第33話 しっかりはっきりと自分の想いをエフィに伝えた件③

唇を離すと、エフィは赤くなりながらはにかんで俺を見つめてくる。

その仕草がまた、なんというか、破壊力抜群で可愛らしい。幸福感が胸の奥から溢れて、俺の心をぎゅっと満たしてくれる。


この幸せを、これからはしっかりエフィにも返していかなくてはならない。控え目に言って、最高だ。


だが、ふと視線を横に向けると、アリアが「まじで家族の前でキスとか……うわ~」と小声で呟いているのが耳に入った。あとでお仕置き決定だな。しばらくお菓子は抜きだ。


だけど、それも今はどうでもいい。エフィが改めて抱きついてきた。


「私……幸せです。嬉しいです。お兄様、大好きです」

彼女の柔らかな声に、俺はもう完全にやられてしまった。

抱きしめた彼女の暖かさ。もう離したくない。


「おめでとう、クラム殿、エフィ。よかったわね」

「おめでとう、2人とも」

ミトラ様と父さんが笑顔で祝福してくれた。父さんは蹴られたり、魔力で気絶させられたり、喜ばされたり、大変だけど、見届けてもらったなら良かったよ。



これで俺の想いは叶うことになった。

あとは何としてでも国王になるのを避けられれば完璧だ。


別に国王になっても大きな問題があるわけではない。

でも、エフィとの結婚に待ったをかけられる可能性がある。


なにせエルダーウィズ公爵家から出る国王がエルダーウィズ公爵家の養女であり、血を引いたものを正妻とする。

そんなことになったら、他の家から見たらエルダーウィズ公爵家の力が強くなりすぎている。


最悪、国王になるからその結婚は諦めてくれとか言い出すやつがいるだろう。

もしくはエフィを側室にさせて、別派閥の貴族の娘を正妻にしろとか。


そんなのは勘弁してほしい。

俺はエフィがギード王子に捨て置かれることすら嫌だった。

もしかしたらその正妻に送り込まれる娘だって、想い人がいたかもしれない。その娘を大事に思う人だっているだろう。


甘い考えで申し訳ないが、俺はエフィ以外を愛するつもりはないんだ。

だったら今やるべきことは1つ。


国王にならないことだ。


しかしただ断っては角が立つ。

理想は、あのちゃらんぽらんで女好きの下品な国王なら、絶対に愛人やワンナイトをやっている。

その中から国王の血を引き子どもを見つけるんだ。


普通なら無理だ。

探すのは困難を極めるだろうし、裏を取るのも大変だ。


しかし俺なら可能性がある。

"人物史"で覗けばわかるからだ。そいつが国王の子供かどうかが。

しかもエフィのおかげで日に何回も使えるようになっている。



手当たり次第に国王と関係があったやつを調べて探してやるからな!

待っていろよ!国王の息子!

絶対に俺が王位につけてやるから覚悟しろ!?



□ミトラ視点


無事おさまって良かった。

良くないこともあったが、仕方ない。完全にあの子が悪いし、私とハミルが悪い。


長年の懸念だったクラム殿の結婚、エフィに真実を伝えること、ロイドの処遇の3つとも片付いてしまった。

私は何もできなかった。それどころか、夫であり家長でもあるハミルも何もできなかった。


全部クラム殿とアリアが解決した。


正直寂しい。

どうにか更生させたかったロイドは自滅して魔狼に殺された。


心の奥のどこかでは、優秀なクラム殿に本当に助けられなかったのかと聞きたい気持ちが残ってはいる。

でもそんなことは言えない。言っても意味がない。ただクラム殿を苦しめるだけだ。


聞く限り彼はエフィを助けつつ、ロイドを助ける手段も模索してくれていた。それはハミルと私へ説明するだけのためだったのかもしれないが、それでも探ってくれていた。

そこまでやってでも、同時に助けることは絶対に不可能だったんだろう。


頭では理解できても、心が納得できない。あの子も私たちの子供だったから。


クラム殿とエフィが行ったあと、涙をこらえることはできなくて、ハミルは私を抱きしめてくれた。


「お母様」

娘のアリアも気遣ってくれる。私はきっと幸せ者なのだろう。

それにしても、どうしてロイドは……。


何度叱っても、何度諭してもダメだった。

きっとギード王子にもそこを狙われたのね。

今考えればそう思う。


ギード王子はエフィとの結婚を破棄するつもりで、だからロイドを焚きつけた。

そうやってエルダーウィズ公爵家との関係は維持しようとしたギード王子に利用されてしまった。


私たちがしっかりしていれば防げたかもしれないけど、例えクラム殿が後継者だとはっきり宣言したとしてもロイドは納得しないし、ギード王子は自分がロイドを公爵にしてやると言っただろう。


どうしようもなかった。

何もしてやれなかった。


いつかロイドがクラム殿に挑んで負ける。その時に助命だけは願い出るつもりだったけど、私が残ってしまった。

優しいクラム殿は私を救う方を選んでしまった。


友人だったシェリルの子。

幼いころから呪いを持っていたハミル。彼の長男は呪いを引き継ぐ。だから誰かがハミルの長男を産むことになった。

それに選ばれたのはシェリルだった。

"魔女"の見立てによると、彼女の子であれば、半々の確率で呪いはその子を救う。


結果、シェリルの子であるクラムは呪いに打ち勝った。

さらに特殊魔法まで手に入れた。その経緯は知らないけども。


割を喰ったのはロイドだ。だから私はどうしても彼が可哀そうに思えてしまった。


それでも努力をしないのは違う。

ただ不満を口にし、悪しき計画に協力するのも違う。

彼は間違った。


それを正すことができなかった私は、一生これを抱えて生きていく。

それだけはクラム殿にも許してもらおう。



***

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