第7話 廃病院の秘密
翌日、凛は高橋から聞いた手がかりを頼りに、加古川の南にある廃病院へと足を向けた。その病院はかつて地元の中心的な医療機関だったが、数十年前に突如閉鎖され、そのまま放置されている場所だ。廃病院の周囲は静まり返り、まるで時間が止まっているかのような異様な雰囲気に包まれていた。
凛が入り口をくぐると、ひんやりとした空気が彼女を包み、薄暗い廊下にはかすかな光だけが差し込んでいた。彼女は足音を抑え、周囲を警戒しながら奥へと進んでいく。病院内には古い医療器具や破れた椅子が散乱しており、壁には見覚えのないシミや錆が残っている。どこかに教団の手がかりがあるはずだ、と凛は心の中で確信していた。
彼女が階段を上がり、二階の部屋を一つずつ調べていると、ひとつの診察室に不自然にきれいな机があるのに気がついた。凛は机の引き出しを開け、中を調べる。すると、そこにはまた一冊の手帳が置かれていた。表紙には、教団のシンボルと見られる謎の印が刻まれている。
手帳を開くと、中には教団の教祖が記したと見られる計画や信者の管理方法、そして「幻のかつめし店」に関する興味深い記述が並んでいた。ページをめくるごとに、教団がこの病院をかつて秘密裏に活動拠点として利用していたことが分かってくる。信者たちの一部はこの病院で「かつめし」に関する実験を受けていたようで、そこには奇妙な症例が記されていた。
「かつめしを口にした者のうち、一部の人間は未知の力を引き出され、行動や記憶が変容する。これを“覚醒”と呼び、信者たちが絶対的な忠誠を誓うきっかけとなる」
凛は、教団が幻のかつめし店の力を利用して信者を操る計画を本格的に進めていたことに驚愕した。教団は人々を洗脳し、自分たちの意のままに動かすため、かつめしを利用して彼らの「覚醒」を誘発していたのだ。
手帳の最終ページには、教祖が語った言葉が赤いインクで力強く書かれていた。
「真の覚醒を得るためには、最後の“供物”が必要だ。その者が幻のかつめし店の扉を開く鍵となるだろう」
凛はその一文を見つめ、教団の目的が単なる信者の洗脳ではないと気づいた。彼らはさらに大きな目的、恐ろしい陰謀を抱えている。それを実現するためには、何か、あるいは誰かを「供物」として捧げる計画があるのかもしれない。
そのとき、背後で足音がした。凛が振り返ると、黒服の男たちが廊下に現れ、彼女を取り囲んでいた。彼らの表情には冷酷な意志が宿っており、凛がここに現れるのを待ち伏せていたようだった。
「ここまで来るとは大したものだが、君にはここで消えてもらおう」
リーダー格と思われる男がそう言うと、他の男たちが一斉に凛に向かって襲いかかってきた。凛はすぐさまカンフーの構えを取り、冷静に敵の動きを見極める。
最初の男が突進してくるのをかわし、素早く背後から手刀を繰り出して動きを封じる。次に、二人目の男の蹴りを受け流し、逆に反撃の回し蹴りを入れ、彼の肩を捉えた。一瞬たりとも気を抜かず、凛はその場で立ち回り、次々と敵を倒していく。
だが、最後の男が倒れたとき、廊下の奥にまたしても黒服の男たちが現れ、さらに数が増していることに気がついた。彼女はこのままでは数で圧倒されると判断し、診察室から隣の部屋へと素早く身を移す。廃病院の複雑な構造を活かして、男たちをうまく巻きながら逃げ道を探し続けた。
やがて、凛は古びた地下への階段を見つけた。男たちが背後から迫る中、彼女は階段を駆け下り、地下へと身を投じた。地下には薄暗いランプがぽつぽつと灯されており、不気味な空間が広がっていた。遠くの壁には、教団のシンボルが何重にも描かれており、ここが教団にとって特別な場所であることが伺える。
彼女が奥へ進むと、ある小さな部屋に辿り着いた。部屋の中央には、台座の上に古びた鍵が置かれていた。鍵には不気味な光が宿っており、まるで彼女を待っていたかのように、静かに佇んでいる。
「これが…幻のかつめし店への鍵?」
凛が手を伸ばして鍵を掴むと、彼女の中に奇妙な感覚が流れ込んできた。その瞬間、廃病院全体が震え、まるで彼女が触れたことで何かが目覚めたかのようだった。背後から黒服の男たちの足音が近づいてくる。
彼女はその鍵を手にしっかりと握りしめ、地下の別の出口を見つけてそこから逃れた。外の冷たい空気に触れ、ひとまず安全な場所にたどり着いた凛は、心の中で決意を新たにした。
「幻のかつめし店の秘密を暴くまで、私は決して諦めない」
この鍵が持つ力、そして教団が計画する恐ろしい陰謀が何なのか、彼女はすべてを解き明かす覚悟を固めた。
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