第32話 しっかりはっきりと自分の想いをエフィに伝えた件②

いかんいかん。血なんか関係なく家族だからっていうのを伝えようと思ったら熱くなりすぎた。

思いっきりエフィを泣かせてしまった。

でもこれで家族の仲で1人寂しい思いをするようなことはないだろう。

さっき過去形で感謝を表明したエフィの言葉を聞いてドキッとしたんだ。

これでまた家出とかしたらどうしようって……。


でも、そんなことにはならなそうだ。


アリアとミトラ様がエフィを気遣いながら宥めてくれている。

エフィもありがとうって言ってる。


しかし失敗した。

プロポーズしようとしたのに、その前段階で熱くなりすぎたんだ……。


ここからどう話を持っていくか、悩ましい……。


とか思っていたら、アリアがこっちを見ている。

なんだ?

お腹でも減ったのか?



「(バカ。宥めておいたから、そのまま言い切りなさいよ!)」

「(おぉ? お前……気付いてたのか?)」

「(当たり前じゃない、バカ。お兄のエフィ好きが行き過ぎててキモイってずっと思ってたけど、エフィが実の妹じゃないってことなら理解できるわよ。ムカつくけど。でも好きなんでしょ? だったらちゃんと言いなさいよバカ!)」

これは本当にあのアリアなのだろうか……また心の声がとか言ってボケたらマジで俺が空気読めないやつになるからやらないけど、あとでお菓子でも買ってやろう。


「エフィ……」

「お兄……クラム様?」

「言い直さなくていいから。いや、名前で呼ばれるのも新鮮でいいけどさ。今はまだお兄様って呼んでほしいな」

これは正直本音だ。もしプロポーズが成功しても失敗しても大人になれば兄とは呼ばれない可能性がある。


「今は、ですか?」

しかし勘の良いエフィは俺の様子が変なことに気付いてる。

でも許してほしい。俺だって緊張するんだ。



「あぁ。大人になったら……というか、う~ん。なんか格好つかないけどさ」

「……?」

「俺はずっと君が義理の妹だってことを知ってたわけだ」

「はい」

「でな……ずっと君が好きだったわけだ」

「……はい……えっ?」

突然言ったら、そりゃあ咀嚼するのに時間かかるよね。うん。驚いた表情が可愛くて仕方がない。


「だから、ずっと俺と一緒にいて欲しい。結婚して欲しいんだ」

「えぇ……?」

言った。言ってしまった。

緊張しながら放った言葉は、間違いなくエフィに届いたはずだ。


そしてエフィは思いっきり目を見開き、開いてしまった口を両手で抑える。

今の表情は一生脳に焼き付けておきたい。


もちろん返事はまだどっちかわからない。色んなことがありすぎて保留もあるだろう。

 

でも、表情を覚えておくくらいいいだろ?

もう何年も……いや、10年以上もずっと想い続けてきた。


我ながら乙女チックであれだけどさ。

人生の記念ってやつだろ?


と自分の想いに浸っていたらアリアに蹴られた。わかったよ、真面目にやるよ。

と言っても、これ以上何を言えばいい?

そう思っていたらエフィがぽつりぽつりと話し始めた。


「私……びっくりして……」

「うん」

「嬉しいです」

「うん」

どっちだ……。嬉しいです、妻になります。嬉しいです、でもお兄様とはごめんなさい。どっちだ!?


「でも……」


そっか……。

思わず天井を見上げる。

 

うん、仕方ない。諦めるよ。

エフィの想いを尊重する。

ちょっと前が見えない。

でも耳は仕事してるから……。


「私なんかでその……良いんですか? 私、魔法以外なにもできないし、魔法だってお兄様みたいに凄くないし」

と思ったけど、謙遜していたらしい……。


「卑下はして欲しくない」

「あっ」

「俺は君が凄いことを知ってる。魔法が大好きなことも知ってる。それを応援したい。王妃教育だって受けてただろ? それを頑張っていたのも知ってる。私なんか、なんて言ってほしくない。俺は君が……エフィがいいんだ」

「本当に? 本当にいいんですか?」

「いいも何も、ずっとそのつもりだった。だから領地経営なんか居眠りしながらでもできるようになったし、魔法もできるようになった。王家や他の貴族に対しても優位を取れるように動いてきたし、仮に隣国と戦争になったって必ず君を守り抜くよ。美味しい店だって調べたし、服は気に入ったのが見つからないから商会を立ち上げたし、魔石鉱山はまだ300年は安泰なことを突き止めたからお金の心配もないよ」

「お兄様……」

また泣かせたらしい。


「えっと、泣かせるばっかですまん」

慌ててエフィに謝ったら、またアリアに脛を蹴られた。


「(いつまで喋ってんのよ!)」

「(えぇ? ダメだった?)」

「(とっとと抱きしめてキスでもしなさいよ!)」

「(えぇ? 押し過ぎで気持ち悪がられないか?)」

「(早くしろバカ―!!!)」


俺は顔を覆って泣き始めてしまったエフィを抱き寄せた。


「お兄様……」

エフィは驚きながら身を任せてくれる。

そしてちょうどよく顔を上げてくれた。

 

その表情の裏にあるエフィの感情は、申し訳ないけど俺にはわからない。

でも、拒絶されているようには思わなかった。

だからそのまま行くことに決めた。


兄の暴走を許してほしい。

これで拒否されたら諦めて父さんに八つ当たりしながら秘蔵の酒を全部飲み干してやろう。

 


俺はそのままの勢いでエフィの頭に手を回す。


エフィは一瞬びくっとしたが目を閉じながら俺に顔を向けてくれる。




そしてその愛おしく柔らかい唇にキスをした。

エフィは大人しく受け入れてくれ、俺には柔らかな暖かさが広がった。

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