第4話 ふとった!?
猫引っ掻き病で全治二週間。
それが先生の怪我であり、近所の外科クリニックまで毎日点滴を打ってもらいに行っている。
こんな怪我をさせられたのに怒らない先生も先生なんだけど、さくらはさすがに反省したのか、だいぶしおらしくなった。
先生に撫でられても、ビクッと身体はこわばらせるもののおとなしく身体を委ねている。
そしてごろごろと喉を鳴らすのだ。
先生の手は気持ちいいでしょ?
「さくらかわいいな。いいこだな」
撫でられて目を細めるさくらが、ちらっとこちらをみた。
うらやましいでしょ、とでもいうように。
あれれー?
かっちーんときたよ。
私はにゃあと一声鳴いてリビングを後にした。好きなだけいちゃついてれば良いじゃない。
女房と畳は新しい方が良いなんて人間たちはいうものね。四歳の私よりゼロ歳のさくらの方が良いんでしょうよ。
老兵は死なず、ただ消え去るのみ。先生のベッドでふて寝でもするわ。
ところが、
「ぴろしき。まって……」
先生の腕から飛び降り、さくらが追いかけてきた。
なにさ?
肩越しにぎろっと睨んでやる。
「置いてかないで……人間こわい……」
「なに言ってんのよさくら。先生は怖くないわよ」
「でも……」
「引っかかれても怒らなかったでしょ。ここまで優しいイキモノなんて、庭にいる
ちなみに、ブドウスカシバっていう蛾の幼虫である。
よく渓流釣りのエサなんかに使われるね。生きたまま釣り針を刺されて川に投げ入れられても反撃一つしないんだから、その優しさたるや菩薩様レベルだろう。
「ひとりにしないで……」
「はいはい。じゃあ一緒に寝室にいくわよ」
ため息とともに歩き出した私に、とことことさくらがついてくる。
先生に抱かれながらこっちを見たのは、自慢するためじゃなくて、助けてって意味だったらしい。
わかりにくすぎるよ。
さくらは、私のあとをついて回るようになった。
犬か? それともカルガモの子供か?
自主独立を旨とする誇り高き猫がそんなんでどうする。
「ぴろさく、かわいい。尊い、神!」
私たちに謎の賞賛を浴びせながら先生が写真を撮りまくっている。ふたりの写真を撮ってSNSなどにアップするのだそうだ。
あなたの本業は写真家じゃなくて小説家でしょうが。
写真じゃなくて作品をアップしなさい。作品を。
あと、ぴろさくって続けて呼ばないで。
セット販売じゃないんだから。
「ポーズをとるの? ぴろしき」
「そうよ。カメラを向けられたら、ごろんって転がってみせるの。そしたら人間はイチコロよ」
「やってみる」
ととと、と歩いていたさくらが、カメラ目線で転がってみせる。
まあ可愛らしい。
子猫だし真っ白だし、絵になるったらないわ。
「さくらかわいい!」
カメラを連写モードにして先生は撮りまくっている。
もう、めろめろって感じだ。
ちょっと妬けちゃうわね。
私も少しだけサービスしようかしら。
えい。負けねこのポーズ。
ごろりと寝転がりおなかを出してみせる。私のおなかの被毛はクリーム色で、しかも小判型の模様が四つあるのだ。
かっこいいでしょ。滅多なことでは見せてあげないスペシャルなおなかなんですよ。
「おおお! ぴろのおなかまで。眼福眼福」
先生も大興奮である。
美女ふたりのおなかですもの。
おもわず手を伸ばして、私のお腹を撫でたりして。
ふわふわのもふもふでしょ。
「んん?」
先生が首をかしげる。
どうしたの?
「ぴろ、少し太ったか?」
え゛?
「ちょっと体重を量ってみようか」
うわ。やめろ。持ち上げるな!
ぐにゃぐにゃと身体をくねらせるが、先生はどこ吹く風で私を運んでいく。
「すごい……こんなことされても爪を立てないんだ……」
そして変なことに感心しているさくらだった。
そこはそれ、先生のことを信頼しているからね。
でも問題はそこではない。
「あきらかに重くなってるなぁ」
赤ちゃんみたいに私を抱きかかえた先生が呟く。
しみじみと言わないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます