第5話 だいえっと作戦
ぎぃやぁぁぁぁ!
体重が! 体重が!!
五キロ半もあったの!
やばいって! やばいって!!
私たちスコティッシュフォールドは、セミコビーっていうボディタイプなの。ペルシャやエキゾチックショートヘアに代表されるような、どしっとした大型のコビーほどじゃないけど、比較的大きくなる猫。
アメリカンショートヘアとかがタイプ的には私たちと同じボディタイプね。
で、セミコビーの適正体重ってのは五キロまで。それ以上になると肥満っていわれるの。
五百グラムもオーバーしちゃったわ……。
たった五百グラムじゃんって思った人は猛省してね。人間と猫じゃ身体の大きさがぜんぜん違うんだから。
きちんとした比較とはいえないと思うんだけど、百六十センチの女の人だったら六十四キロを超えたら肥満っていわれるじゃない。これが私たちスコティッシュフォールドの五キロと同じラインだと仮定すると判りやすいと思う。
そこから一割も多いわけだから、人間換算だと七十キロちょっとってことね。
あきらかに太いでしょ。
「ぴろしき、まるい」
「よし、ケンカよ。表に出なさい。さくら」
「きゃあ!」
きゃっきゃきゃっきゃと喜びながら、さくらが逃げていった。
くっそう。
あの子も体重を量られたんだけど、二キロしかなかった。
子猫だからね。
あと雑種だけど、たぶんシャム猫の血がどこかで入ってるんじゃないかな。だから体型もオリエンタルタイプに近いし。
おとなになっても三キロくらいまでしか大きくならないと思う。
私は五キロ半もありましたけどね!
つらい。
「すこしくらいふくよかな方が可愛いんだけどな」
どよよんと沈んでいる私をひょいと抱き上げ、先生は膝の上におろした。
気を遣ってくれてありがとって意味で、にゃあんと鳴いてやる。
けどねえ。そうはいっても太っていて良いことなんてなにひとつないのよね。
私ももう四歳だもの。
人間で考えれば三十代に突入しちゃうわけですよ。
そろそろ自分の健康と真剣に向き合わないといけない年代でしょ。
ダイエットするかなぁ。
よし。走ろう。
ウェイトコントロールには運動が一番だ。
おうちは二階建てだから、階段を走るのがちょうど良いかもしれない。競走馬だって坂路トレーニングで心肺機能を鍛えるっていうしね。
「毎日、百往復くらいすればいいかしら?」
「ボクも一緒にやる!」
「あなたは太ってないでしょ。さくら」
「ぴろしきと走る!」
いいんだけどね。
まだまだ母猫に甘えたい年頃なんだろう。
私は手術をしているので親になることはないけれど、一緒に遊んであげることくらいはできる。
「じゃあいくわよ。ついてこられるかしら」
そういって走り出す。
全力疾走ではなく流す感じで、とんとんとん、と。
おー、けっこう良い運動になるわね。これは。
「ぴろしき。はやくはやく」
「無駄に元気ね。さくらは」
最初から飛ばしていたらバテちゃうわよ。
こういうのは一定のペースを保つのが肝心なの。全力疾走なんかしたら、すぐにへばってしまうんだから。
ちなみに私たち猫の最高速って時速五十キロくらいなんだけど、そんな速度は数秒も維持できないの。
瞬発力に特化したのが私たちネコ科の動物だからね。
反対に、持久力に特化してるのが犬たちね。もともとは同じ動物から分かれたらしいわよ。
そんなこんなで階段を昇ったり降りたりする。
さくらとふざけあいながら。
わりとたのしい。
互いに背中を取ろうと加速したり減速したり。
すると、急に書斎の引き戸が開いた。
「どうしたんだ? ふたりともバタバタして。ネズミでもでたのか?」
先生が現れる。
さくらはびくっとしたけど、さすがに逃げたりはしなかった。
運動よ、という意味を込めて、私はにゃあと鳴いてみせる。
ネズミなんて、猫のいる家に出るわけがない。彼らは目端が利くから、とっとと逃げてしまうのだ。
「あ。もしかして、太ったことを気にして運動しているのか?」
ピコーンと閃いた、という先生の表情である。
こいつ、猫語わからないくせに妙なところで鋭い。
「それじゃあ、キャットタワーでも買ってやろうか? あれの昇降は良い運動になるだろうし」
また形から入ろうとして。
先生が買ったトレーニング機材とかウェアが今どうなってるのか、ちょっと思い出してみなさいな。
ぜーんぶ使ってない部屋に放り込んでるじゃない。
私は胡乱げに、にゃうんと鳴いてやった。
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