第31話 しっかりはっきりと自分の想いをエフィに伝えた件①

ようやく落ち着いた。

魔狼が崩した王城の処理は終わり、暫定政権はとりあえず政治を安定させ、次代の国王を決めるために動いている。


そんな中で、また一つ、俺の中に懸念事項が増えてしまった。


なんで俺が次期国王候補なんだよ!?


嬉しそうに、そして自信満々に『クラムを次期国王候補として正式に推薦したからな』とか言い出したからつい怒鳴ってしまって申し訳ない。

今、父さんは部屋の隅っこでシュンとしているが、俺は失言をしてしまった。『俺はエフィを守るんだ』って。


「クラム殿。何も言わずに話を進めたハミル様の落ち度はありますが、ただ通常は名誉な話です。軽々しく断れることでもないことはわかってくれると思います。1つ気になったのは、先ほど怒りながら叫んでいた、エフィのことです。先日の話の中でエフィのことも"人物史"で見たと言っていたと思いますが、そこを聞きたいのです」

「はい……」

別に国王になろうがなるまいがエフィのことはきちんと話さないといけない。

なぜなら俺は今真実を知っている。エフィが義理の妹であることを。


しかし父さんたちはそのことを公表していない。エフィ自身にも。

だから現時点で俺の結婚相手の候補にエフィは入っていない。


「クラム殿が結婚を避けているのはエフィのことがあるからですか?」

ミトラ様が的確に指摘してくる。


「私の……?」

エフィ自身は首を傾げている。当然だ。彼女も知らないんだから。


「ミトラ様、俺はもちろん知っています。"人物史"でエフィを見ているので」

「そうなのですね。それで……。本気ですか? 思い付きとか、その……憐憫とかではないのですね?」

「もしそんなことを言われたらブチ切れるくらいには本気です」

確認なのはわかっている。だが、心の整理がつかない。そんなことは言われたくない。俺がエフィに抱く感情は敬意と愛情であり、決して憐憫ではない。


「すみません。本気ですね。では、ハミル様……は、使い物にならないようですね。まったく……」

「すみませんでした」

怒りから放出された魔力が父さんの方に流れたらしい。ノックアウトしていた。すみません。



「あの……どういうことですか? 私の?」

エフィが不安そうに聞いてくる。


そりゃそうだよな。エフィの過去に何かあるって言われたようなものだ。

だから家族みんなでこの話をするつもりだったんだ。


「俺が説明しても良いですか?」

「そうですね。見たことを語ってもらえれば捕捉します。知っている限り、になりますが」

「ありがとうございます」


俺は不安そうなエフィの頭を撫でて落ち着かせながら話した。


もちろん、エフィが俺の義理の妹であることを。



「「えぇ?」」

当然驚かれた。末の妹のアリアも一緒に驚いていた。なんでだ?


「私とお兄様やお母様、アリアとは血のつながりがないのですか?」

「いやっ」

エフィが驚き、アリアがエフィに抱き着く。

そう言えば君たち仲いいよね。仲いいからこそ、もう消えてしまった世界線ではアリアの言葉にエフィがショックを受けたんだろうな。


「全部話すから、落ち着いて聞いてくれ。なっ」

「わかりました。すみません」

「早くしなさいよ!」


そして俺は話を続ける。


エフィが"魔女"の娘であること。

"魔女"は先先先々代(だっけな?)のエルダーウィズ公爵の妹であることから、血のつながり自体はあること。そして、魔法で若い姿を保っていた"魔女"が死期を感じて作った子がエフィであること。

"魔女"が亡くなりエルダーウィズ公爵家でエフィを引き取ったこと。

エフィには時期を見て説明するはずが、ハミルが日和って言えなかったこと。


「お父様の腰抜け!!!」

「あうっ、ごっ、ごめん、アリア。ごめん、エフィ~」

結果、意識を取り戻した父さんがアリアに怒られている。いや、蹴られている。



「ちなみに、エフィのお父様については情報がなくて、我々も知らないの。もしわかれば、その方にお預けするのがいいという話はあったのだけども」

ミトラ様はエフィを覗き込むようにして話してくれた。


「そうだったんですね……。私……ここが好きです。育ててもらってありがとうございます」

「エフィ……」

その言葉に騒いでいたアリアと父さんも静まる。

ここからは俺の番だろう。


「俺は"人物史"の内容を見て、誓ったんだ」

「お兄様……クラム様?」

「クラム殿……」

ショックを受けているであろうエフィに畳みかけることになるかもしれないが何も言わずにはいられない。


なにせ俺はエフィに寄り添いたいんだから。

天才たるエフィに好きなように魔法を触らせ続けたいし、邪魔するバカは蹴散らしたいんだから。


「俺はずっとエフィを守るってな。何があっても」

「……」

「なによ、クラムのくせにカッコいいじゃ……むぐぅ」

空気を読まないアリアの口を強制的に閉じさせたミトラ様に目線で感謝する。


「エフィは俺がいろんな選択肢から今のものを選んだんだろうって言ってくれたよな」

「はい」

「君の言う通りだ。俺は何回も何回も"人物史"を使った。まだ話していなかったと思うけど、"人物史"は仮の未来も見れる。いや、見れるようになった。何回も同じ人物に使うことで。でもどうやってもギード王子やロイドは酷かった。婚約破棄するのはほぼ確定で、しなかった場合は魔狼の餌にするか、魔石収賄の責任を被せて処刑するとか、敵国と戦争になった際に人質に渡すとか、敵国の軍に挑ませて敗戦の責任を負わせて処刑するとか、そんなのばっかりだった」

ごめん、感情を抑えられていない。

思い出すだけでムカつく。


「お兄様……」

「クラム殿……」

「クラム……」

3人とも静かに聞いてくれている。


「だから婚約破棄はスルーさせてもらった。そうすると出てくるのは家族に責められて君が家出してしまう未来だった」

「……だから私たちを旅行に出したのね」

やはりわかっているよな。

"人物史"を持つ俺が違和感しかない形で旅行に行って来いなんて言えば、何かあると感じるだろう。

まぁ、魔狼のことがあったから結果的に父さんの命も救ってるから、勘弁してほしい。

 

「はい。強引ですみませんでしたミトラ様。でも、落ち着いた後には3人が後悔するのも知っていたから」

「ありがとう。家族の仲も守ってくれたのね」

「起きなかった事ですから、どうかはわかりませんが……」

そう、人によってはこう言われる。

俺が嘘をついている。そんな起きもしない未来なんてなんとでも言えると。

 

「そんなこと気にしないの。本当に私たちは子供に助けられてばっかりね……」

でも、少なくともミトラ様はそんな人じゃなかった。

寂し気に、でもはっきりと『ありがとう』と言ってくれた。

 

「いえ。そんな感じで、君の障害になることは全部避けるか蹴散らすつもりだった。実際にそうした。だから自分のことを卑下したり、家族じゃないなんて思わないで欲しいんだ。君は俺の家族だ」

それだけ言ってまたエフィの頭を撫でた。

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