第8話 鍵の導く先

廃病院から無事に脱出した凛は、教団が隠していた不気味な鍵を手にしながら、調査室へと戻った。手にした鍵は冷たい金属の感触があり、異様なほどの重みを感じさせる。教団の手帳に記されていた「供物」との関連も、幻のかつめし店への入口を開くためにこの鍵が必要だと示唆しているかのようだった。


調査室で鍵をじっと見つめる凛の頭には、ある場所が浮かんでいた。それは、加古川の郊外にある古い洋館。町ではあまり知られていないが、かつて地元の有力者が所有していたものの今は無人で、誰も近づかないと噂されている。その洋館こそが、幻のかつめし店へ続く「扉」かもしれないと思えた。


翌朝、凛は洋館へ向かう決意をし、準備を整えた。まだ薄暗い時間帯に出発し、誰にも見られないように気をつけながら洋館にたどり着くと、そこには長い間放置されていた雰囲気が漂っていた。建物の外壁は苔むし、窓は割れ、草木が生い茂る庭に包まれている。


凛が入口に立ち、鍵を握りしめたとき、かすかに感じる不思議な力が、彼女を奥へと誘うようだった。何かに導かれるように、彼女は玄関の扉を開け、中に足を踏み入れた。


館の内部は静まり返り、物音一つ聞こえない。ただ、廊下には古い絨毯が敷かれ、かすかな香りが漂っている。まるで時が止まったかのような洋館の中を進んでいくと、不思議な感覚に包まれる。廃病院で得た鍵が光を帯び、ある一つの扉の前で振動しているのに気づいた。


その扉には教団のシンボルが刻まれており、かつての豪華な装飾が色あせ、いかにも何か特別な場所であることを示している。凛は緊張を抑えながら鍵を差し込み、ゆっくりと回した。音を立てて鍵が回ると、扉は重々しく開き、彼女は息を呑んだ。


扉の奥には、薄暗い階段が続いていた。地下へと続くその階段は、冷たく湿った空気が漂い、まるで長い間封じられていた空間に初めて光が射し込むようだった。凛は慎重に階段を降り、奥へと進んでいった。


階段を降り切ると、そこには意外なほど広い地下室が広がっていた。中央にはテーブルがあり、古びた食器と共に、一皿のかつめしが置かれている。奇妙なことに、そのかつめしは新鮮に見え、まるで誰かが食べるのを待っているかのようだった。


彼女が近づくと、突如として周囲の空気が変わり、かすかに誰かの気配を感じた。そのとき、奥の闇からゆっくりと一人の男が現れた。黒いローブに身を包んだその男は、教団の教祖であると直感した。


「ようこそ、我が教団の秘密の場所へ。君がここまで辿り着くとは驚きだ」


凛は身構え、教祖を鋭い目で見据えた。「あなたが幻のかつめし店の秘密を守っている教祖ね。あなたの目的は何?このかつめしには一体何が隠されているの?」


教祖は微笑みを浮かべながら答えた。「これはただのかつめしではない。これは“覚醒”をもたらす力を秘めた供物だ。食べた者の深層に眠る恐れや欲望を引き出し、彼らを真の姿へと導く。だが、その代償として人は何かを失う。故に、このかつめしは禁忌とされてきたのだ」


「そして、あなたはその力を利用して人々を操り、自分の意のままに従わせているわけね」


凛は怒りを抑えきれず、拳を握りしめた。教祖は冷静に凛の反応を見つめ、まるでその怒りを楽しむかのようだった。


「そうだ。しかし、君もまたこのかつめしを口にすれば、真の覚醒を得ることができる。どうだ?私と共に、この力を分かち合い、新たな世界を築こうではないか」


教祖の誘いを聞いた凛は一瞬の迷いもなく言い放った。「私はそんな力には興味はない。あなたの野望を止め、幻のかつめし店の秘密を明るみに出すためにここに来たの」


教祖はその答えに冷たい笑みを浮かべ、「愚かな選択だ」と呟くと、身を翻し部屋の奥へと消えていった。凛は追いかけようとしたが、その瞬間、周囲に黒服の信者たちが現れ、彼女を取り囲んだ。


戦闘の準備を整えた凛は、彼らが襲いかかってくるのを待ち受けた。信者たちは次々と襲いかかるが、彼女はカンフーの技を駆使して、見事に一人ずつ倒していく。彼らの数は多いものの、凛の集中力と技の鋭さに圧倒され、次第に数を減らしていった。


やがて、全員を倒した凛は息を整えながら、再び部屋に目を向けた。そこにはまだ、あのかつめしが静かに置かれている。


彼女はふとその皿に近づき、手を伸ばそうとしたが、その瞬間、再びあの白い猫が現れた。猫は彼女をじっと見つめ、「手を出すな」と警告するかのように鋭い視線を向けている。


「このかつめしの力を解き放つことは、さらなる危険を呼び寄せることになる。気をつけることだ、凛」


凛は猫の忠告に従い、一旦その場を離れることを決めた。彼女はこの場所の秘密を知り、教団の計画を阻止するために準備を整えなければならないと心に誓った。


彼女の戦いはまだ終わっておらず、真の危機はこれから訪れる。

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