せーのっ、発泡!

レモンの剣士、カクヨムを始める

第1話 担当教科は「討伐」なんで。

「っぎゃぁぁぁぁ!ゴキブリぃい!」

「えぇ嘘だろぉ!?ど、どこだ!?」


こんな会話は家庭をメインに様々な世帯で起こり得るもの。耳をよくすませば聞こえてくる、と言っても過言ではない。そんな誰からも姿を見せ現れるだけで「ピー(自主規制)」や「ピー!(自主規制)」と叫ばれるゴキブリに対し、人類は数々の対策をねってきた。ゴキブリホイホイや専用殺虫スプレーなどの虫ケア用品などなど...。彼らに対する人類の有り様は言葉にできない。


しかし当たり前だろう、ゴキブリにはとんでもない生命力、そして気持ち悪い見た目、鳴き声からして人類の苦手な3ポイントをまとめたような生物だ。


ただでさえ厄介なこんなものが余計に進化してしまえばどんなに嫌なことだろうか。          皮肉なことにゴキブリは進化するが人類はなかなか進化しないなんてことも起こりうるのだろうか?そんなこと起きるはずがない、起きてほしくない。そんな意見が飛び交わすはずだ。


               ・   ・   ・  

「おはようございます」教室のドアがガラッと音を立てて開く。

「おう龍斗!聞け聞けぇ」

「ん?」龍斗は呼ばれた方へと駆け寄った。

「今日からあの担任がなんたって、ここ辞めるらしいぜぇ」

「えぇ、マジで?」


そのいわゆる”担任”というのは、ここ3年B組、そして英語担当のおばあちゃん先生だった。相手は中3なのに対して話し方がかなり子供扱いしているようで、滑舌が悪いおかげで何を言っているかまともに聞き取れることもできず、大人数の生徒から嫌われている存在だった。そのため多くの生徒が4月から辞職することを望んでおり、ついに五月になった今辞職するという形に。


「じゃあ結局あの先生は一ヶ月しかこの学校を勤めてなかったって訳か。」

「どちらにしろ朝からアイツがいないってことにみんな喜んでる。」

司は龍斗の友人であり、情報通なメンバーである。一年生からの付き合いで、部活も同じだった。


「えっ、じゃあ新しい担任誰かな?」

「おんなじような先生来たらもう終わるよーw」

教室の後ろの方にいる仲良しグループの女子たちが話していた。


「...確かに。司はなんか聞いてる?」

「いいやなーんも。こっちの件に関してはわかんねぇ」

内心、龍斗はちょっとワクワクしていた。そもそも担任が途中から変わる経験がなかったため、「新担任」というワードに胸を弾ませる。


龍斗は理想の先生を思い浮かべてみた。前回とは違って若く、話は面白いしノリがわかっている。しかし物事はそんなにうまくいかないのは龍斗も経験済み。一応念の為最低の場合も考えてみる。あの先生は本当は辞めてなくて..、今度は毛がだいぶうっすいおじいちゃん先生が来たり..?最低の場合と考えると無限に浮かんでくる。龍斗は少し気分が悪くなった。


体感では短い間だったが、もう着席のチャイムが鳴っていた。教室に響いたとたんバタバタとみんな席に戻り、一瞬でクラスが白けた。きっと龍斗と同じように次の担任が誰なのかに考えが集中しているのだろう。よっぽどこんなことはないし、なによりたった今、地獄と未知の境界線、狭間にいるのだ。いつもはうるさくても今日こうなるのは当然なことだ。


今、教室のドアが再びガラッと音を立てて新担任と思われる人物が入ってきた。


第一印象、龍斗は「うわっ、なんだコイツ」と思った。猫背でやる気のないバキバキの目つき、ボサボサした整えてない髪、極めつけはスーツではなく黒いコートで身を包み、何故か黄緑色のブカブカな手袋をつけていること。これにはかなりビックリした。誰一人こんな先生を予想できたのだろうか?クラス一体がザワザワとなりだす。それでも平然としている先生。困惑したクラスたちはお互いに目を合わせて疑った。龍斗もまた目を疑った。「これはまたどういうことだ?」。


「日直、号令」

そんなことも無かったかのようにその先生の声が響き渡った。その声は冷たく、まるで教室の音をかき切るようだった。そしてなにより圧がある。表情一つ変えずに教室の後ろ黒板一点をボーっと見つめている。

「は、はい」今日の日直である玲奈が立ち上がった。いつも元気なのだが、先生からの圧でかなり緊張しているように見える。

「終わったなアイツ...。」「絶対呪われた..。」

「いいやつだったよあの子は...。」

「次の日俺やんヤッベー..!!」

耳をすませばそんなクラスメイトたちの声が聞こえている。見ているだけでこんなに緊張と恐怖が湧き出てくるのだから、もし玲奈と同じような立場になっていれば...。

夜も眠れないほどのトラウマになっていたのだろうか?

「起立。」

ブルブルとした高い声が教室に響く。

「気をつけ、礼。」

クラス一同全員深々と頭を下げた。その絵面は「おはようございます」と言おうとしているのではなく「すみませんでした」と謝罪しているようだった。

「おはようございます。」それでもしっかりと挨拶をする。龍斗は少し新担任のいる方を向いた。はたまた、一点を見つめたまままったく動じていない。ひとまず安心し、一斉に着席した。気になるのはここからだ。第一声、なんと声をかけられるのだろう?どんな話を持ちかけられるのだろう?どんな担任だ、どんな授業スタイルを行うのか...。

数々の疑問が浮かぶ中、先生の口が開いた。

「あぁ、俺がここの新担任、邪魔だ。よろしく願おう。」

「邪魔?」とっさにクラスメイトが反応する。「あ、しまった」というように口を手で覆ったが、もう遅かった。しかしその点に関しては引っかかる。「(なんでそんな名前なんだ?)」と龍斗も思わず同調してしまう。

「ああ安心しろ、これは偽名だ。」先生が続けた。

今度はだれも声を漏らさない。「(偽名?なんでそんな..?)」龍斗は心で呟いた。


「偽名を使っているのはなあ、理由がある。第一に、俺は”タダの先生”として来たわけではない。君たちに教えるのはそんな普通の科目、授業なんかじゃない。」

「(どういうことだ?)」クラスはますます困惑した。教室中からザワザワとした話し声が溢れかえってくる。そしてまたもやお互いの顔を見合ったりしていた。あの先生は僕達に何を教えるつもりなんだ?不可解な点が多い。この先生、怪しすぎる。


「はっきり言わせてもらおう。君たちにはコイツの討伐術を教えなければならない。」先生は少し下を向きながら言った。


             ドッバァァアーン!!


学校校舎の外からとてつもない大きさの爆発する音が聞こえた。とたんに教室、いや校内中から悲鳴が響き渡る。「な、なんだ!」「どうなってやがるッ!!」

ほぼ全員と言ってもいい人数が大慌てし大混乱している中、先生はさっきと同じようにずっとじっとしている。「(なんで..。)」続いて地震がおきた。これまで経験したこともないほどの揺れで、今にも教室の扇風機が落ちてきそうなほど強い。これにも先生は全く動じない。

「先生ーッ!!」我慢できずに龍斗は叫んだ。


「コレの討伐って一体、どういうことですぅッ!?」まだ激しく校舎が揺れる中、龍斗は叫び続ける。どう考えても先生が意図的に爆発と地震を起こしたのかのようにしか見えない。「そーだよ!」「何をしたんですか!?」クラスメイトたちも同情する。


「これから君たちはとんでもない大災害と向き合うことになるだろう。そのための討伐術をこの俺が教えたいと言っている。」先生は勢いよく返事をした。

「ッ、それって.......一体..。」龍斗は崩壊寸前の校舎から逃げようとする生徒たちとは裏腹に、先生を見つめて問いかける...。が、窓に「ソレ」が現れた瞬間、今すぐ逃げることを選んだ。「ソレ」を目撃したクラスメイトたちも悲鳴をあげる。


先生の言った通り、「ソレ」は討伐すべき「生き物」だった。3年B組が位置する四階からも見える超巨大な「生き物」だったのだ。それも一体ではない。複数、超巨大なゴキブリが龍斗たちの目の前にいる。



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