第7話 とくべつな首輪

 さくらが首輪をつけて以来、以前にも増して先生は頻繁に私たちの写真を撮るようになった。

 そしてSNSなどに、ばんばんアップするのである。

 タイトルまで付けてね。

 これがけっこうな人気が出た。


 猫は人気だから。

 昔は犬の方が人気だったんだけど、最近は猫の方が人気がある。人間と一緒に暮らしている数だって、数年前に猫の方が多くなったのである。


 まあ、いまはあんまり番犬として犬を飼うって人がいなくなったって事情もあるだろうけどね。

 日本の治安がそれだけ良くなった、ていう証拠なんじゃないかしら。


 そもそも室内飼いの小型犬なんてビビリだから、番犬として役になんか立たないけどね。


 いつだったか、先生と仲が悪い親戚がうちにミニチュアダックスを連れてきたことがあったわね。

 いやがらせのために。先生が犬苦手なのを知っていて。


 だから、私がバカ犬を威嚇してやったの。

 もし先生に害をなしたら、アンタの首を切り裂いて、その目に頭がなくなった自分の姿を見せてやるわってね。

 そしたら犬はびびって、おしっこ漏らしちゃった。


 それ以来、あの親戚はうちに寄りつかなくなったわね。

 犬の躾もできないのかって親戚一同に思われちゃったから、顔を出しづらいんだろう。

 ふん。いい気味。


 ともあれ、SNSに顔を出した私とさくらは、すこしだけ有名猫になった。


「さくらの方が人気出ると思ったんだけどね」


 白い毛並みに青い瞳だもの。


「同じくらいだった!」


 無駄に喜ぶさくらである。

 この子にとっては、人間たちからの賞賛より私と同じというのが大切らしい。

 ようするに、まだまだ子供だということだ。


 もともと猫を飼っていたり猫好きを自認する人たちは、やっぱりさくらより私を麗しいって思うみたいね。

 どっしりとしたボディに気品溢れる顔ですもの。


 反対に、さくらの美しさって判りやすいのよね。

 黒猫が嫌いって日本人は多いけど。白猫は人気が高いから。それにプラスして青い目でしょ。

 さらに幸運のカギ尻尾。


 素人さんがさくらに軍配をあげるのは仕方がないわ。

 票が割れた結果、同じくらいの得点になったのだ。


「ただ、配信タイトルが『今日のぴろさく』ってのは、先生のセンスをうたがうけどね」


 しっかりしてよ。小説家でしょ。

 ぴろさくってなによ。ぴろさくって。





 それからしばらくして、おうちに荷物が届いた。

 先生の作家仲間からで、じつは先生宛じゃなくて私宛だったりする。


 中身は首輪。

 私のために自作してくれたの。


「ぴろしききれい。お姫さまみたい」

「でしょでしょ」


 さっそく装着してもらいお披露目である。

 黒を基調として、各所に宝石(プラスチック製)があしらわれた、すごくノーブルなデザインだ。

 先生も喜んで、さっそく写真を撮りまくっている。


「ボクもつけてみたい!」


 にゃあにゃあとさくらが先生に訴えた。

 気持ちは判るけど微妙だと思うよ。この首輪は私のためだけに編み込まれたワンオフ品だもの。


 さくらと私じゃ、体格も顔立ちも被毛の色さえ違うからね。

 私が装着したときみたいな圧倒的な一体感は得られないって。


「つけたいつけたい!」


 でも駄々っ子みたいに手足をバタバタさせる。

 しかたないな。

 私は先生の足元に近づき、にゃうんと身体を擦り付けた。


「いいのか? ぴろ」


 良くはないけど、さくらの気持ちも判るからね。

 こんな素敵な首輪だもの。普通はつけてみたいと思うわ。

 いいよ、と、尻尾を立ててみせた。


「どう? お姫さまにみえる!」 


 そして先生に首輪をつけてもらったさくらが、むふふーと胸を反らす。


「…………」


 先生は無言だった。


「…………」


 私も無言だった。


 白い身体にブラックベースのゴージャスな首輪は、死ぬほど似合っていない。


 さらに、さくらってオリエンタルタイプの血を引いてるからね。どこかで。体つきはほっそりしているし顔も小さいのだ。

 非常に悪い言い方をすれば貧相なのである。


 装飾のたっぷりついた首輪が似合うわけもない。たとえていうなら、貧家の小娘が貴族のようなドレスを着たようなものだ。

 物語としてなら面白いだろうけど、現実はそんなに甘くない。


「いまいちね……」

「むうっ そんなこというと、ぴろしきに返さないもん!」


 自分では似合うと信じて疑っていなかったさくらが、私の首輪をつけたまま逃げ出した。


「あ、こらまてっ! 返せ!」


 猛然と、私は追い始める。

 ハンドメイドの首輪なんだから、壊したりしたら許さないぞ。

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