開け、内部に足を踏み入れた。
部屋には古びた祭壇や、信者が並んだであろう席が静かに佇んでいた。薄暗い室内は、かつてここで行われた儀式の名残を残しているようだった。凛は猫に教えられた通り、祭壇の奥へと進んでいった。
祭壇の裏には隠し扉があり、その奥に小さな部屋がある。そこには埃をかぶった箱が置かれており、鍵もかかっていない。凛は慎重に箱を開け、中から一冊の古文書を取り出した。それは教団が長い間隠し続けてきた、彼らの秘密が記された書物だった。
彼女はその場で古文書を読み始めた。中には、「覚醒の儀式」に関する詳細な記述が記されていた。教団はかつて、幻のかつめし店で供された料理を通じて、食べた者の心を支配し、欲望や恐怖を解放させる「覚醒」を引き起こす方法を見つけ出していた。しかし、儀式には「供物」が必要であり、特別な力を持つ者の命を捧げることで儀式が完成するとされている。
そして、その儀式に必要な「供物」が、凛のような強い意志と心を持つ者であることが明かされていた。教団は、町で彼女のような人物が現れるのを待ち望んでおり、凛が幻のかつめし店の謎に迫っていることを知った上で、彼女を「供物」として利用しようとしていたのだ。
凛はその事実に激しい怒りと衝撃を覚えた。教団が彼女を操り、その命を供物として捧げようとしていたことに気づいたからだ。しかし、彼女は恐れず、むしろ自分が最後の希望であることを悟り、教団の計画を阻止するための決意を強くした。
そのとき、彼女の背後で物音がした。振り返ると、そこには教団の信者たちが立ちはだかっていた。どうやら彼らは彼女の行動を監視していたらしい。リーダー格の男が前に出て、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「我々の秘密を知ってしまったようだな。しかし、この古文書を手にしたところで、儀式を止めることはできない。むしろ、君こそが最後の供物となるべき存在だ」
凛は構えを取り、男たちを鋭い目で見据えた。「私を供物にして、町を支配しようとするつもりなのね。でも、あなたたちの計画はここで終わりよ」
信者たちは一斉に凛に向かって襲いかかってきた。彼女はカンフーの技を駆使し、次々と敵を倒していく。彼らは数で圧倒しようとするが、凛の動きは鋭く、素早く、信者たちの攻撃をことごとく避け、逆に反撃を加えていく。
やがて全員が倒れ、部屋には静寂が戻った。凛は息を整え、古文書をしっかりと手に持ちながら、これからどうするべきかを考えた。教団の儀式を阻止するためには、この古文書の内容を公にする必要がある。そして、幻のかつめし店がもたらす危険を町の人々に知らせるべきだと心に決めた。
調査室に戻った凛は、猫が現れるのを待ちながら、古文書の内容をしっかりとまとめる準備を始めた。彼女の決意は固く、もう教団に脅かされることはなかった。猫が再び姿を現したとき、凛は静かに語りかけた。
「私は、教団の儀式を止め、この町を守るために行動するわ。幻のかつめし店がもたらす危険を、もう誰にも味わわせたくない」
猫は凛の覚悟を見て、静かに頷いた。「君が選んだ道が真実を照らすならば、町も救われるだろう。しかし、覚えておくがいい。真実を知ることは時に重い枷となる。だが、君ならばそれに負けないだろう」
猫の言葉を受け、凛は新たな覚悟を胸に抱いた。教団の陰謀を打ち破り、町の平和を取り戻すため、彼女の戦いはさらに激しさを増していくのであった。
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