第6話 消えた依頼人
翌日、凛が調査室で次の手を考えていると、古びた電話が鳴り響いた。電話の向こうには、怯えた様子の中年男性の声が聞こえる。
「助けてくれ…私は高橋だ。あの教団が、私を追っているんだ…」
その名前を聞いた瞬間、凛は息を飲んだ。行方不明だった高橋が、無事に連絡を取ってきたのだ。しかし、彼の声は震え、切羽詰まった様子で、今にも何かに怯えているようだった。
「高橋さん、大丈夫ですか?今どこにいるんですか?」
「加古川の外れにある古い倉庫だ…だが長くはいられない。奴らがすぐに見つけてくる。どうか、助けて…」
言い終わると、電話は突然切れた。凛はすぐに支度を整え、指定された倉庫に向かうことにした。高橋からの情報があれば、幻のかつめし店と教団の目的についてさらなる真実が分かるかもしれない。そして彼を守ることができれば、教団の企みを暴く手がかりになるだろう。
加古川の外れにある古びた倉庫は、長らく使われていない様子で、窓は割れ、外壁には苔が生えている。凛は周囲に警戒しながら倉庫に足を踏み入れた。暗がりの中、物陰に身を潜めている人影を見つけた。
「高橋さんですか?」
凛が声をかけると、影から怯えた様子の中年男性が姿を現した。目の下には深いクマがあり、何日も寝ていないような疲れ切った顔だった。彼は凛を見て、安堵の表情を浮かべた。
「君が来てくれて助かった…あの教団は本当に危険なんだ。私が知りすぎたせいで、命を狙われているんだ」
凛は彼に近づき、静かに話しかけた。「大丈夫です。ここで何が起きているのか、教えてください。幻のかつめし店にはどんな秘密が隠されているんですか?」
高橋は一瞬ためらったが、覚悟を決めたように話し始めた。「あの店はただの料理店じゃないんだ。そのかつめしには、食べた者の内なる欲望や恐怖を引き出す奇妙な力がある。そして教団は、その力を利用して人を操ろうとしている。私もあの店でかつめしを口にしてしまった…それ以来、何かが変わった気がするんだ」
彼の言葉に凛は驚きを隠せなかった。高橋は幻のかつめし店に直接足を踏み入れ、かつめしを口にしたことで、教団に狙われる存在となってしまったのだ。
「教団は、その力をどう使おうとしているんですか?」
「教祖が…あの力を使って、信者たちを完全に支配しようとしているんだ。かつめしの力で人の弱みを引き出し、それを利用して信者たちを盲信させる…。もしその計画が完成すれば、彼らは加古川全体を支配する力を持つかもしれない」
凛の中で怒りが湧き上がった。教団が幻のかつめし店の力を利用して、町を支配しようとしているとは想像以上に危険な計画だ。彼女は高橋の話を聞きながら、教団を止めるために自分が何をすべきか考えた。
しかし、そのとき倉庫の外で足音が聞こえた。凛は瞬時に高橋を陰に引き込み、周囲を警戒した。
「ここにいるんだろう、高橋。無駄な抵抗はやめるんだ」
外から聞こえてきたのは、教団の黒服の男の声だった。彼らが高橋の居場所を突き止めてしまったのだ。凛は拳を握りしめ、カンフーの構えをとった。
「ここは私が引き受けます。高橋さん、あなたは隠れていてください」
男たちが倉庫に入ってくると同時に、凛は一人目の男の腕を捉え、一瞬のうちに動きを封じ込めた。続けて次々と襲いかかってくる男たちを巧みにかわし、反撃の蹴りや突きで倒していく。彼女の動きはまるで風のように素早く、そして力強かった。
数分後、黒服の男たちは次々と地面に倒れ込み、凛の強さを前にして撤退を余儀なくされた。彼女が深い息をつき、周囲の安全を確認した後、隠れていた高橋が震えながら出てきた。
「す、すごい…君は本当に強いんだな…」
凛は安心させるように微笑んだ。「今はまだ大丈夫です。でも、このままではあなたも教団に捕まってしまうかもしれません。安全な場所を見つけて、しばらく身を隠すべきです」
高橋は頷き、最後にこう告げた。「幻のかつめし店を探すなら、加古川の南にある廃病院に行くといい。そこに何か重要な手がかりが隠されているかもしれない…」
凛は彼に感謝の言葉を伝え、廃病院へ向かうことを心に決めた。教団の計画を阻止するため、そして幻のかつめし店の真実を明らかにするため、彼女の戦いはまだまだ続くのだった。
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