第4話 謎の手紙

翌朝、凛が調査室で整理をしていると、ドアの下から一通の手紙が滑り込まれているのに気がついた。差出人は書かれていないが、封筒には古いインクの香りが漂い、手作業で封がされている様子から、どこか時代を感じさせる不気味さがあった。


彼女は慎重に封を開け、中から取り出した便箋に目を通す。そこには手書きでこう記されていた。


「次なる試練の場は、加古川の古い時計台。そこに隠された証拠を見つければ、幻のかつめし店に近づけるだろう。だが、見つけたものは慎重に扱うこと。手を染めれば後戻りはできない。」


加古川の古い時計台は、町の歴史的な建造物で、今ではほとんど人が訪れない場所だ。かつては町の象徴的な存在だったが、今では錆びついたまま時を止めている。その場所に向かうというのは少し気が引けるものの、手紙に書かれた「証拠」という言葉が気になり、凛は早速向かう決意をした。


夕方、凛は古びた時計台の前に立っていた。どこか神秘的で、荒れ果てた時計台には、かつての栄光が色褪せたような哀愁が漂っている。彼女は時計台の中に足を踏み入れると、辺りを慎重に見回した。


階段を上がり、狭く暗い通路を進むと、奥の一角に古い木箱が置かれているのを見つけた。埃が積もり、誰も触れていないように見えるが、不思議と鍵はかかっておらず、すぐに開けられそうだ。


「これが…証拠なの?」


凛が箱を開けると、中には一冊の手帳が入っていた。その手帳は明らかに年季が入っており、ところどころにシミがついているが、文字ははっきりと読み取れる状態だった。彼女はその場で手帳をめくり始める。


手帳には、ある人物の日記が綴られていた。それは、かつて加古川で名の知れた料理人が記したもので、「幻のかつめし店」に関する記述が多く含まれている。読み進めるにつれ、凛は驚愕の内容に息を呑んだ。


「幻のかつめし店はただの料理店ではない。この料理を口にすることで、人々は一種の変容を遂げる。それは、未知の力を引き出す代償として、何かを失う運命を背負うことになる」


手帳にはさらに、幻のかつめし店を探し求めた人々が次々と失踪したことや、その店がいつしか「禁忌の店」として恐れられるようになった経緯も記されていた。その恐ろしい力が、代々の料理人たちによって隠されてきたことが、記録として残されている。


凛はこの手帳が示す真実に圧倒されつつも、疑問が浮かんだ。なぜ今になって教団はその店の秘密を解き明かそうとしているのか?そして、彼らが幻のかつめし店に求める「真実」とは一体何なのか?


そのとき、背後で何かの気配がした。振り向くと、いつの間にかあの白い猫が現れていた。猫は凛をじっと見つめ、静かに口を開く。


「手帳を見つけたようだな。しかし、その知識を持つことは危険でもある」


「この手帳に書かれていることは本当なの?幻のかつめし店には、そんな恐ろしい力が?」


猫は頷きながら答えた。「かつてその店で供された料理には、単なる味覚以上の何かが宿っていた。食べる者の心を操り、深層に眠る欲望や恐れを引き出す力だ。そのため、禁忌として封じられてきたのだ」


凛は猫の言葉に重みを感じつつ、覚悟を新たにした。「私はこの真実を知りたい。幻のかつめし店が持つ力がどれほど恐ろしいものであっても、私は立ち向かう」


猫は意味ありげな目で凛を見つめ、しばらく沈黙していたが、やがて小さく微笑むとこう告げた。「その覚悟が試されるときがすぐに訪れるだろう。気をつけることだ、凛。知ることがすべての救いとは限らない」


そう言い残し、猫は再び姿を消した。凛は手帳を握りしめ、古い時計台の静寂の中で、ひとり強い決意を胸に抱いた。手にした証拠が、さらなる危険と試練を呼び寄せることを予感しながら…。

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